『悪の幹部ですが、正義のヒーローの愛が重すぎて殉職しそうです』

るみ乃。

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第7章「仮面都市の祝祭」

34.甘さの奥の、夜に隠れて

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 曲は、もう終わっているのに……
 二人の間の時間だけが、妙に先へ進まない。

 拍手と歓声が遠くで弾け、
 広場は祝祭の熱に包まれ、
 人の体温、灯り、酒の匂い。
 すべてが混ざり合っていた。
 
 どうして俺だけ……。
 手は、まだ繋がれたままだ。

「……あれ?」

 光希が、首を傾げる。とぼけた声色。

「まだ、掴んでましたね」
「……今気づいたみたいに言うな」

 絶対、分かっててやってるだろ

「えー、本当ですよ?」

 そう言いながら、指は解かれない。
 むしろ、指の腹が、確かめるみたいに擦れる。

「うっかりです」
「その“うっかり”が一番信用ならない」
「ひどいなあ」

 距離は一歩も離れない。
 音楽が止んだせいで、余計なものが耳に入る。
 布の擦れる音。指先が触れる微かな感触。
 それから…… 自分の、やけに情けない呼吸。

「……息、荒くないですか?」

 やめろぉ……今それ言う。
 指摘されると、急に自覚するだろ
 
「誰のせいだと思ってる」
「さあ?」

 すっと、視線が下がる気配。
 仮面越しでも分かる。逃がさない視線。

「そんな顔、するんですね」

 淡々とした声。
 ……そんな顔って、どんな顔だ。
 自分じゃ見えない分、余計に怖い。

「だ、だから……やめろって……」

 口ではそう言いながら……呼吸が整わない。
 胸が大きく上下し、吸った息が喉でつかえる。
 
「拒否してるのに……
 体は、正直だと思いません?」

 うるさい……そんな分析いらないから……。
 低く落とされた声が、肌の内側をなぞる。
 背中がゾワッっとする。
 圧だけが、じわじわと増していく。
 触れられる直前の空気……

「っ……」
「怖いですか?それとも……期待してます?」

 ……最悪だ。
 図星を突かれたわけじゃない。
 でも、否定できるほど余裕もない。
 頭が真っ白で、言葉より先に、呼吸が乱れる。

「……今、離れますよ」

 ふっと、圧が消える。
 指が解かれ、腕が離れる。

「……」
 身体の奥に、熱だけが残る。
 ……おかしいだろ。
 離れて安心する場面だろ、ここ。
 

「その反応……自覚、したほうがいいです」

 祝祭の音が戻ってくる。拍手、笑い声、音楽の余韻。世界はちゃんと動いている。

 でも俺だけ、一拍遅れて現実に戻されてる。
 離れたはずなのに…終わったはずなのに。
 手の感触が、まだ残っている。
 熱も、圧も、全部、
 忘れ物みたいに身体に残ったままだ。

 まずいな。
 こいつが本気で……一歩引いたら……
 俺、たぶん……追う。
 自覚した瞬間、光希が仮面の奥で微笑む。

「行きましょう、瀬戸さん」

 その声は、さっきより少しだけ優しい。
 ……ほんと、どうしようもなく性質が悪い。
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