祓魔師 凛冴

来星馬玲

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鬼峰家の血筋

二つの贄

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 雨上がりの日暮れ時。一人のメイドが館にある寝室を訪れていた。三田みた浬穂りほである。浬穂は床に敷かれているカーペットの上でしゃがみ、硬く絞った雑巾を使い、厚い布地を丹念に掃除していた。傍らに置かれている容器には、カーペット用の洗剤が入っている。

 この寝室は、今晩に尾田海次郎が宿泊する手はずになっている。今宵、浬穂に与えられた鬼峰家への最後の奉公の場と言えた。

 浬穂の心中に、自分が海次郎の私物になることへの抵抗や憤りと呼べる感情はない。だが、自らの心臓が不自然なほどに激しい鼓動を脈打たせているのが不思議でならなかった。

(怖い? のかな……)

 もし、恐怖心というものがあるのなら、粗相を働いて鬼峰の家に泥を塗るかもしれないという危惧に端を発しているのだろうか。浬穂は今日まで、性的な体験をしたことがなかった。

 初めてを捧げる相手は現当主の鬼峰肇慶……杏樹からの教育を受けていた浬穂は、漠然とそう意識していたものだった。だが、現実は、ほんの数刻前に顔を合わせたばかりの海次郎という名の初老の男に操を捧げるのだ。

「んく……」

 不意に、海次郎に股間を舐められた感触が蘇り、女陰が熱を帯びる。しゃがんでいた姿勢が崩れ、カーペット上へ前倒しになり、肘をついていた。額から流れた汗が右目に入り、浬穂は思わず、目をしばたたかせた。

 まるで、蟻が全身を這い上がってくるようなむず痒い感覚。床の下から、不気味な気配が周囲を覆うようにして競り上がってくる。

 遠くの方から、甲高い雉の鳴き声が聴こえてきた。それは自然豊かな山間部の日常がと言えたが、今の浬穂には場違いな響きにさえ思われた。

 外界から遮断された異常な時が流れており、密室の空間が胎動を繰り返しているようだ。何かが差し迫っていることを漠然と感じながらも、浬穂は分けもわからず、俯いた姿勢のまま、洗剤を湿らせた雑巾を強く握りしめ続けた。

(なに、これ……? 知らない……)

 女陰から発した熱は下腹部へと広がっていき、内側がひくひくと痙攣する。子宮が震えているようだった。

(身体が熱い……)

 苦しさを覚えた浬穂は、呼吸を乱す。どうにかして鎮めなければ、掃除もまともにできない状態となっていた。

 浬穂の右手がスカートの内側へ潜り込む。己の女性器を探り当てると、そこへ指先を押し込んだ。

「ん……ふぅ」

 浬穂は自らの恥部に突っ込んでいる指で、内側の秘肉をこすり始めた。既に浬穂の膣内は微かな湿り気を帯びており、ねばついた液体が皮膚に擦りこまれていく。

「はぁ……う……んく」

 零れる吐息は、雌の肉の体内で熟成された臭気を帯びていた。

(こんなこと……はしたない)

 自慰行為に興じているふしだらな己を恥じる意識もあったが、今の浬穂には、強い性衝動を抑えるだけの自制心が欠如している。部屋全体を呑み込んでいる姿見えぬ存在の意志に支配されている事実を、浬穂が知る由もない。

 皮膚と布のこすれる音だけが繰り返される淫靡な空間。そこへドアノブが回され、扉の開かれる無機質な音が加わったが、淫らな罠に陥っているメイドは気づかない。

 無骨な侵入者は、臀部を突き出したまま秘所を弄っている浬穂の背後に仁王立ちとなり、汗ばんだ尻の動きを見据えている。真っ赤に染まった両目が不気味な眼光を放ち、人ならざる者のオーラを全身から醸し出していた。

【ググ……肉……雌ノ肉ゥ】

 侵入者の両手が伸ばされ、浬穂の両腕を思いきり掴んだ。

「ふぅ!? あっ……!」

 不意の出来事に混乱する浬穂。

「だ、誰……!?」

 慌てて払い除けようととするも、強靭な握力に抗うには、淫気に支配されている彼女では非力過ぎた。

「や、やめ……あぁ!」

 浬穂はせめて相手の姿だけでも確かめようと首を回そうとするが、背中から覆いかぶさってきた侵入者は己の顔面を浬穂の後頭部に押し付け、女の匂いを嗅ぐことに執着しており、浬穂が相手の素顔を視認することは叶わなかった。

 発情期の哺乳動物を思わせる荒い息が、浬穂の頭部を嬲る。従順になるよう教育されている浬穂であったが、鼻孔に突き刺さってくる悪臭に対して、強い不快感を露わにしていた。

