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第8章 選ばれなかった側の影
37.観測者は笑わない(光希視点)
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警察本部の廊下は、妙なほど静かだった。
昼間のはずなのに、人の気配が薄く、足音がやけに大きく響く。
静かすぎる……
昨夜感じた、あの視線。
気のせいで片づけるには、情報の抜け方が正確すぎた。
警察内部か、デッドエンドか……どちらでもない“別の何か”。
瀬戸さんには、今日ここに、探りに来ることは言っていない。
それが正しいのかどうか、正直わからない……
まずは、どうして俺たちを監視しているのか知ることが先だ。
端末を確認し、次の部署へ向かおうとした、その瞬間。
“とんっ”
軽く、でも確実に、肩に置かれる手。
「ルミエール。随分とご執心だな、デッドエンド幹部シャドウに」
一瞬で全身が強張る。
反射的に身構え、振り向いた。
「……誰だ」
「おいおい。そんな顔するなよ」
聞き覚えのある、少し鼻につく余裕の声。
「俺だよ、光希」
「……高宮?」
名前を口にした瞬間、胸の奥が嫌な音を立てた。
忘れていたわけじゃない。
ただ今ここで出てくるとは、思っていなかった。
高宮は壁にもたれ、腕を組んでいる。
笑っているのに、その目は笑っていない。
「シャドウ、じゃないな。正確には……瀬戸さん、か」
心臓を、指でつつかれた気がした。
「……どこまで知ってる」
「さあ?」
肩をすくめる仕草は軽いのに、言葉は容赦がない。
「位置、移動経路、接触頻度。
あと――君が彼を見るときの、呼吸の変わり方」
「……っ」
「冗談だよ……半分くらいは、な」
高宮は楽しそうに笑う。
こいつ……
知っている。
知っていて、あえて曖昧に言う。
観測者の立場から、一番嫌な距離で。
「目的は何だ、瀬戸さんか、俺か……それとも」
声が低くなるのを、自分でも自覚した。
「全部、って言ったら?」
高宮は首をかしげる。
「欲張りかな」
軽口なのに、背中が冷える。
「君さ」
一歩、距離を詰められる。
「正義を守る顔してるくせに、
一人の男を守ること、もう選んでるだろ」
言い返そうとして、言葉が詰まる。
否定できない。
「それ、悪いことじゃない。むしろ人間らしくて、嫌いじゃない」
高宮はあっさり言った。
「でもね、光希。世界は、そういう選択を一番嫌う」
声の温度が、一段下がる。
その瞬間、はっきり分かった。
こいつは敵か味方かじゃない。
試している、そして、楽しんでいる。
俺の正義を。俺の覚悟を。
そして瀬戸さんとの関係を……
「次に会うときはさぁ、もう少し面白い答え、用意しといてくれよ」
高宮は踵を返しながら、軽く手を振った。
振り返らないまま、最後の一言。
「ヒーロー・ルミエール」
気配が消える。
廊下には、また静けさだけが残った。
……笑わない観測者、か。
厄介なことになりそうだな……
あいつの望みはわからないけど。
僕は………
瀬戸さんを、誰にも渡さないよ。
昼間のはずなのに、人の気配が薄く、足音がやけに大きく響く。
静かすぎる……
昨夜感じた、あの視線。
気のせいで片づけるには、情報の抜け方が正確すぎた。
警察内部か、デッドエンドか……どちらでもない“別の何か”。
瀬戸さんには、今日ここに、探りに来ることは言っていない。
それが正しいのかどうか、正直わからない……
まずは、どうして俺たちを監視しているのか知ることが先だ。
端末を確認し、次の部署へ向かおうとした、その瞬間。
“とんっ”
軽く、でも確実に、肩に置かれる手。
「ルミエール。随分とご執心だな、デッドエンド幹部シャドウに」
一瞬で全身が強張る。
反射的に身構え、振り向いた。
「……誰だ」
「おいおい。そんな顔するなよ」
聞き覚えのある、少し鼻につく余裕の声。
「俺だよ、光希」
「……高宮?」
名前を口にした瞬間、胸の奥が嫌な音を立てた。
忘れていたわけじゃない。
ただ今ここで出てくるとは、思っていなかった。
高宮は壁にもたれ、腕を組んでいる。
笑っているのに、その目は笑っていない。
「シャドウ、じゃないな。正確には……瀬戸さん、か」
心臓を、指でつつかれた気がした。
「……どこまで知ってる」
「さあ?」
肩をすくめる仕草は軽いのに、言葉は容赦がない。
「位置、移動経路、接触頻度。
あと――君が彼を見るときの、呼吸の変わり方」
「……っ」
「冗談だよ……半分くらいは、な」
高宮は楽しそうに笑う。
こいつ……
知っている。
知っていて、あえて曖昧に言う。
観測者の立場から、一番嫌な距離で。
「目的は何だ、瀬戸さんか、俺か……それとも」
声が低くなるのを、自分でも自覚した。
「全部、って言ったら?」
高宮は首をかしげる。
「欲張りかな」
軽口なのに、背中が冷える。
「君さ」
一歩、距離を詰められる。
「正義を守る顔してるくせに、
一人の男を守ること、もう選んでるだろ」
言い返そうとして、言葉が詰まる。
否定できない。
「それ、悪いことじゃない。むしろ人間らしくて、嫌いじゃない」
高宮はあっさり言った。
「でもね、光希。世界は、そういう選択を一番嫌う」
声の温度が、一段下がる。
その瞬間、はっきり分かった。
こいつは敵か味方かじゃない。
試している、そして、楽しんでいる。
俺の正義を。俺の覚悟を。
そして瀬戸さんとの関係を……
「次に会うときはさぁ、もう少し面白い答え、用意しといてくれよ」
高宮は踵を返しながら、軽く手を振った。
振り返らないまま、最後の一言。
「ヒーロー・ルミエール」
気配が消える。
廊下には、また静けさだけが残った。
……笑わない観測者、か。
厄介なことになりそうだな……
あいつの望みはわからないけど。
僕は………
瀬戸さんを、誰にも渡さないよ。
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