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鬼峰家の血筋
凛冴の決意
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冷えた空気。すべてが凍り付いたような空間が下の方へと無限に続いていて、滑り落ちれば深い奈落の底に沈んでいくような気がしてくる。
石造りの階段を一歩ずつ降りていく足音。ぶら下がっている小さな電灯が揺れて、パタパタと胸元に当たっている。
(どこだろう……?)
朦朧とした意識の中、契は答えの出ない問いを意識下で反芻する。二人がかりで自分の身体を持ち上げている腕もそれぞれが死人のように冷たく、生気を感じられなかった。
(……寒い)
ふと、思い出されるのは今朝の小夜子が入れてくれた蜂蜜レモンのマグカップ。暖かい湯気の香りは朧気で、結局、よく味わうこともできず、口にした時には冷めてしまっていた。何故だかはわからなかったが、今になってはそれがとても名残惜しい。
階段を降り終えたところで、契の身体が床に横たえられた。氷のように冷たく固い床の感触に、契はビクンと身を震わせる。
ズズゥっと音を立て、石扉が開かれる。内部から、湿気とカビと腐食臭の入り混じった空気が流れ出てきた。
再び持ち上げられた契。一室の中央まで来たところで、今度は台座の上に寝かされた。その台座も石で造られていたが、ざらざらとした奇妙な感触で、台全体が肌に貼り付いてくるようだった。
仰向けに寝かされた契の裸体を挟むようにして両脇に立つ、二人の人物。何れも、館のメイドたちが着用する服を身につけている。両者の吐息が契の肌に当たり、契はここに来て初めて温かいものを感じた。
かつーん。かつーん。
もう一人、誰かが階段を下りてくる。反響する音が少しずつこちらに近づいてくるにつれ、契の意識の奥底から、感情の芽吹きが持ち上がる。
(ここ……冷たい。嫌だよ……早く、帰りたい)
しかし、契の身体は金縛りにあったように動かない。熱は引いていたが、生命力が衰えている。開かれた瞳で虚空を見つめる契の視線は、徐々に絶望へと染められていった。
二人のメイドが深く辞儀をし、来訪者を迎え入れる。
中に入ってきたのは杏樹だった。杏樹は死んだようになっている契を一瞥したが、その脇を通り過ぎて奥にある祭壇へ近づいた。
杏樹がその場に跪く。二人のメイドも杏樹に倣った。
やがて、杏樹が恭しい態度で言う。
「沓契を連れて参りました」
暫しの沈黙。
闇の中で、朧げな風が不気味に揺蕩う。契は人間の潜在的恐怖をかきたてる異質な存在の気配を敏感に感じ取り、微かな呻き声をもらした。
【ふむ。これが、沓の娘か】
意識の中で反響する声。契はこれとよく似た声を幾度も聞いていたが、これほどまでにはっきりと認識できたのは初めてだった。
「はい。卑しい身分の娘ではありますが、肇慶の精を多く流し込まれていますので、礎とするには適任かと」
【確かに肇慶が好みそうな女ではある】
何かが輪郭を形成し始めた。蠢く軟体動物のようなものが床を這いずり回っている。
【しかし……礎となるには不適合だな】
杏樹が驚きの表情を浮かべる。やがて、顔が落胆の色に染まっていった。
「……お気に召しませんか。申し訳ございません」
【いや、今宵の贄には丁度良い。そろそろ雑鬼たちにも新しい娘を提供してやらなければ、連中の機嫌を損ねてしまうのでね】
「それでは、契を」
【ああ。今度はすぐ壊したりしないよう、彼らにも言い聞かせておくよ】
それは幾つもの細かい触手を伸ばし、契の身体を探った。二本の細い触腕が契の両足に巻き付き、股を大きく開かせ、陰部をさらけ出させる。
「ふぁぁ」
契が声をもらす。
【可愛い声をしている。意識が戻ってきているようだ。これなら、雑鬼も十分楽しめるだろう】
ミミズのような触手が契の恥丘をいやらしくなぞる。陰唇がひくひくと反応し、膣の中から淫水が少し垂れてきた。
契の頬が上気し始め、熱い吐息が中空を白く漂う。
「あの……」
