アルラウネの防人

来星馬玲

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SCENE4 反撥と執念

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 ロカに命じられ、彼の私用の書斎に入室してきたナヤ。不機嫌そうに手招きするロカの仕草を見て、彼女は半ば諦念の面持ちだった。

「遅いよ。呼ばれたら、さっさと飛んでくるんだ」

 ぶっきらぼうな物言い。年上の女性に対する態度としては不躾であったが、ナヤは逆らえる立場では無かった。

「申し訳ありません……まだ、お夕食の後片付けが済んでいなかったもので……」

 ナヤは深々と頭を垂れ、謝罪した。

「言い訳なんて聞きたくない」

 ロカはそう言うと、腕を組んだままそっぽを向いてしまう。ナヤは本当に申し訳ないと詫び言を繰り返したが、ロカがそれに耳を貸すことはなかった。

「さっさと始めて」

 ナヤは戸惑いながらも、ロカの要求に従う。

 この書斎は本来、ロカの祖父が利用していたものだ。その祖父が亡くなってからは、現当主であるロドロフの私室になったはずであったが、ロドロフは読書があまり好きでは無かった。

 結局、館をほとんど留守にしているロドロフがこの書斎を利用することはなく、その息子のロカが入り浸っているというのが現状であり、誰もがここはロカの私室であると暗黙の内に了解していたのである。

「ほら、本棚に埃が溜まっているだろう? 綺麗にしてくれ」

「は、はい。かしこまりました」

 ナヤは了承したが、今朝、ロカが起床するよりも早く書斎の掃除は済ませてあった。それが毎朝の日課となっていることは、ロカも承知しているはずである。

 実際の所、ロカとナヤの他は誰も出入りしていないこの部屋がそれほど汚れているはずもなく、ロカの目論見が別の所にあるのは明白だった。

 複数枚持参した乾いた布巾で、書棚とそこに収められている書籍の一つ一つを丁寧に拭いていくナヤ。所々、収納されている書籍の順番が乱れている様子も目につき、あとで小言を言われないためにも、それらをロカの都合に合わせるために並び替えた。無論、ロカが意図的に配置を入れ替えたのであるが。

 ふと、背後に人の立つ気配を感じるナヤ。ロカがすぐ傍に近づいてきているのであるが、それを意に会する様子を見せないのが、今のナヤにできる精一杯の抵抗であったかもしれない。

「ん……!」

 思わず声が出た。ロカが彼女のスカートの内側に手を潜り込ませ、臀部をさすったのである。そうなる予感はしていたので、ナヤはそれ以上は何も言わず、黙々と清掃に勤しむ。

 ロカの右手がナヤの尻をさすり続ける。やがて、ナヤの反応の無さに痺れを切らしたのか、更に下着の内側へ厭らしい手つきで侵入してきた。ナヤは羞恥心で顔を真っ赤にしながらも、無言で耐えた。

 ロカはナヤの恥部を指の先で転がし、その感触を確かめている。ナヤは太ももときゅっと密着させながら、相手から受ける次なる責め苦に身構えている。

 ぷつっ。

 鋭い痛み。ナヤは目を閉じ、下半身をぶるっと震わせた。途端、ロカの右手がナヤのショーツを拭きずり下ろし、膝の辺りに引っ掛けた。

 毟り取った数本の陰毛を見つめるロカ。その口元は、歪な笑みを形作っていた。

 ロカはナヤの陰毛を絨毯の上に放り投げると、彼女のスカートを一気にたくし上げた。そして、女の秘められた部分をまじまじと見つめる。

「あ、あの……」

 ナヤが震える声で言った。その後に何と続けたらよいか逡巡している様子であったが、ロカにはナヤの言葉に耳を貸すつもりなどない。

 ロカは二本指を突き立て、ナヤの膣内を弄った。ナヤは耐え切れないとでも言うように自らの両肩を抑えたまま膝を折り曲げ、尻肉をこすり合わせている。

「おい、手が止まってるよ。書棚を綺麗にしてくれるんじゃなかったのか?」

 己の行為を棚に上げ、ナヤを責めるロカ。

「は、はい……申し訳ありません」

「ふん、そればっかりだな、お前は」

 ずん。

「うあ……あぁっ!」

 より深く挿入された指によって子宮頸部を圧迫され、鈍い痛みが下腹部の内側を奔った。ナヤは今にも泣きだしそうな表情をしているが、後ろに立っているロカからはその素顔をうかがい知れない。