「やめて……」

 か細い声による訴え。本当は声を張り上げて屋敷の中にいる誰かに助けを求めたかったが、このような状況に陥ってなお、浬穂は相手に逆らう事に躊躇いがある。自らの性欲を鎮めるためだけの淫らな行為に耽っていた事実が、心身共に男へ尽くす女として育てられてしまっている浬穂の精神にストッパーをかけていた。
 
 侵入者の手が浬穂のスカートを捲り上げ、ベビーピンクのパンティに手をかけた。浬穂は解放された右腕を折り曲げ、抵抗する素振りを見せたが、それが相手を怒らせる。

 男の拳骨が握り締められ、浬穂の右肘を強打した。

「ひぎゃあ!」

 激痛のあまり、悲鳴を上げる浬穂。部屋中に響いたその声が更に相手の反感を買ってしまったのだろうか、浬穂の頭部が殴打される。

「痛い! やめてよ!」

 恐怖心が感情の拘束に勝り、逃げ出そうと身を捩る浬穂。その一瞬、相手の男の顔面が垣間見えた。

「あ……海次郎さま?」

 抵抗する浬穂の四肢から力が抜けた。荒々しい獣欲を剥き出しにしている男はその隙を見逃さず、浬穂の身体を抱きしめ、衣服越しに乳房を揉みしだく。

 浬穂はもう一度顔を振り向かせ、相手の素顔を凝視した。やはり、見間違いではない。

 浬穂を襲っているのは、紛れも無く尾田海次郎だった。しかし、その形相は悍ましく、下唇に下卑た笑いを浮かべ、真紅の眼光が不気味に紅く揺らめいていた。

「ご主人様……」

 浬穂の声は震えていた。それでも、海次郎の先の要求に応え、相手を主人と呼び直している。

 相手が海次郎であると知り、反抗心を持つことを許されないメイドである浬穂は、抵抗しようとする意思を止めた。獲物が従順になり、もはや遮るものがなくなったと見て取ると、海次郎はぐふぐふと豚の様な呻き声を発しながら、浬穂のパンティを引き剝がした。

「ん……ぅく」

 艶めかしく尻をこすり合わせる。浬穂は羞恥心のあまり、俯いた姿勢のまま目を閉じた。顔には紅葉を散らしている。

 海次郎は恥部を遮る浬穂の動きを煩わしいとでも思ったのであろうか。今度は両手で浬穂の尻に掴みかかり、尻肉を左右に押し開いた。

 浬穂の肛門と女性器が露出する。海次郎は雌の陰部の匂いに刺激され、息を荒くした。

 今や淫欲の獣と化した海次郎がだらしなく伸ばしたベロに涎を垂らし、剥き出しになっている女のアヌスを舐める。浬穂は舌先が敏感な部分へ触れる度にヒップをピクンピクンと震わせており、海次郎は女の反応を愉しんでいた。

 やがて、堪えきれなくなったのか、海次郎は自らの作業用ズボンをトランクスごとずり下ろし、男性器を露出させた。怒張した巨根が、天を突く勢いで勃ち上がる。

「グフヘヘ……肉ゥ、にぐぅ」

 海次郎の声に、浬穂は自分の耳を疑った。喉の潰れたヒキガエルが無理矢理捻りだしたような発声は、とてもあの初老の男性のものとは思えなかった。

(い、嫌……)

 しかし、意識下の拒否反応は、肉奴隷同然と化した雌の肉体には何ら作用を及ぼさない。

 浬穂の陰唇は先の自慰行為に加え、恐怖心による反応で濡れていた。海次郎は両手で女の太ももを鷲掴みにすると、己の肉棒で以て一気に貫く。

「おぐぅ! あひッ……ひがあぁぁあ!」

 欲望の赴くままの荒々しい挿入によって、浬穂の純潔が突き破られた。初めての性体験は若い肉体の芯に木の棒を突き通されたような激痛と共に訪れ、快感とは程遠い辛い苦しみが、男を知らなかった女体を襲う。

「……っく。ひ……っく」

 乱暴な抽挿に、耐える浬穂。主の欲望を満たすためだけの女としての役割に徹しようと踏ん張るが、彼女の目頭をつたって流れ落ちる涙は、悲劇的な少女の最後の反撥であったのかもしれない。



 日が落ち、外が暗色に埋没し始めた頃、小夜子は自室に戻ってきた。本来なら行方不明だった契が見つかったという話を聞いた時点ですぐにでも飛んで戻って来たかったのだが、どういうわけかとしみちから止められていた。

