『悪の幹部ですが、正義のヒーローの愛が重すぎて殉職しそうです』

るみ乃。

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第7章「仮面都市の祝祭」

33.近すぎる、はじまり

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 広場の中央で、音楽が切り替わった。
 賑やかだった旋律が、ふっと肩の力を抜くみたい……
 甘くほどけて、ざわめきが一段落する。

「……来ましたね」
 光希が、やけに楽しそうに言う。

「何が」
「逃げ場がなくなる曲です。さ、瀬戸さん」

 差し出された手は、ためらいゼロ。
 俺が何か言う前に、指先をさらっと取られた。

「ちょ、踊るのか?」
「はい、もちろん♪」

 弾んだ声が、やけに甘くて。
 そのまま、指が当たり前みたいに絡められる。

「待てって」
「待ちません」

 軽いノリのくせに、握る力は案外しっかりしている。
 ……力加減、絶対わざとだ。

「それに……男同士だぞ」
「最近は男性同士のペアも人気です。映画で見ました?
 ……ま、理屈は置いといて。ほら、ステップ」

 半ば引きずられるように距離を詰められ、
 仕方なく光希の胸元に手を置く。
 布越しでも分かる鍛えられた硬さと体温、思わず息が止まった。

「えっと、次どうする」
「僕がリードします。力、抜いて」
 ……抜けるかよ。
 その直後、腰に手が回る。
 一瞬、位置を探るみたいに触れてから、ぴたりと定まる。

「……近い」
「ダンスですから」

 仮面越しでも分かる。絶対、笑ってる。

 肩が触れる。腕が擦れる。
 回転の拍子に、背中をなぞる指。

 そのたび、胸の奥がどくん、と跳ねた。
 ……心臓、うるさすぎないか。
 聞こえてないよな? これ。

「人に見られるだろ」
「見てませんよ」

 耳元。声がやたら近い……

「今夜は仮面の夜です。
 瀬戸さんが誰かなんて、誰も知らない」

 その言い方がずるい。
 知らない顔をして、全部見透かしてる。

 気が緩んだ、その瞬間。
 次のステップで、ぐっと距離を詰められる。
 胸と胸、半身がぴたりと合わさった。

「っ……」

 ……ちょっと待て、近い。
 これはダンスの距離じゃない。

「息、止まってます」

 吐息が耳にかかる。
 ぞくり、と背中が粟立つ。

「……やめろ」
「嫌ですか? 離れます?」
「いや、そういう意味じゃ……」

 あぁ、今の言い方、完全に誤解されるやつだ。
 一拍の沈黙。
 光希の声が、ほんの少しだけ低くなる。

「瀬戸さんって、嫌なことはちゃんと嫌って言うのに……
 好きかどうかは、言わないですよね」

 不意打ちだった。……なんで、そこ突く。

「は?」
「今もそうです。嫌じゃない。止めない。でも肯定もしない」

 くるり、と回されて視線が合う。

「それ、ずるいです」

 冗談めいてるのに、目は真剣だ。……ずるいのは、どっちだよ。

「……ダンスに集中しろ」
「逃げましたね」
「話題を変えただけだ」
 
 完全に見透かされているのが腹立たしい。
 光希は少し考える素振りをしてから、にこっと笑った。

「嫌なら、振りほどいてください」

 できるわけがない。手の位置も、距離も、
 今さらどう動かせばいいのか分からない。
 音楽が続く限り、
 離れる理由も、逃げる口実も見つからない。
 

「僕、こういう夜は嫌じゃないです。瀬戸さんとなら」

 軽口みたいな調子なのに、
 背中に回された手だけは、最後まで離れない
 でも、離してほしいとも、思えない自分が一番厄介だった。
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