杏樹が何かを言いかけたが、唇を閉ざしてしまった。
【杏樹。欲しいんだね】
穏やかな口調。飼い猫をあやしているようだった。それを聞いていた杏樹の表情に、はっきりとした変化が生じた。
「は……はい」
静々とした物言いだったが、抑えきれない期待が表面に出ている。
触腕の一つが、杏樹の足元に這い寄ってくる。杏樹は頬を赤らめたまま、足元を見つめている。
触腕は跪いている杏樹の黒いニーハイソックスに触れた。そこから触手がムチムチした太ももを伝い、スカートの下へ入り込んでいく。
「あ……ああっ」
秘部をまさぐられる感覚に、杏樹が高まった感情を吐露させる。
【いつも私のために働いてくれているきみには、とても感謝しているよ。杏樹】
「勿体ないお言葉でございます……」
【身体の方も待ちきれないみたいだね。では、ご褒美を上げよう】
今や男性器と酷似している触手が蠢動し、杏樹の膣内に侵入する。
「はぁ……んっ、んっ、はんっ、ああぁん!」
待ち望んでいたものを受け入れ、嬌声をあげる杏樹。杏樹は己の声の反響を聞き、急激に高まった羞恥心のあまり両目をつむり、上半身をぷるぷると震わせた。薄明かりを反射させる眼鏡の隅では、歓喜のあまりにこぼれた涙がツツーッと滴り落ちていく。
蠢く生き物は、杏樹の両脇にいる二人のメイドたちにも近づく。相変わらず感情の読みとれない二人の表情であったが、その内面では、淫猥な空気に侵されて動悸が異様に早くなっていた。
【きみたちも、杏樹の大切な部下だ。仲間外れにしないから、安心したまえ】
びちょびちょした粘液をまとっている触手が、二人の股間にまとわりつき、スカートをまくりあげた。鋭いくらいに怒張した触手の先端が、パンティの内側に潜り込んでいく。
「ひぅ……」
「ふあぁ」
【おや、もうびしょびしょじゃないか。杏樹、きみを見て、二人とも興奮してしまっていたらしい】
杏樹に従順な二人は、普段は感情を表面に出さなかったが、この時ばかりは与えられた刺激によって己の肉の底から解放された淫欲に呑み込まれ、欲情の高まりを訴えた。
「ひぐぅっ。あぁぁ! はう! くうぅぅぅん!」
「がぁぁ。んあっ! あひ……んほぉぉおお!」
若い娘がはしたない――杏樹はそう言いたげに、狂ったように騒ぎ立てるメイドたちを見やったが、既に他人のことを気にしていられる状況ではなかった。
杏樹の膣口を貫いた異形の肉棒は、子宮底にまで侵入していた。人間の男のペニスでは到達できない深部に最も愛おしい存在を受け入れ、杏樹は苦痛を伴いながらも歓喜の興奮に浮かされていた。
「あぁぁ! う、嬉しい、嬉しいですっ! あなたさまのお大事に、あんっ、し、子宮全体が、あ、愛されてぇ!」
淫靡な気で空間全体が暴力的なほどに浸食されていく中、契は悍ましさに吐き気を催していた。麻痺している四肢を動かそうとするが、深い靄に阻まれているかのようで、それも叶わない。
【契といったね。焦らなくても、今宵の主役はきみだよ】
契へ向けられた声もまた穏やかな調子であったが、契は禍々しい悪意の蠢きを全身で感じ取り、震えていた。
【私たちは蘇らなければいけない。人間が事実上の支配者となっている腐り切った浮世を、本来あるべき姿へ戻すために】
契の裸身を、無数のヒルを思わせる物体が這いずり回る。契は悲鳴を上げようとしたが、喉に何かが詰まっているかのように、声が出ない。
【きみの儚い生涯の最期を飾るんだ。二度とは巡ってはこない……全身全霊で以て、堪能してくれたまえ】
(あ……いや……怖い……)
契の意識が抵抗を見せる。それは生き延びようとする本能によって生じたものであったが、それまで温和に語り掛けていた何者かの背後から、圧倒的な悪意の巨人がそびえ立ち、身をよじらせようとする契へ向かって、哄笑を浴びせた。
【ググッグッグ。所詮、貴様らは自惚れた家畜にすぎぬのだ。家畜の雌に許された唯一の悦びを、存分に享受しろ】
(た、助けて……)
契の脳裡に、自らが敬愛していたはずの肇慶の面影がおぼろげに浮かび上がる。契は肇慶に助けを求めようとしたが、肇慶の姿がとても邪悪な影に変じ、契の希望が潰えようとする。