 直前まで、小夜子は肇慶の居間の清掃を続けていたのだが、度々様子を覗きに来る肇慶の態度に奇妙なものを感じた。そもそも、一介のメイドの働きぶりを観察するために肇慶自らが姿を見せること自体、小夜子の経験上では無かった話だが。

 肇慶は異様だった。少なくとも、小夜子はそう感じた。契の無事を聞いた肇慶の表情は安堵したものと見受けられたかもしれないが、それが作られた面持ちである気がしてならなかった。

 メイドが主人に対してそういった疑念を持つことは許されない話だったのだが、小夜子は無意識のうちに、肇慶の内側で滾る激しい憤りを感じ取っていたのである。

 その後、夜遅くまで契の安否を確かめられないのだろうかと危惧していたが、小夜子は不意に、侭田つくだ真久まくから呼び止められる。真久はもう仕事を切り上げて契のいる部屋へ戻っても良いと言った。

 急いで契の元へ向かいたかった小夜子は逸る気持ちを抑え切れていなかったが、本当に大丈夫であるのかを聞き返した。すると、真久は杏樹様からの指示だからと、説明してくれた。

 あるいは、肇慶と杏樹の間で、何らかの交渉があったのかもしれない。小夜子はそれについては深く考えず、思いがけず舞い降りた幸運を享受した。

 小夜子に与えられている部屋は契との相部屋であり、二つのベッドが並んでいる。そして、片方のベッドで横になっている契の姿――見慣れた光景と対面し、戻ってきた日常という至福に、彼女を見つけ出してくれた凛冴に、小夜子は深く感謝していた。

 だが、安心するのはまだ早い。聞いたところによると、契は意識を失った状態で発見されており、今も酷く衰弱しているのだという。

 部屋に備えられているスタンドライトを点け、契の寝顔をのぞき込む小夜子。契は安らかな寝顔をしていたが、やはり大分やつれている印象がある。こうして再会できたのに、未だ言葉を交わすこともできないのは辛かったが、小夜子は、今は契の無事を喜ぶべきだと改めて思い直す。

 館に通っている町医者、也貝やがい専介せんすけの話では、命に別状はないのだという。ただ、専介は契を街の病院に連れて行った方が良いのではないかとも口にしていたが、何故かこの場に寝かされたままとなっている。肇慶か、あるいは杏樹との間で何かを話し合っていた気配はあるのだが……。

 小夜子は自らの内で渦巻く様々な感情を抑え、電動式のポットで湯を沸かしていた。今夜は契と二人きりで過ごすことになるのだ。親友として彼女を支えてあげないと――小夜子は自らの決心をより一層、鞏固なものにしていた。

 小夜子はまだ気付いていなかった。契の為に新しいおしぼりを用意している小夜子の背後で、契がベッドから上体を起こし、小夜子の後ろ姿を凝視していることに。

 契の両眼は真紅の色に染まり、爛々と光っている。その様子は、窓の外の夜空に浮かんでいる、赤い月の朧げな全貌と酷似していた。



 中天に浮かぶ赤い月。多少欠けてはいたが、途方もなく強大な宇宙の意志の一端が、こちら側を覗いているかの如き存在感を持っている。

 鬼峰家の館の屋根の上に立ち、月を見上げる凛冴。夜風に吹かれ、闇に溶け込む漆黒の長髪がなびいていた。

 凛冴は毅然とした態度で大いなる星の姿と対峙していたが、天から見下ろす赤き眼差しの巨大さに比べれれば、それが如何に堂々たる姿であっても、ちっぽけな人間のものでしかない。だが、凛冴は己の無力さを痛感しながらも、人の側としての戦いを止めるつもりは無かった。

 凛冴は所々を縫い合わせた学生服を着用していた。館に来てからの最初の戦いで傷ついた服を応急処置したものである。先の地底での戦闘で着ていたジャージ服は、契に貸したままだった。

 契を館へ連れ帰った凛冴だったが、一度館の住人が連れ去られる事件が起きた以上、魍魎たちもこのまま黙っているはずがないと考え、こうして巡回に出ていたのである。

 それは、微かな変化だった。館全体が異常な妖気に包まれている中で察知するには微弱なものであったが、凛冴は見逃すまいと意識を飛ばし、捉える。

(魍魎……?)

 不吉な予感。やがて、予感は確信へと移り変わる。

(近くにいる……間違いない)

 瞬時に身を翻す凛冴。館のどこかで魍魎の顕現があったと直感した凛冴は、急いで気配の出処の捜索に向かう。

 凛冴は気付いていなかったが、近くの木の茂みの中には、じっと息を潜めている三毛猫――アイネの姿があった。

 アイネはただ黙して、凛冴の動向を見守っていた。
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