巫女様は魔王軍に志願します!

Ryo

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異世界召喚編

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 とりあえず砂利の上にずっと座っているのも痛いし、お互いの服がある程度乾いたところで移動。
 まだ警戒されているようだが、男性は大人しくついて来てくれた。
 帰り際にまたあの甘い実を取って食べつつ(何故か男性がとても驚いた様子で実を見ていた)、昨晩明かした洞穴まで戻ってきた。

「……なんだ、ここは」
「いやぁ、実は私、逃亡中の身でして」

 訝しげに洞穴を見回す男性に、私がここにいる経緯を話す。
 カルフェルノンとかいう国に召喚されたこと、身勝手な召喚先にキレて脱走したこと。
 そして、いかに私が大学生活を夢見ていたかを重点的に説明した。大事なことだからね!

「そのダイガクとかいうものは良く分からないが……つまり、貴様は人間の協力をする気はない、と」
「少なくともカルフェルノンには復讐する気しかありませんね!」

 どうやってとか、そういう細かいところは追々考えるとしても、そこは決定事項なわけで。
 別に国を滅ぼすとまではいかないにしても、爪で引っ掻くくらいの傷は与えたいところです。
 私の話を黙ってきいてくれた男性は、私の勢いにちょっと引き気味ではあったが、本気度は伝わった模様。
 そういえば、名前聞いてないな。私は名乗ったのに。

「すみません、魔人さん。お名前を聞いても?」
「……何故だ」
「私は名乗ったのに、そちらは名乗らないのは不公平じゃないですか」

 いきなり威嚇する野生動物みたいな視線を向けられたが、こちらは呆れた視線を返すのみ。

「別に仮名でも偽名でも良いので。不便なんですよ、呼び名がないの」
「………………キルア」

 かなり間があったけど、何とか名前を教えてもらえた。本名かは知らないが。

「では、キルアさん。これからのご予定とかありますか?」
「…………魔族の土地へ帰るが」
「私も連れて行ってください!」
「………………は?」

 ガバッという効果音が出そうな勢いで頭を下げた。土下座です。心からお願いしてます。
 私の行動にポカンと呆けた表情を浮かべていたキルアさんだったが、また警戒の色を濃くされたようで。

「そうやって、こちらに紛れ込もうという作戦か?」
「いやいや、違います。先程も言ったように、私は私を召喚しやがった国に復讐したいんです。でも召喚されたばかりで、行く宛もない。知り合いなんて以ての外。
 キルアさんの話だと、私のこの黒髪黒目は人間の中じゃ浮いちゃうだろうし、それならいっそのこと、敵側に着いちゃおうかと」

 お世辞にも頭が良いとはいえない私なりに考えた答えです。
 魔人のキルアさんの外見はほとんど人間と変わらない。それなら私が紛れてても違和感なさそうだよね。
 ジッと私の目を見て嘘じゃないか探っていたようだが、暫くすると本気だと分かったのか呆れたように溜息をつかれた。

「貴様……人間への執着とか、魔族への嫌悪とかないのか」
「人間だろうと嫌いな人は嫌いですし、そもそも私のいた世界に魔族とかいなかったので偏見とかないです」

 そもそも、いきなり召喚された先で「敵をやっつけて!」なんて言われても、私にとっては別に敵でも何でもないわけで。
 いくらかれらの被害を語られようが、正直にいって私には全く関係のない話。
 というか自分達の世界のことは自分達で解決してもらっても良いですか? 古文書とか知らないから!

「そういうわけなので、敵の敵は味方と言いますし」
「……しかし…………いや……」
「やっぱり魔族の土地に人間が入るのって不味いですか?」
「……魔王軍にも人間は、いる。お前のように人間でありながら、黒を濃く宿したせいで人間から弾かれた者らだ」
「え? そんなことがあるんですか?」

 黒髪黒目の私を召喚して喜ぶのに?

「人間は本来、魔の力とついとなる聖の力を宿しているものだ。だから黒を持った人間は、魔族に近い忌子いみことして扱われている」
「えぇぇ……じゃあ、私は?」
「俺も詳しく知っているわけではない。ただ、魔王を討つには魔の力と聖の力がなければならない、と信じられているようだな」
「その言い草からして、実際は違うんですね」
「……俺の知る限り、魔王アレを討つなんて無謀だと思うぞ」

 少なくとも人間には、とキルアさん。
 魔王って……魔族のトップだもんね? ゲームとかRPGのボスといえば、の存在だけど。
 実際にどれくらい強い? となると分からないなぁ。そもそも私にとって魔王とか架空の存在だし。

「その魔王様っていうのは、人間嫌いとか、そういうことあります?」

 そのせいで、出会った途端に殺されるなんて嫌だよ?

「……ない、と思う。アイツは……」

 何かを言いかけ、そのまま口を閉ざしてしまった。
 アイツ、は魔王様のことだよね。キルアさんは魔王様と近しい人だったのかな。

「あ、別に言いたくないことは、無理に聞かないので大丈夫です。出会い頭に殺されなければ」
「それはないだろう。いや、判らんか」
「え?」
「魔王自ら、ということはないだろうが、側近にうるさいのがいる。ソイツらに遭遇したら、それなりに面倒なことにはなるだろうな」
「あー……」

 いわゆる過激派っていう奴らですね。魔王信者とか? いや、魔族至上主義の方かな?

「他にいる人間の方、というのは?」
「別に魔族にとって害となるのでなければ、問題ない。ただ、貴様は黒巫女だからな。これまでの仇敵きゅうてきを受け入れるかどうかは、また別の話だ」
「そうかぁ」

 そうだよねぇ。人間側からすれば、魔王様が人間に味方するようなもの? 怪し過ぎるわ、それは。そりゃあ、キルアさんも警戒するよねぇ。
 うーん、と唸りながら帰り際に取ってきた甘い実を口に放り込む。
 それを、キルアさんが怪訝そうに眺めていた。

「ん? キルアさんも食べます?」

 どうぞ、と数個の実を渡す。
 私から渡された物だから警戒しているのか、近くで観察したり匂いを嗅いだりしていた。

「甘くて美味しいですよ。さっき私が取っているの見てましたよね?」
「……貴様、これが何か判っているのか?」
「いえ、初めて見ました。ただ、お腹空いていたのと、食べられそうだなぁって思って。あっ! もしかして、本当は食べたら拙い物だったとか⁉︎」

 遅れて体に異常が出るとか⁉︎ それとも、私が気付いていないだけで、もうどこかに異常が⁉︎
 慌てて身体中をペタペタと触り出した私を呆れた顔をしつつ、キルアさんはポイっと実を口に入れた。

「あ、なんだ。食べても大丈夫なんですね」
「これは宝珠の実と呼ばれるものだ。数年に一度、どこに成るかも判明していない珍しい果実で、市場には出回らない。王侯貴族ですら、手に入れるのは難しい」
「へぇ~。ただの甘い実じゃないんですねぇ」
「……本当に知らないのだな。宝珠の実は、エリクサーを作る材料だ」
「……? エリクサー?」
「霊薬の1つで、どんな怪我や病でも治せてしまう薬のことだ」
「へぇ~」
「不老不死や蘇生にも効果がある」
「へぇ⁉︎」

 ふ、不老不死⁉︎ そ、蘇生⁉︎
 そんなヤバイものを作る物を食べていたの⁉︎

「そ、それって、普通に食べても……?」
「問題ない。かなり勿体無いが。むしろ身体に良い」

 これしか食べてないのに、お腹が満足しているのも、それと関係があるのかな。
 ……すごい少食になったのかと思ってたよ。いや、ダイエット効果ありそう……?
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