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鬼峰家の血筋
家畜の抵抗
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不意の物音で、はっとなる小夜子。
「契?」
振り返った小夜子と、ベッドの上で上体を起こしている契の視線が重なる。
「え……」
瞬間、小夜子は周囲の空間が急速に収縮していくような錯覚に陥った。血色に染まった両目を爛々と光らせている契の全身からは、形の無い何かが小夜子を囲い込むようにして広がり、小夜子の意識を圧迫している。
途端、眩暈を覚えてよろめく小夜子。呼吸が苦しくなり、動悸が高まった。
(なに……どうしたの……)
まるで見えない太い触手が首を一周して締め付けているようで、小夜子は声を出せなくなっていた。
契が立ち上がり、苦しむ小夜子をじっと見つめる。小夜子はただ茫然となって、豹変した幼馴染に気圧されていた。
行方が分からなくなっていた沓契が凛冴によって発見され、無事に保護されたという知らせを聞き、湯口大來は安堵の胸をなでおろした。
大來はベランダに出て、夕闇に染まっている近隣を一瞥する。あの豪雨の中、契がどのような経緯を辿って外部へ迷い出たのかは定かでなかったが、命に別状はないという報告が吉報を確かなものにしていた。
ふと、大來は傍らでじっと佇んでいるサーバと目が合った。大來は小さく息をつくと、サーバの頭を軽く撫でてやる。
「契さん、見つかったそうだよ。良かったな、サーバ」
大來がそう言うと、サーバは「くぅぅん」という寂しそうな鳴き声を、ベランダに小さく響かせた。
「なんだ、サーバ? 役に立てなかったことを気にしているのか?」
警察犬であるサーバは、契の行方を捜すべく奔走し、館の中で騒ぎを起こしてもいた。サーバの反応を見るに、契を探す手掛かりは館の内部に残されている可能性が高いと踏んだ大來たちだったが、契は館から離れた森林にある洞穴に転落していたのだという。そうなると、サーバは見当違いの捜索をしていたことになる。
「まあ、なんだ。お前だってたまには失敗くらいするさ。……ともあれ、一人の命が助かったんだ。素直に喜ばなきゃ……なあ」
サーバを励ますように言う大來だったが、サーバはまだ何かを気にしているらしく、鼻をひくひくさせながら周囲の臭いをかんだりと、落ち着かない。
屋外では先刻まで続いていた土砂降りが治まり、あの轟音も嘘のように静まり返っており、穏やかな山林が広がっていた。
ふと、大來はサーバの様子に違和感を覚えた。それは些細な変化であったかもしれないが、サーバと苦楽を共にしてきた大來だからこそ気づけたのかもしれない。
サーバの瞳がじーっと外の光景を見据えている。その瞳の奥の不吉な揺らぎに、大來は何かゾッとするものを感じていた。
「何か見えるのか……?」
大來の直感は的を射ていたが、その正体に対する理解の無さは、彼自身が転落する残酷な運命に抗えないことを物語っていた。
サーバが唸り声をあげた。獣の本能が、姿見えぬ超自然的存在に猛る衝動をぶつける。
大來は尋常ではないサーバの様子を目の当たりにし、館の内部でのサーバの行動を思い起こしていた。
(これは、あの時と同じ?)
