巫女様は魔王軍に志願します!

Ryo

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異世界召喚編

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 ちょっと冷たいながらも、身体を汚れを落とせて満足した水浴びを終え、陸に戻る。
 下着に手を触れると、願い通りそれなりに乾いていた。これなら着れるな。
 手早く下着を身につけ、制服に腕を通す。濡れた髪は……仕方ない、出来るだけ絞ってスカーフで拭いてしまおう。
 さて、と隣で転がっている男性へと目を向ける。相変わらず、綺麗な顔で眠っていらっしゃるよ。
 本当は着ている物も乾かしてあげた方が良いんだろうが、これでも年頃の女子。見ず知らずの男性の服を脱がせるのは、ちょっと。
 大事なのでもう一度言う。たとえ人目がなければ昼間から川で水浴びしようと、私も年頃の女子なのである。
 とりあえず、近くに腰を下ろして目が覚めるのを待つことにした。
 する事もないので、相手が寝ているのを良いことにジーッと顔を眺める。見れば見るほどイケメンだなぁ。モデルさんのようにスタイルもよろしいようで。
 しかし、この首のところにある……タトゥ? のようなものは、どうもこの人には似合わないような。
 まるで首を切断するかのような、ギザギザとした黒い模様。それが男性の首を一周、描かれている。
 それに……何となくだけど、嫌な感じがする。何が、と言われるとよく分からないが。
 何をしようとしたわけでもないが、無意識に男性のその首へと手を伸ばし、少しだけ指先が触れる。
 するとーー。

「あ、あれ?」

 ……見間違いか? なんか、模様が薄くなったような……?
 もしかして、水に弱いタイプのタトゥ(?)だったの⁉︎ やば、勝手に消しちゃったよ!

「大人しくしてよう……」

 体育座りで待つ所存です。反省も込めて正座したいところだが、下が砂利と小石なので諦めました。さすがに痛い。



「ーーん……」

 体育座りで10分ほど。暇さに耐えきれず、手元の小石を川に投げる遊びをしていると、隣から微かに声が。
 視線を横に向けると、薄く開いた瞼の下から覗く琥珀色の瞳。おぉ、人間とは思えない色だ。綺麗な色だなぁ。
 目を細めたまま、少しボンヤリとした様子だった男性。しかし、その瞳が側に座っていた私へと向くと、目を見開いて飛び退いた。

「ちょっ、そんなすぐ動いたら危ないですよ!」

 さっきまで死にかけていた人とは思えない動きだったよ。思わず私までビクついてしまった。
 そんな私に、彼は何故か鋭く睨みつけるような視線を向けてきた。

「……誰だ、貴様」

 おぉ、イケメンは声もイケメン。というか美声。低音の心地いい音が耳に優しいね。めっちゃトゲトゲしい声音だけど。

「私は遠野美夜といいます。川に来たら貴方が流れてきたので、勝手ながら拾いました」

 そう、さながら某昔話のように。拾ったのはおばあさんじゃなく、流れてきたのは果物じゃないけど。
 とりあえず、ペコリと頭を下げておく。警戒されているようだし。敵意はないですよアピール。
 飛び起きた男性は、まだ私を警戒しているようだけど、それでも少しだけ視線の険は薄れた気がする。

「……感謝する。しかし、貴様は人間だろう。何故、俺を助けた? それにその髪と瞳は……」

 訝しげな相手の様子に、私も首を傾げる。そういえば、おっさん王も私の髪と瞳をなんか言っていた気がするけど、私は至って普通の黒髪と黒い瞳だ。日本人なので。
 それに「人間だろう」って、どういう?