(さ、小夜子ぉ)
姫岸小夜子の姿。今度は明朗に映った。契は、自分のことを最も大事に想ってくれていた人を知った。
アイネは語った。今度の敵は今の凛冴の実力で挑むには、危険すぎる相手だと。
凛冴とて、それは先の戦闘で身をもって思い知ったが、だからといって今回の一件を捨て置く気にはなれなかった。それは、この事件に関わっているすべての人たちを見捨てるのと同義であったから。
《ま、こう言ってもあんたは引かないだろうけどね。一応、忠告はしておいたよ》
凛冴がこれまでに解決した事件は、何れも人間社会に出没し始めた魍魎の末端を祓う程度の任務を果たしたに過ぎない。アイネに言わせれば、あくまで凛冴が祓魔師として成長するための練習試合のようなものだった。
《あんたの危惧通り、契という娘は魍魎の手に落ちた。ここら一帯には、あたしでも把握しきれない程の隠れ家が、幾つも存在するみたいだからね。とても、助けられるとは思えないけど》
「でも……私がやらないと」
凛冴は自分に言い聞かせるように、決意を述べる。
「今、この場で魍魎を祓うことができるのは私しかいない。救えるかもしれない命がある以上は、全力を出す」
《……あたしは本当は止めたいんだよ。無理にでもね。あんたに死なれたり、魍魎の玩具に堕とされたりしたら、あの人に顔向けできないからさ》
あの人――アイネは度々何者かの存在を示唆するが、凛冴には想像するしかできない。アイネが御津国の生業の創始時代から生きているという話だけは、凛冴も知ってはいたが。
凛冴はあてがわれた自室で着替えていた。あのぼろぼろの制服姿のまま館の敷地内を歩き回るわけにはいかなかったためである。
魍魎との戦闘の際に傷を負った腹部が少し痛んだが、それほど深いものではない。包帯でまかれた腹部の出血は収まっていた。
凛冴は、霊剣としての役目を果たし終えた木の枝を挿している花瓶を見つめていた。花瓶は窓辺に置かれており、未だ残っている霊気によって生命力を繋いでいる葉が、陽の光を浴びて、煌々と輝いていた。
(私はやるよ……アイネ)
ある意味では、これが自分にとって最初の本格的な任務と言える――凛冴は今一度、気を引き締めていた。
石造りの階段を一歩ずつ降りていく足音。ぶら下がっている小さな電灯が揺れて、パタパタと胸元に当たっている。
(どこだろう……?)
朦朧とした意識の中、契は答えの出ない問いを意識下で反芻する。二人がかりで自分の身体を持ち上げている腕もそれぞれが死人のように冷たく、生気を感じられなかった。
(……寒い)
ふと、思い出されるのは今朝の小夜子が入れてくれた蜂蜜レモンのマグカップ。暖かい湯気の香りは朧気で、結局、よく味わうこともできず、口にした時には冷めてしまっていた。何故だかはわからなかったが、今になってはそれがとても名残惜しい。
階段を降り終えたところで、契の身体が床に横たえられた。氷のように冷たく固い床の感触に、契はビクンと身を震わせる。
ズズゥっと音を立て、石扉が開かれる。内部から、湿気とカビと腐食臭の入り混じった空気が流れ出てきた。
再び持ち上げられた契。一室の中央まで来たところで、今度は台座の上に寝かされた。その台座も石で造られていたが、ざらざらとした奇妙な感触で、台全体が肌に貼り付いてくるようだった。
仰向けに寝かされた契の裸体を挟むようにして両脇に立つ、二人の人物。何れも、館のメイドたちが着用する服を身につけている。両者の吐息が契の肌に当たり、契はここに来て初めて温かいものを感じた。
かつーん。かつーん。
もう一人、誰かが階段を下りてくる。反響する音が少しずつこちらに近づいてくるにつれ、契の意識の奥底から、感情の芽吹きが持ち上がる。
(ここ……冷たい。嫌だよ……早く、帰りたい)
しかし、契の身体は金縛りにあったように動かない。熱は引いていたが、生命力が衰えている。開かれた瞳で虚空を見つめる契の視線は、徐々に絶望へと染められていった。
二人のメイドが深く辞儀をし、来訪者を迎え入れる。