今、異変がはっきりと影響を及ぼしている。形の無い触手が獣の怒りに対して、臨戦の構えをとっていた。
唐突に駆け出すサーバ。動揺していた大來は虚を突かれる形となったが、慌ててサーバを追いかける。大來はすぐには気付けなかったが、サーバは館内にある一室――異変の出処へと向かっていた。
尾田海次郎は眼前の若い雌に対する情欲でいきり立っていた。一気に純潔を突き破った肉棒に己の欲望のたぎりを乗せ、荒々しい抽挿を繰り返す。
「ぐぅ……んん……」
三田浬穂は泣き出したい衝動を堪えながら、若く瑞々しい肉体を主となる男の欲望の贄にする役割を担い続ける。一切の愛情を向けられることのない淫欲のはけ口に、快楽というものはまるで存在せず、ただ苦痛に耐えるしかなかった。
ぱちんぱちんと、男女の肉がぶつかり合う卑猥な音が一室に響き、その音程が狂いを増すほどに、海次郎の理性が脳内に巣食う異形によって塗り潰されていく。
海次郎の本能もまた、己の自我が失われていく憤りに震えていた。その消えゆく者の意識は、せめて最期に己の子種を植え付けようとする欲情を糧としており、碌な反応を見せない浬穂に対するもどかしさを感じていた。
やがて、海次郎を突き動かしている雑鬼と呼ばれた魍魎の意志が、海次郎のより深い官能への希求と完全にシンクロする。
海次郎は浬穂の両脇に掴みかかると、その身体を乱暴にひっくり返した。
「ん……うあ……」
仰向けになった浬穂を見下ろし、舌なめずりをする初老の男の表情は醜悪で、捕らえた女鹿を視姦する貪欲な獣の如き瞳が、浬穂の神経を逆なでする。一度引き抜かれたペニスは尚も怒張し続けており、浬穂はこれから更にエスカレートする行為の予感に身構えた。
今度は女性器にゆっくりと挿入されるペニス。浬穂は微かな呻き声をこぼしたが、ここまで耐え抜いてきた彼女にはある程度の余裕ができていた。しかし、その余裕は次の瞬間には脆くも崩れ去ることになる。
海次郎の太い両腕が、浬穂の首に回された。浬穂が「え……?」と、か細い疑問の声をもらす。その疑念への問いは、仕事の現場で鍛えられた逞しい握力で以て返答される。
「はぐぅッ!? おご……ごえぇっ!」
気道を圧迫され、潰れかけたヒキガエルのような声が漏れだす。それまでただ耐え続けていた浬穂だったが、この暴力的な締め付けに対しては理解が追いつかず、必死になって抵抗した。
「ちぃ……」
海次郎が露骨な舌打ちを鳴らし、ばたばたと暴れる浬穂の足を己の脛で抑えつけた。
(なんで……どうして……)
首を絞められている浬穂は尚も抵抗を続ける。それまで従順であり続けたメイドは、己の生命の危機に直面し、初めて主に抗う意志を示した。
(これ……死ぬ……死ぬ)
女が死ねば種を残すのは叶うはずもないのだが、思考能力が欠如している雑鬼はもとより、性衝動によって突き動かされている海次郎は、死を意識した女の生理反応によって発する膣肉の収束による男性器への快感で、歯止めが利かなくなっている。
「ん、んー! ぐぅ……んー! ふ、えぐッ」
浬穂はやめてくれるよう、助けてくれるよう、訴えようとするも、辛うじて発せられた声は苦しさのあまり、喘ぎとも悲鳴とも判別の難しい有様だった。それは結果として、理性を失っている海次郎の情欲の火に、余計な油を注いだ。
「ぐひヒ……イイぞ……いいぞ!」
海次郎は歓声に似た声を挙げると、より強い膣の締め付けを求め、両腕に一層の力をこめた。傍から見れば、今、猟奇的な快楽殺人が行われている現場と映ったことだろう。
「んご……こほ……けェ……」
ろくに声を挙げることも出来ず、僅かでも酸素を取り込もうと必死になっている浬穂の呻きが切なげに漏れ出る。両目はぐるりと回って白目を剥きかけていた。
「ヒヒ……雌のニクぅ……孕めェ……オレのごをォ!」
圧迫される膣内で限界まで怒張した肉棒が、一気に暴発した。
「ほごォ……こへェ……」
浬穂の白熱した意識は、辛うじて下腹部の内側に熱い液体が流れ込んでくるのを感じ取った。その量は並みの成人男性のものとはまるで比較に成らず、子宮の中は白濁液でぱんぱんに膨れ上がっていた。
「足りねェ……もっとだ……もっと」
