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ラーズの場合
その4
しおりを挟む冒険者ギルドで話していた次の日、黒衣の青年こと不死王とラーズは一緒に並んで歩いていた。
目的はもちろん、ラーズの剣の成長の為だ。
「しかし、本当にこの街にそんなすごい剣士が居て、俺なんかに教えてくれるのか?」
ラーズが青年へと不安そうに疑問を投げる。
「多分大丈夫だろう…」
「多分って…まぁ、いいけどな」
青年のぶっきらぼうな答えに、ラーズは不安を隠せないまま、とりあえず着いて行くのだった。
「───って、ここは城じゃないか!?。なんでこんなところに来てるんだよ!」
「…剣を習いたいんじゃなかったのか、お前は?」
ラーズが質問するが、青年は逆に不思議そうに疑問を投げてきた。
「いや、確かに城になら強い剣士も居るだろうよ!。でも、俺達なんかの一介の冒険者が、そうそう城に入れるわけないだろう!」
ラーズが不満をブーブー漏らしてるのも気に掛けず、青年は門横の見張りの兵士へと近寄っていく。
「トロール王に会いたいんだが、いいか?」
「あ、シェイドさん、お疲れ様です。シェイドさんが会いに行かれるのは問題ないのですが、後ろの方は?」
兵士が見慣れない冒険者を、不審そうな目で見ている。
「俺の付き添いって事で、一緒に入れたいんだが…?」
「そーですか…本当はあれなんですけど、シェイドさんがついてるなら問題ないでしょう。いいです、お通り下さい」
不死王は「すまんな」とだけ兵士に声をかけてツカツカと城に入っていく。
「おいお前、行かんのか?」
城内から声をかけられてハッと我に返り、兵士にペコペコ頭を下げながらラーズがそそくさと青年の後ろに続いた。
「なぁ、あんたなんであんなに当たり前の様に城に入れるんだよ?」
「…色々付き合いがあるのだ、この城とは」
不死王はめんどくさそうに答えると、中庭へと迷うことなく進んでいき、ラーズはそれに続いてゆく。
「ほらそこ!。戻りが遅いぞっ!。剣を振る事より戻る事をまず考えろ!」
「「「はいっ、わかりましたっ!」」」
兵士達の前で教鞭をとっている老騎士っぽい男性が、厳しく檄を飛ばしている。
「剣を習うのは、あの老騎士様なのか?…って、どこ行くんだよ、あんたっ!?」
青年は兵士の集団の横を抜け、巨大なオブジェの前で立ち止まった。
「トロール王よ、すこし時間をいいか?」
ラーズが「こいつは何をやってるんだ?」と疑問していると、オブジェだと思っていた巨大なものがこちらに首を回した。
「おぉ不死…ではなくシェイドか。今日は何用だ?」
(…で、でけぇ。これがトロールか…!?)
ラーズは初めて見るトロール族に言葉を失っている。
トロール王は普通のトロールより更に一回り大きく、まさに巨人としか言いようのない雰囲気で周囲に風格を漂わせている。
「ちょっとこいつにも、剣を教えてやって欲しい」
不死王は後ろのラーズを親指で指さす。
トロール王は「ほう?」と興味深そうにこちらを見てくる。
そして、横に立てかけてあった巨大な木製の剣を取ると、ラーズに声をかけた。
「とりあえずお前の腕を見せてもらおう。少年よ、剣を抜くがいい」
「え…ちょっとあんた、いったい何を?」
ラーズは青年へ戸惑いを隠せないまま話しかける。
「とりあえず相手をしてくれるというのだ、ドーンと胸を借りろ」
不死王が投げやりにラーズへと言う。
ふと気付けば、向こうで訓練中の兵士達が、どこか羨ましそうにこちらを見ていた。
「じゃ…じゃあ行きます…」
ラーズが剣を抜き、ドタバタとトロール王へと剣を振る。
トロール王は少しだけ摺り足で動きながら、いとも簡単に木の剣でラーズの剣を捌いていく。
それからラーズは何度も剣を振るも、ただの一度も当てる事が出来ないままゼーゼーと息を切らしてゆく。
暫くして動けなくなって地面に倒れ込むラーズを見ながら、トロール王は腕を組んでなにか考えていた。
「…で、どうだ?。こいつの剣は?」
「ふむ…とりあえずひどいな。よく今まで生きてこれたものだと、逆に感心する」
分かり易いダメ出しに、ラーズは地面に倒れたまま、がっくりと肩を落とす。
「…それで、少しはマシになれそうか?」
「これだけひどいなら、伸びしろはいくらでもある。もしかしたら結構面白い剣士に化けれるかもしれんぞ?」
不死王が少しだけ楽しそうに「そうか」と答える。
未だ倒れたままのラーズは、2人から散々ないわれをされながらも、もしかしたら強くなれるかもと、かすかな光に目を輝かせていた。
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