 膣に挿入されていた指が引き抜かれる。ロカは己の人差し指と中指を開き、その間で粘々した透明な液体が小さなアーチを作っているのを観察しながら、震えるナヤに向かって言い放つ。

「ぐちょぐちょじゃないか。こんなもので喜んでいるのかい? 売女」

 否。

 ナヤの心中を渦巻くのは苦痛と恐怖心だった。しかし、防衛のための生理反応など理解しているはずもないロカは、ナヤが次の行為を望んでいることを隠しているのだと信じて疑わなかった。

「もういいよ。これじゃあ、本の片付けもできそうにないしね。……なら、窓拭きくらいならできるだろう?」

「は、はい……わかりました」

 ナヤはそう言うと、書斎の入り口に置いてあった水の入っているバケツを取りに引き返そうとする。そんなナヤを、ロカは呼び止めた。

「待って。それは脱いで」

 ロカが指さしたのは、ナヤが両手で引き上げているショーツだった。

「もう汚れて使えないだろう? ぼくが貰ってやるよ」

 実際にはそんなことは無かったのであるが、ナヤには敢えて逆らおうなどという気力も残っておらず、自ら脱いだ下着をおずおずと差し出す。ロカはそれを乱暴にふんだくった。

 ロカは女の匂いの染みついた下着を鼻先で嗅ぎ、己の下半身に集中する男性的な欲望の熱が高まっていくのを感じていた。その欲にはある苛立ちが伴っており、一刻も早く解消したい思いに急かされている。

 彼女は持参していた水の入ったバケツから布巾を取り出すと、硬く絞ってから、窓に手をかけた。

「汚れているからね。ちゃんと綺麗にしてよ」

 確かに、窓には黒い汚れが付着していた。余りにもあからさまな汚点。今朝見た時にはついていなかった。おそらく、午後の内に、ロカが自ら意図的に汚したのだろう。

 ナヤは窓の汚れを丹念にふき取っていく。この館で働き始めるよりもずっと前から繰り返してきた仕事であり、手慣れているはずであったが、窓に映っているロカの陰湿な表情を見たナヤの手は、カタカタと痙攣していた。

(やっぱり……今日もするんだ)

 諦念の感情。ただ、悲しみは増している。

 元々、ナヤがこの館で働くに至った経緯は、現当主ロドロフが農村で働いていた村娘である彼女に目を留め、館に招いたからであった。

 その理由であるが、ロドロフの妻メフェル……ロカの実母と、ナヤの容姿がよく似たものであったからだ。ロドロフは彼なりに母を失った息子の心情を気にかけており、代わりととなる専属の使用人をつけてやれば少しは気も紛れるだろうと考えたのである。

 母を失ってから憂鬱な日々をずっと送り続けてきたロカの元にナヤが現れた時、確かにロカは求めていた母性の片鱗をナヤに感じた。ナヤの姿がメフェルに似ていたからというのもあるが、まだ幼い少年の心を持っていたロカには、彼女の持つ天賦の包容力を敏感に感じ取っていたのかもしれない。

 立場上は、ナヤはロカに仕える使用人ではある。それでも、ロカは彼女を慕うようになっていき、母子と言うよりは姉弟のような関係として、周囲からも微笑ましいオーラに包まれた二人として映っていた。

 だが、最初は上手くいっていた二人の関係も、やがてはほころびを見せ始める。そのきっかけは、ロドロフから届いた一通の手紙。本来はナヤへ送られたものであったのだが、居間に封を切った状態で置かれているその手紙をロカが目にした。