海次郎のペニスは萎縮するどころか、硬く勃起した状態を保っており、更なる射精を求めて、膣肉の締め付けに逆らうように暴力的な抽挿を繰り返す。男女の結合部がぬちゃぬちゃと卑猥な音を立て、膣内に入りきらなかった精液がこぼれてべちゃべちゃになっていたが、海次郎が意に介すことはない。
浬穂は既に死に瀕していた。生命活動を維持するのに必要な呼吸が行えず、脳内の血流が阻害され続けている。それを理解できない海次郎は猛る肉棒をより深く突き入れ、再び大量の子種を流し込んだ。
浬穂は微量な息を吐きだしながら、全身を痙攣させている。辛うじて保っている意識下では、繰り返し助けを乞うていたが、それが海次郎に伝わるはずもない。
だが――。
ガシャン! と、ガラスの割れる音が響いた。浬穂はこれには気づけなかったが、海次郎の両目が魚のようにギョロリと蠢き、一室の窓ガラスを突き破った侵入者の方へ向けられた。
「げげ……へへへェ」
相手の姿を認めた海次郎が不気味な声をもらす。侵入者――御津國凛冴は、目の前の男が完全に正気を失っていることを瞬時に覚る。
海次郎は浬穂との交合を解くのが名残惜しいらしく、性器を深く結合させた状態のまま、彼女の首を絞める両手を緩めようともしない。
迷う時間などなかった。浬穂は死にかけている。凛冴は瞬時に行動へ移す。
それは勝負と呼べるほどのものでもない、一瞬の決着だった。凛冴の突き出した二本の指先が海次郎の脳天を打ち、大の男の身体が吹っ飛んだ。そのまま絨毯の上を二度バウンドして書棚に衝突する寸前のところで倒れ込み、仰向けの姿勢のまま動かなくなった。どうやら、海次郎は意識を失ったらしく、大きく開かれた口からは、涎がだらだらと流れていた。
凛冴は浬穂の前に跪き、その脈をとった。幸い、命に別状は無さそうだったが……。
「う……けほっ。こほっ。こほっ」
浬穂が、苦し気に咳き込む。意識もあるらしく、凛冴は内心ホッとしていた。ただ、異様に濃い泡立つ白濁液が漏れている股間からは目を背けている。
(もっと早く気づいていたら……)
もし、凛冴がいち早く海次郎の異変に気づいていれば、眼前のメイドが滅茶苦茶に犯されることもなかっただろう。男の色情に対する嫌悪感を抱いていた凛冴は、一人の女性が毒牙にかかる前に救えなかった己の至らなさを悔いている。
扉の向こうで慌ただしい喧噪が起こり、「何かありましたか?」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。おそらく、窓ガラスが割れた音で、警察の者が異変に気づいたのだろう。
凛冴は脱がされていた浬穂の衣装を整えてやると、扉の方へ向かい、内側から鍵を開けた。
そこに立っていたのは、巡査部長の沖島輝、それに、部下の藤樹啓多。それに、心配そうに様子を伺っている館のメイドの姿もあった。
「凛冴さん……」
輝は意外そうに呟くと、部屋の中をさっと見渡す。そして、距離をおいて床に横たわっている二人の男女の姿に気づいた。
「……凛冴さん、これは一体?」
輝はそう尋ねたが、すぐに異変を察したらしく、凛冴が答えるよりも早く海次郎の側に駆け寄る。輝は海次郎が下半身を露出した状態で倒れている姿に戸惑いながらも、じっと観察する。
「この方は……尾田海次郎さん」
輝の声は驚きに満ちている。すぐ後ろでは、啓多が戸惑いながら海次郎と浬穂の姿を見比べていた。
「そちらの女性は、無事らしい。しかし……」
輝は暫しの間、海次郎の容態を調べていたが、やがてすっと立ち上がり、凛冴の方へ向き直った。その表情には恐れと不信感が入り混じった感情が表れている。
「凛冴さん。ここで何があったか知っていますか? それとも、やはりあなたが……」
輝の言葉の真意を読み取った凛冴は、ただ短く「おおよそのことは」とだけ告げた。二人のやり取りを訝しんだ啓多が口を挟もうとしたが、輝がそれを制する。
「藤樹、急いで館の医者を呼んで、それから消防にも連絡してくれ」
「は、はい!」
事態を察した啓多は大急ぎで部屋の外へ走り去っていった。
(……間に合えば良いが)
海次郎の救命に急ぐ輝だったが、ある疑念は拭いきれなかった。
(凛冴と名乗るこの人が……殺したのか?)