「髪と瞳も生まれつきこんなですけど……」
「馬鹿な……人間でありながらそれほどまでの黒を有しているなどと…………っ! まさか、貴様【黒巫女】か⁉︎」
「く、黒巫女……?」

 え、何ソレ。黒って、巫女のイメージに合わないんだけど……。
 確かにおっさん王達には「巫女様」として召喚されたんだけど、本当に私がその「巫女様」に当てはまるのかは分からないしなぁ。
 なんかこう、凄い力を持ってそうだよね。しかし、私にそんな不思議能力ありません。

「すみません、その黒巫女というのが何かよく分からないんですが、私には凄い力とかないので。ただのか弱い女の子なので」

 だから、そんな今にも攻撃しそうな体勢勘弁してください。
 相手も、見るからに戦闘能力のなさそうな私の見た目に、とりあえず普通に座ってくれた。

「私にとっては黒い髪とかって珍しくないんですが、こっちでは違うんですか?」
「……黒を有するということは、つまり魔の力が濃いということ。人間ならば、白に近い色を有しているのが当たり前だ」
「ほうほう、面白い特徴ですねぇ。でも、貴方もその髪、どっちかといえば黒寄りですよね? 瞳は綺麗な琥珀色だけど」
「俺は人間じゃないから当然だ」

 なんと。人間じゃない?

「いや、どっからどう見ても人間なんですが……」
「…………俺は、魔人だ」
「魔人?」

 というと、アレかな? 人間の形をした魔物的な? ヴァンパイアみたいなものか。

「なるほど。それは失礼しました」
「……警戒しないのか」
「警戒したって勝てないですもん」

 だから私に戦闘力なんてないんだって。
 あっけらかんとした私の態度に、何故かあちらさんに呆れたような顔をされた。
 そして、無意識なのだろうが首元に手をやった様子を見て、さっきの事を思い出した。

「あっ! そういえば、その首の模様みたいなの、寝てる時にちょっと触ったら薄くなっちゃいました! ごめんなさい!」

 慌てて謝罪と共に土下座。もう足が痛いとか言ってらんないよ。

「なに……? ……!?」

 私の言葉に怪訝そうな顔をしたと思ったら、ハッと目を見開いて川へと駆け寄る男性。
 水面に反射した自分の姿を確認したのか、呆然と首元に手をやったまま固まってしまった。
 あぁぁぁ、もしかして凄く大事なものだった!? それとも、タトゥみたいにお金がかかるやつだったとか!? 私まだこの世界のお金とか持ってないよー!
 後ろでワタワタと焦る私に気付いた様子もなく、暫く硬直していた彼だったが、唐突に振り向くと今度はこちらに駆け寄ってきた。
 ギョッとする私の前に膝をつくと、片手を取られて相手の首元に持っていかれる。
 すると、触れた途端にまた段々と薄れていく模様。

「あぁぁあのあの! また薄れちゃってますよ!」

 どんな原理か分からないけど、良いのか⁉︎
 アワアワする私を気にすることなく、首元に手を当て続けさせる男性。
 1分程が経過したところで、男性の首から模様が綺麗になくなっていた。

「あちゃー。消えちゃいましたよ?」
「……本当か?」
「はい、綺麗サッパリ」

 目を凝らして見ても、もう影も形もない。
 そう答えると自分の目でも確かめたいのか、また水辺までフラフラとした足取りで向かうと、水面に映る距離で膝を折った。
 そして、水面を見下ろした姿勢で固まる。驚いたように目を見開いてーーその瞳から、スッと涙が溢れた。

「えっ⁉︎ だ、大丈夫ですか⁉︎」

 思わず駆け寄って、ポケットからハンカチを取り出す。が、それは昨夜地面に敷いていたので綺麗とは言い切れず。
 慌てて川の水で洗って絞り、バサバサと乾かす。何これ凄いダサいよ私。
 ある程度水分を飛ばしたハンカチで、今度こそ男性の目元にハンカチを当てる。
 大人の、しかも男性が目の前で泣くなんて経験がなくて、どうしていいのやら……。

「……」
「あの……良かったんですか、その……」
「…………これは、望んでつけていたものじゃない」
「あ、そうだったんですか。勝手に消してしまったのかと」
「……本当に何も知らないのだな。『隷属の首輪』は貴様ら人間が生み出したものだと言うのに」

 『隷属の首輪』って、何その不穏すぎる響きのものは。

「すみません、そこんところ疎いもので」
「貴様が本当に異世界から来るという【黒巫女】なのだとしたら、それもおかしな事ではないか」
「おぉ、異世界から来るって知られているんですね! 説明するにも頭がおかしい奴だと思われるんじゃないかと思っていましたよ」
「……その髪と瞳がなければ、そうなるだろうな」

 髪を金髪に染めようとして辞めた過去の私、グッジョブ!
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