『悪の幹部ですが、正義のヒーローの愛が重すぎて殉職しそうです』

るみ乃。

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第6章 組織の疑念とスパイの影

30.共犯者の夜、愛の行方

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 静寂は、思ったよりもうるさかった。
 換気の微かな音。
 照明の低い唸り。
 それから……背中に回された腕の、はっきりした温度。

「はいはい、分かってますって。
 今、“甘いの食べたいなー”って思ってたでしょ?」

 差し出されたパンケーキセットを、
 俺は何の抵抗もなく受け取ってから、内心で舌打ちする。

 最初は鬱陶しかったはずの“お世話”は、
 気づけば……慣れてる。完全に。
 光希の動きは無駄がなくて、静かで、
 なぜか落ち着く。

「包帯替えますよー。動いたらダメですからねー」
「……はいはい」

 返事まで、軽くなっている。


「瀬戸さん、ここでちゃんと眠れそうですか?」
「ああ……たぶん」

 即答した自分に、一瞬だけ驚いた。
 ベッドに横になる。
 照明が落ちる。
 てっきり、ここで離れると思ったのに。

「……何してる」
「添い寝です♪」

 当然、という顔で隣に腰を下ろされ、
 次の瞬間、腕が回ってくる。
 背中に伝わる体温。
 逃げようと思えば、できた。
 でも――しなかった。

「……お前を、こんな執着系ヒーローに育てたの、俺なんだ……」

 半分冗談、半分本音。
 光希は、くすっと笑った。

「ええ。ですから責任、取ってください。」

 唇が、触れる寸前で止まる。
 わざとだ。逃げ道を残すふり。

「僕の共犯者として」

 そのまま、深く口づけられた

 ……共犯者。

 息を奪うようでいて、急がない。
 舌が触れるたび、確かめるみたいに角度を変えてくる。

 逃げようと肩に力を入れると、
 背中に回った腕が、ぎゅっと強まった。

「瀬戸さん……動かないで」
「……っ」

 顎を取られて、あっさり失敗する。
 また、唇が重なる。今度は深く、長く……

 呼吸のタイミングが分からなくなって、
 どこまでが自分で、どこからが相手か曖昧になる。
 熱いのに、乱暴じゃない。
 大切にされている感触が、逆に厄介だ。

 ……まずい。
 そう思うのに、離れたくない。

 後頭部に回された指は、
 逃がさないためじゃなくて
 “ここにいて”と伝えるみたいで。

 唇が離れたあと、額を合わせたまま、
 名残惜しそうに、でも満足そうに光希が囁く。

「今夜は、ここまで。
 ゆっくり、僕のことをしってください。」

 息が、近い。

「ほら、もう、そんな顔して」
「……うるさい」

 掠れた声が、自分でも分かる。
 光希は、楽しそうに目を細めた。

「共犯者ですから」

 そう言って、
 もう一度、軽く唇に触れる。

 今度は、確認の印みたいに。
 胸の奥で、何かが静かに折れた。

 これは、捕まった夜じゃない。
 選んでしまった夜だ……
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