海次郎は既に事切れていた。
「契?」
振り返った小夜子と、ベッドの上で上体を起こしている契の視線が重なる。
「え……」
瞬間、小夜子は周囲の空間が急速に収縮していくような錯覚に陥った。血色に染まった両目を爛々と光らせている契の全身からは、形の無い何かが小夜子を囲い込むようにして広がり、小夜子の意識を圧迫している。
途端、眩暈を覚えてよろめく小夜子。呼吸が苦しくなり、動悸が高まった。
(なに……どうしたの……)
まるで見えない太い触手が首を一周して締め付けているようで、小夜子は声を出せなくなっていた。
契が立ち上がり、苦しむ小夜子をじっと見つめる。小夜子はただ茫然となって、豹変した幼馴染に気圧されていた。
行方が分からなくなっていた沓契が凛冴によって発見され、無事に保護されたという知らせを聞き、湯口大來は安堵の胸をなでおろした。
大來はベランダに出て、夕闇に染まっている近隣を一瞥する。あの豪雨の中、契がどのような経緯を辿って外部へ迷い出たのかは定かでなかったが、命に別状はないという報告が吉報を確かなものにしていた。
ふと、大來は傍らでじっと佇んでいるサーバと目が合った。大來は小さく息をつくと、サーバの頭を軽く撫でてやる。
「契さん、見つかったそうだよ。良かったな、サーバ」
大來がそう言うと、サーバは「くぅぅん」という寂しそうな鳴き声を、ベランダに小さく響かせた。
「なんだ、サーバ? 役に立てなかったことを気にしているのか?」
警察犬であるサーバは、契の行方を捜すべく奔走し、館の中で騒ぎを起こしてもいた。サーバの反応を見るに、契を探す手掛かりは館の内部に残されている可能性が高いと踏んだ大來たちだったが、契は館から離れた森林にある洞穴に転落していたのだという。そうなると、サーバは見当違いの捜索をしていたことになる。
「まあ、なんだ。お前だってたまには失敗くらいするさ。……ともあれ、一人の命が助かったんだ。素直に喜ばなきゃ……なあ」
サーバを励ますように言う大來だったが、サーバはまだ何かを気にしているらしく、鼻をひくひくさせながら周囲の臭いをかんだりと、落ち着かない。
屋外では先刻まで続いていた土砂降りが治まり、あの轟音も嘘のように静まり返っており、穏やかな山林が広がっていた。
ふと、大來はサーバの様子に違和感を覚えた。それは些細な変化であったかもしれないが、サーバと苦楽を共にしてきた大來だからこそ気づけたのかもしれない。
サーバの瞳がじーっと外の光景を見据えている。その瞳の奥の不吉な揺らぎに、大來は何かゾッとするものを感じていた。
「何か見えるのか……?」
大來の直感は的を射ていたが、その正体に対する理解の無さは、彼自身が転落する残酷な運命に抗えないことを物語っていた。
サーバが唸り声をあげた。獣の本能が、姿見えぬ超自然的存在に猛る衝動をぶつける。
大來は尋常ではないサーバの様子を目の当たりにし、館の内部でのサーバの行動を思い起こしていた。
(これは、あの時と同じ?)
