男装麗嬢の麗しき日常

Ryo

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男装麗嬢の麗しき日常

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 夜会が始まって早々に別室へ姿を消した4人に、少ない視線が向けられていたが、伴っているのが王妃である為に誰からも声は上がらない。


 広間のすぐ横にある小部屋へ入った王妃ドロシーが、3人に着席を促す。

 普段なら主であるベアトリスの後ろに控えるアレクサンドラは、微妙に落ち着かない気持ちのまま母アリアドラの横に腰掛けた。


 ドロシーの隣にはベアトリスが座り、ベアトリスとアレクサンドラが対面になる席順だ。



「もうビーったら、私にも教えてくれても良いではないの?」



 可愛らしくムッとした表情を娘へと向けたドロシーの様子に、アリアドラが楽しげにクスクスと笑う。



「あら、それはごめんなさいね。私が秘密にしてねってお願いしたの」

「アリア……私達の仲で隠し事はなし、でしょう?」

「ちょっとしたサプライズのつもりだったの。どう? 驚いてくれたかしら」

「それなら大成功ね! とっても驚いたし、とっても素敵よ。アレックスもやっぱり女の子ね」

「ありがとうございます」



 ニッコリと笑顔と共に賛辞を贈られ、長い付き合いでそれが心から思っていることだと察せられるアレクサンドラは、恐縮しつつも照れ臭そうな笑みを浮かべた。

 騎士服を身に纏っている時は、本人も意識しているのか、とても凛とした振る舞いをするので、こういった仕草はなかなかに珍しい。


 その様子を微笑ましく眺めていたベアトリスは、改めて自慢するべく母のドロシーに向き直る。

 ドロシーがアレクサンドラを娘のように可愛く思っていることは、王家の一同には周知だった。



「ずっとアレックスとお揃いのドレスを着たいと思っていたのは、お母様もご存知でしょう?」

「そうね。昔からアレックスを姉のように慕っているものね」

「どうです、この髪飾りとか。さすがに本物は無理でしたけど、かなり精巧な出来だと思うの」



 立ち上がりアレクサンドラの後ろに回ったベアトリスが、彼女の髪に飾られた、神樹ユグドラの枝を模した髪飾りに手をやる。


 神樹ユグドラはこの王国の象徴であり、とても神聖なものだ。

 それに触れることが許されているのは、王家の中でも選ばれた神子と役目を担った者のみ。


 当代の神子であるベアトリスのみが許される装飾だが、それを模した物は多くある。


 王国の名物土産でもある神樹を模した品物だが、それはあくまで職人が持つ神樹のイメージ。

 アレクサンドラの付けている髪飾りは、ベアトリスが実際に付けている本物の枝を見本にさせ作らせた、土産職人泣かせな逸品だ。


 作ったのは王家御用達ごようたしの職人で、これまでも多くの逸品を納めている。



「確かに良く出来ていますよねぇ。私も初めて見た時は本物かと思ってビックリしちゃった」



 隣の席からマジマジと覗き込むおっとりしたアリアドラの言葉に、ドロシーもうなずく。



「えぇ。あの職人には、これからそういった装飾も頼みましょう。城に飾らせる物も作らせましょうか」

「もうっ。お母様ったら、今はアレックスを褒める時間ですよ!」

「あら……ふふ、そうね。ふふ」
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