中に入ってきたのは杏樹だった。杏樹は死んだようになっている契を一瞥したが、その脇を通り過ぎて奥にある祭壇へ近づいた。
杏樹がその場に跪く。二人のメイドも杏樹に倣った。
やがて、杏樹が恭しい態度で言う。
「沓契を連れて参りました」
暫しの沈黙。
闇の中で、朧げな風が不気味に揺蕩う。契は人間の潜在的恐怖をかきたてる異質な存在の気配を敏感に感じ取り、微かな呻き声をもらした。
【ふむ。これが、沓の娘か】
意識の中で反響する声。契はこれとよく似た声を幾度も聞いていたが、これほどまでにはっきりと認識できたのは初めてだった。
「はい。卑しい身分の娘ではありますが、肇慶の精を多く流し込まれていますので、礎とするには適任かと」
【確かに肇慶が好みそうな女ではある】
何かが輪郭を形成し始めた。蠢く軟体動物のようなものが床を這いずり回っている。
【しかし……礎となるには不適合だな】
杏樹が驚きの表情を浮かべる。やがて、顔が落胆の色に染まっていった。
「……お気に召しませんか。申し訳ございません」
【いや、今宵の贄には丁度良い。そろそろ雑鬼たちにも新しい娘を提供してやらなければ、連中の機嫌を損ねてしまうのでね】
「それでは、契を」
【ああ。今度はすぐ壊したりしないよう、彼らにも言い聞かせておくよ】
それは幾つもの細かい触手を伸ばし、契の身体を探った。二本の細い触腕が契の両足に巻き付き、股を大きく開かせ、陰部をさらけ出させる。
「ふぁぁ」
契が声をもらす。
【可愛い声をしている。意識が戻ってきているようだ。これなら、雑鬼も十分楽しめるだろう】
ミミズのような触手が契の恥丘をいやらしくなぞる。陰唇がひくひくと反応し、膣の中から淫水が少し垂れてきた。
契の頬が上気し始め、熱い吐息が中空を白く漂う。
「あの……」
杏樹が何かを言いかけたが、唇を閉ざしてしまった。
【杏樹。欲しいんだね】
穏やかな口調。飼い猫をあやしているようだった。それを聞いていた杏樹の表情に、はっきりとした変化が生じた。
「は……はい」
静々とした物言いだったが、抑えきれない期待が表面に出ている。
触腕の一つが、杏樹の足元に這い寄ってくる。杏樹は頬を赤らめたまま、足元を見つめている。
触腕は跪いている杏樹の黒いニーハイソックスに触れた。そこから触手がムチムチした太ももを伝い、スカートの下へ入り込んでいく。
「あ……ああっ」
秘部をまさぐられる感覚に、杏樹が高まった感情を吐露させる。
【いつも私のために働いてくれているきみには、とても感謝しているよ。杏樹】
「勿体ないお言葉でございます……」
【身体の方も待ちきれないみたいだね。では、ご褒美を上げよう】
今や男性器と酷似している触手が蠢動し、杏樹の膣内に侵入する。
「はぁ……んっ、んっ、はんっ、ああぁん!」
待ち望んでいたものを受け入れ、嬌声をあげる杏樹。杏樹は己の声の反響を聞き、急激に高まった羞恥心のあまり両目をつむり、上半身をぷるぷると震わせた。薄明かりを反射させる眼鏡の隅では、歓喜のあまりにこぼれた涙がツツーッと滴り落ちていく。
蠢く生き物は、杏樹の両脇にいる二人のメイドたちにも近づく。相変わらず感情の読みとれない二人の表情であったが、その内面では、淫猥な空気に侵されて動悸が異様に早くなっていた。
【きみたちも、杏樹の大切な部下だ。仲間外れにしないから、安心したまえ】
びちょびちょした粘液をまとっている触手が、二人の股間にまとわりつき、スカートをまくりあげた。鋭いくらいに怒張した触手の先端が、パンティの内側に潜り込んでいく。
「ひぅ……」
「ふあぁ」
【おや、もうびしょびしょじゃないか。杏樹、きみを見て、二人とも興奮してしまっていたらしい】
杏樹に従順な二人は、普段は感情を表面に出さなかったが、この時ばかりは与えられた刺激によって己の肉の底から解放された淫欲に呑み込まれ、欲情の高まりを訴えた。
「ひぐぅっ。あぁぁ! はう! くうぅぅぅん!」
「がぁぁ。んあっ! あひ……んほぉぉおお!」