今、異変がはっきりと影響を及ぼしている。形の無い触手が獣の怒りに対して、臨戦の構えをとっていた。
唐突に駆け出すサーバ。動揺していた大來は虚を突かれる形となったが、慌ててサーバを追いかける。大來はすぐには気付けなかったが、サーバは館内にある一室――異変の出処へと向かっていた。
尾田海次郎は眼前の若い雌に対する情欲でいきり立っていた。一気に純潔を突き破った肉棒に己の欲望のたぎりを乗せ、荒々しい抽挿を繰り返す。
「ぐぅ……んん……」
三田浬穂は泣き出したい衝動を堪えながら、若く瑞々しい肉体を主となる男の欲望の贄にする役割を担い続ける。一切の愛情を向けられることのない淫欲のはけ口に、快楽というものはまるで存在せず、ただ苦痛に耐えるしかなかった。
ぱちんぱちんと、男女の肉がぶつかり合う卑猥な音が一室に響き、その音程が狂いを増すほどに、海次郎の理性が脳内に巣食う異形によって塗り潰されていく。
海次郎の本能もまた、己の自我が失われていく憤りに震えていた。その消えゆく者の意識は、せめて最期に己の子種を植え付けようとする欲情を糧としており、碌な反応を見せない浬穂に対するもどかしさを感じていた。
やがて、海次郎を突き動かしている雑鬼と呼ばれた魍魎の意志が、海次郎のより深い官能への希求と完全にシンクロする。
海次郎は浬穂の両脇に掴みかかると、その身体を乱暴にひっくり返した。
「ん……うあ……」
仰向けになった浬穂を見下ろし、舌なめずりをする初老の男の表情は醜悪で、捕らえた女鹿を視姦する貪欲な獣の如き瞳が、浬穂の神経を逆なでする。一度引き抜かれたペニスは尚も怒張し続けており、浬穂はこれから更にエスカレートする行為の予感に身構えた。
今度は女性器にゆっくりと挿入されるペニス。浬穂は微かな呻き声をこぼしたが、ここまで耐え抜いてきた彼女にはある程度の余裕ができていた。しかし、その余裕は次の瞬間には脆くも崩れ去ることになる。
海次郎の太い両腕が、浬穂の首に回された。浬穂が「え……?」と、か細い疑問の声をもらす。その疑念への問いは、仕事の現場で鍛えられた逞しい握力で以て返答される。
「はぐぅッ!? おご……ごえぇっ!」
気道を圧迫され、潰れかけたヒキガエルのような声が漏れだす。それまでただ耐え続けていた浬穂だったが、この暴力的な締め付けに対しては理解が追いつかず、必死になって抵抗した。
「ちぃ……」
海次郎が露骨な舌打ちを鳴らし、ばたばたと暴れる浬穂の足を己の脛で抑えつけた。
(なんで……どうして……)
首を絞められている浬穂は尚も抵抗を続ける。それまで従順であり続けたメイドは、己の生命の危機に直面し、初めて主に抗う意志を示した。
(これ……死ぬ……死ぬ)
女が死ねば種を残すのは叶うはずもないのだが、思考能力が欠如している雑鬼はもとより、性衝動によって突き動かされている海次郎は、死を意識した女の生理反応によって発する膣肉の収束による男性器への快感で、歯止めが利かなくなっている。
「ん、んー! ぐぅ……んー! ふ、えぐッ」
浬穂はやめてくれるよう、助けてくれるよう、訴えようとするも、辛うじて発せられた声は苦しさのあまり、喘ぎとも悲鳴とも判別の難しい有様だった。それは結果として、理性を失っている海次郎の情欲の火に、余計な油を注いだ。
「ぐひヒ……イイぞ……いいぞ!」
海次郎は歓声に似た声を挙げると、より強い膣の締め付けを求め、両腕に一層の力をこめた。傍から見れば、今、猟奇的な快楽殺人が行われている現場と映ったことだろう。
「んご……こほ……けェ……」
ろくに声を挙げることも出来ず、僅かでも酸素を取り込もうと必死になっている浬穂の呻きが切なげに漏れ出る。両目はぐるりと回って白目を剥きかけていた。
「ヒヒ……雌のニクぅ……孕めェ……オレのごをォ!」
圧迫される膣内で限界まで怒張した肉棒が、一気に暴発した。
「ほごォ……こへェ……」
浬穂の白熱した意識は、辛うじて下腹部の内側に熱い液体が流れ込んでくるのを感じ取った。その量は並みの成人男性のものとはまるで比較に成らず、子宮の中は白濁液でぱんぱんに膨れ上がっていた。
「足りねェ……もっとだ……もっと」
