テトテヲトッテ ～杖と拳と時々亜人～

最終話 とある都市伝説

その１７

　

───最近、ある界隈でまことしやかに語られる一つの噂がある。

それは『農業を頑張ると美しい嫁が手に入る村がある』という、荒唐無稽な話だった。



そんなバカげた話だというのに、それなりの信憑性があるらしいと人々は噂を口にする。

なんと一人だけどころか、既に数人が嫁を得ているというのだ。


そんな噂を聞き、街に出稼ぎに出ていた若者が出戻ったなんて事も。

それどころか、新規就農でわざわざ村へと向かう若者も、少なくはないという話すらある。



そして働き手の男性はスラっとしたイケメンとかよりも、より体を鍛えていた方がいいらしいと人々が言う。

もしかしたらこれは、より良い農家の後継ぎを得る為に、村を憂いた誰かが意図的に流した噂なのかもしれない────それは誰にも分からない。



「───というわけで、最近生まれたローズなのじゃ」

「ローズと申します。シェイド様、マレット様、これからよろしくお願いします」

ローズと呼ばれた黒髪の夢魔の女性が、少女達に頭を下げる。


「しかし、デイジーに続きこんな短期間で次の子が生まれてくるなど、これだけ生きてきて初めての事なのじゃ」

夢魔王は驚きを隠せない様子で言葉を漏らす。

「前に話を聞いたところ、村の夢魔の方々が幸せだから、生まれてきたのだと言ってましたの。それは良い事ではありませんの？」

少女が不思議そうな顔をして夢魔王を見る。

「それは儂としても大歓迎なのじゃが…でも、人の事は良く分からんが、本当に良いのじゃ？」

「それは全然問題ありませんの」

少女は胸を張り、夢魔王へと自信満々に返す。


「小さいと言っても、それなりに人は住んでる村ですの。それに、まだ独り身の方もたくさんいますし、受け入れてくれる家はまだまだあると思いますの」

夢魔王は「ならいいのじゃが…」と、少しだけ不安そうに言う。

「それに、何かあったらホーガンさんが言ってくれると思いますの。なのでピーディーさんはあまり気にしないで良いと思いますの」

「…そうか？。ならばローズを頼んだのじゃ。お前も良い相手に出会えるように頑張るのじゃよ？」

ローズは自分の姫に「はい、わかりました」と深く頭を下げる。


そんな新しい子へと、夢魔王は応援の言葉をかけ、手を振り見送る。

そして少女と不死王に連れられて、３人はルビナの村へと向かい歩き出した。



───最近、ある界隈でまことしやかに語られる一つの噂がある。

それは『農業を頑張ると美しい嫁が手に入る村がある』という、そんな荒唐無稽な話。


自分達がそんな噂の原因であり、結果的に村へ活気を与えてるなどとは、３人の誰も思いはしていないのだ。