若い娘がはしたない――杏樹はそう言いたげに、狂ったように騒ぎ立てるメイドたちを見やったが、既に他人のことを気にしていられる状況ではなかった。
杏樹の膣口を貫いた異形の肉棒は、子宮底にまで侵入していた。人間の男のペニスでは到達できない深部に最も愛おしい存在を受け入れ、杏樹は苦痛を伴いながらも歓喜の興奮に浮かされていた。
「あぁぁ! う、嬉しい、嬉しいですっ! あなたさまのお大事に、あんっ、し、子宮全体が、あ、愛されてぇ!」
淫靡な気で空間全体が暴力的なほどに浸食されていく中、契は悍ましさに吐き気を催していた。麻痺している四肢を動かそうとするが、深い靄に阻まれているかのようで、それも叶わない。
【契といったね。焦らなくても、今宵の主役はきみだよ】
契へ向けられた声もまた穏やかな調子であったが、契は禍々しい悪意の蠢きを全身で感じ取り、震えていた。
【私たちは蘇らなければいけない。人間が事実上の支配者となっている腐り切った浮世を、本来あるべき姿へ戻すために】
契の裸身を、無数のヒルを思わせる物体が這いずり回る。契は悲鳴を上げようとしたが、喉に何かが詰まっているかのように、声が出ない。
【きみの儚い生涯の最期を飾るんだ。二度とは巡ってはこない……全身全霊で以て、堪能してくれたまえ】
(あ……いや……怖い……)
契の意識が抵抗を見せる。それは生き延びようとする本能によって生じたものであったが、それまで温和に語り掛けていた何者かの背後から、圧倒的な悪意の巨人がそびえ立ち、身をよじらせようとする契へ向かって、哄笑を浴びせた。
【ググッグッグ。所詮、貴様らは自惚れた家畜にすぎぬのだ。家畜の雌に許された唯一の悦びを、存分に享受しろ】
(た、助けて……)
契の脳裡に、自らが敬愛していたはずの肇慶の面影がおぼろげに浮かび上がる。契は肇慶に助けを求めようとしたが、肇慶の姿がとても邪悪な影に変じ、契の希望が潰えようとする。
(さ、小夜子ぉ)
姫岸小夜子の姿。今度は明朗に映った。契は、自分のことを最も大事に想ってくれていた人を知った。
アイネは語った。今度の敵は今の凛冴の実力で挑むには、危険すぎる相手だと。
凛冴とて、それは先の戦闘で身をもって思い知ったが、だからといって今回の一件を捨て置く気にはなれなかった。それは、この事件に関わっているすべての人たちを見捨てるのと同義であったから。
《ま、こう言ってもあんたは引かないだろうけどね。一応、忠告はしておいたよ》
凛冴がこれまでに解決した事件は、何れも人間社会に出没し始めた魍魎の末端を祓う程度の任務を果たしたに過ぎない。アイネに言わせれば、あくまで凛冴が祓魔師として成長するための練習試合のようなものだった。
《あんたの危惧通り、契という娘は魍魎の手に落ちた。ここら一帯には、あたしでも把握しきれない程の隠れ家が、幾つも存在するみたいだからね。とても、助けられるとは思えないけど》
「でも……私がやらないと」
凛冴は自分に言い聞かせるように、決意を述べる。
「今、この場で魍魎を祓うことができるのは私しかいない。救えるかもしれない命がある以上は、全力を出す」
《……あたしは本当は止めたいんだよ。無理にでもね。あんたに死なれたり、魍魎の玩具に堕とされたりしたら、あの人に顔向けできないからさ》
あの人――アイネは度々何者かの存在を示唆するが、凛冴には想像するしかできない。アイネが御津国の生業の創始時代から生きているという話だけは、凛冴も知ってはいたが。
凛冴はあてがわれた自室で着替えていた。あのぼろぼろの制服姿のまま館の敷地内を歩き回るわけにはいかなかったためである。
魍魎との戦闘の際に傷を負った腹部が少し痛んだが、それほど深いものではない。包帯でまかれた腹部の出血は収まっていた。
凛冴は、霊剣としての役目を果たし終えた木の枝を挿している花瓶を見つめていた。花瓶は窓辺に置かれており、未だ残っている霊気によって生命力を繋いでいる葉が、陽の光を浴びて、煌々と輝いていた。
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