海次郎のペニスは萎縮するどころか、硬く勃起した状態を保っており、更なる射精を求めて、膣肉の締め付けに逆らうように暴力的な抽挿を繰り返す。男女の結合部がぬちゃぬちゃと卑猥な音を立て、膣内に入りきらなかった精液がこぼれてべちゃべちゃになっていたが、海次郎が意に介すことはない。
浬穂は既に死に瀕していた。生命活動を維持するのに必要な呼吸が行えず、脳内の血流が阻害され続けている。それを理解できない海次郎は猛る肉棒をより深く突き入れ、再び大量の子種を流し込んだ。
浬穂は微量な息を吐きだしながら、全身を痙攣させている。辛うじて保っている意識下では、繰り返し助けを乞うていたが、それが海次郎に伝わるはずもない。
だが――。
ガシャン! と、ガラスの割れる音が響いた。浬穂はこれには気づけなかったが、海次郎の両目が魚のようにギョロリと蠢き、一室の窓ガラスを突き破った侵入者の方へ向けられた。
「げげ……へへへェ」
相手の姿を認めた海次郎が不気味な声をもらす。侵入者――御津國凛冴は、目の前の男が完全に正気を失っていることを瞬時に覚る。
海次郎は浬穂との交合を解くのが名残惜しいらしく、性器を深く結合させた状態のまま、彼女の首を絞める両手を緩めようともしない。
迷う時間などなかった。浬穂は死にかけている。凛冴は瞬時に行動へ移す。
それは勝負と呼べるほどのものでもない、一瞬の決着だった。凛冴の突き出した二本の指先が海次郎の脳天を打ち、大の男の身体が吹っ飛んだ。そのまま絨毯の上を二度バウンドして書棚に衝突する寸前のところで倒れ込み、仰向けの姿勢のまま動かなくなった。どうやら、海次郎は意識を失ったらしく、大きく開かれた口からは、涎がだらだらと流れていた。
凛冴は浬穂の前に跪き、その脈をとった。幸い、命に別状は無さそうだったが……。
「う……けほっ。こほっ。こほっ」
浬穂が、苦し気に咳き込む。意識もあるらしく、凛冴は内心ホッとしていた。ただ、異様に濃い泡立つ白濁液が漏れている股間からは目を背けている。
(もっと早く気づいていたら……)
もし、凛冴がいち早く海次郎の異変に気づいていれば、眼前のメイドが滅茶苦茶に犯されることもなかっただろう。男の色情に対する嫌悪感を抱いていた凛冴は、一人の女性が毒牙にかかる前に救えなかった己の至らなさを悔いている。
扉の向こうで慌ただしい喧噪が起こり、「何かありましたか?」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。おそらく、窓ガラスが割れた音で、警察の者が異変に気づいたのだろう。
凛冴は脱がされていた浬穂の衣装を整えてやると、扉の方へ向かい、内側から鍵を開けた。
そこに立っていたのは、巡査部長の沖島輝、それに、部下の藤樹啓多。それに、心配そうに様子を伺っている館のメイドの姿もあった。
「凛冴さん……」
輝は意外そうに呟くと、部屋の中をさっと見渡す。そして、距離をおいて床に横たわっている二人の男女の姿に気づいた。
「……凛冴さん、これは一体?」
輝はそう尋ねたが、すぐに異変を察したらしく、凛冴が答えるよりも早く海次郎の側に駆け寄る。輝は海次郎が下半身を露出した状態で倒れている姿に戸惑いながらも、じっと観察する。
「この方は……尾田海次郎さん」
輝の声は驚きに満ちている。すぐ後ろでは、啓多が戸惑いながら海次郎と浬穂の姿を見比べていた。
「そちらの女性は、無事らしい。しかし……」
輝は暫しの間、海次郎の容態を調べていたが、やがてすっと立ち上がり、凛冴の方へ向き直った。その表情には恐れと不信感が入り混じった感情が表れている。
「凛冴さん。ここで何があったか知っていますか? それとも、やはりあなたが……」
輝の言葉の真意を読み取った凛冴は、ただ短く「おおよそのことは」とだけ告げた。二人のやり取りを訝しんだ啓多が口を挟もうとしたが、輝がそれを制する。
「藤樹、急いで館の医者を呼んで、それから消防にも連絡してくれ」
「は、はい!」
事態を察した啓多は大急ぎで部屋の外へ走り去っていった。
(……間に合えば良いが)
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