 それは、以前から繰り返されていたナヤとロドロフのやり取り。ロカが好奇心を覚えたのも無理のない話ではあったが、ロカの目に留まるような事態を招いたのは、ナヤではなく、屋敷で働く別の使用人であった。ナヤへ宛てたものであると確認する前に間違えて中身を開けてしまったのであるが、そのまま放置してしまった不注意がその後の主の不幸をも招く事態となったのである。

 ロカが目にした文面には、ナヤがロカの母親代わりを上手く勤めているのかと念を押すロドロフのあからさまな思惑が表れていた。加えて、外の生活を脅かされるロドロフ自身の危惧も……。

 ロカが真っ先に抱いた感情は嫌悪感。続けて、深い憤りだった。ロカにとって、母は自分が最も慕っていた理想の女性。それに対して、父は母を裏切り続けている厭うべき人物。

 ナヤは父ロドロフからの回し者だったのだ。その上、母親を軽んじた父の思惑によって自分を篭絡する役目を担っている。……ロカは自らがナヤに抱いていた好意が亡き母に対する背信行為でもあったと思うに至り、感情の昂ぶりはかつてないほど激しいものだった。

 ロカのナヤに対する態度は一変し、彼女に対してしばしば暴行を働くようになっていった。ただ、ロカがナヤを好いていた事実は完全に拭いきれるものでは無い。その結果、ロカのナヤに対する愛憎混じり合った執着が形成されていったのであった。

 布巾を手にし、窓を磨くナヤ。その表情は怯えており、性器を露出している羞恥で朱に染められている。ロカはそんなナヤの背後に近づくと、彼女の服の中に両手を潜り込ませ、乳房を乱暴に揉みしだいた。

「あ……うう」

 ナヤがロカと身体の関係を持ったのは二週間前の話だった。その時もやはり、ロカはまず乳房からナヤを執拗に責め始めた。母性を求める欲求か、あるいはナヤの母性を否定するための暴力行為か。どちらであるのかは定かでないが、ロカの人柄をよく知っていたナヤは、その両方である気がしていた。

「固くなってきたじゃないか。感じてやがるんだ」

 本で得た知識をひけらかしながら、乳首をこねくり回すロカ。ナヤは戸惑いながらも、そんなロカを大人になろうとしてもなり切れない、可哀そうな子供であると思ってやまなかった。

「こっちもびちゃびちゃしてる……汚いな」

 陰核の辺りを弄りながら、ロカは言った。愛撫と呼ぶには程遠い、玩具を乱暴に扱う子供の手つき。それでも、己の身体を穢される処女の恐怖に加え、ロカに対する捨てきれない哀れみ深い情が、ナヤの生理的な反応を促した。

「お前は母さんなんかじゃない……ただのメス豚だ」

 ロカは怒りと情欲を露わにして言い放った。

「それを今、証明してやるんだ」

 直後、雌を求める本能で勃起していた、そこだけは既に立派な雄と化しているペニスをナヤの秘所へあてがい、乱暴な挿入によって彼女の純潔を突き破ったのである。

 それから毎晩、ロカはナヤを自室に呼んでは彼女の身体を犯した。今もまた――。

「あぁ……あっ……あっ……あっ」

 ナヤの上半身が窓に押し付けられる。何とか態勢を保たせているナヤであったが、ロカに腰を掴まれ、蜜壺の中を激しい前後運動によってこすり続ける肉棒によってかき回された。

 ロカは、何度も、何度も、ナヤの子宮口を目掛けて突き続ける。怒りに身を任せた抽挿で、服従する女の肉体に己の証を刻み付け、尊厳を踏みにじる悦楽に酔いしれる。だが、窓に映る少年の顔が酷く寂しいものであるのを、ナヤは見逃さなかった。

 ナヤは泣いていた。凌辱されることへの悲しみ、好意を無下にされた悔しさ。そういった感情もあったが、何よりも重かったのは、情欲をぶつけることでしか己の感情を訴える術を持たない非力な少年に対する深い同情心であった。
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