一線の越え方

市瀬雪

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一線の越え方

01...退廃【Side:山端逸樹】

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 俺にとってゴムは必需品だ。
 誰かと交わることは嫌いじゃないけれど、直にするのには抵抗がある。

 どんなに深く身体を繋げても、薄皮一枚で隔絶されている状態。そのぐらいの距離が心地よいと感じる俺は、やっぱり問題ありなんだろうな。

 そんなことを思いながら激しくグラインドを繰り返す俺の下で、大人の男と呼ぶには未熟な身体が揺れる。
 指が白くなるぐらいシーツを握り締めたその姿に、俺は酷く興奮した。

 初めてだったんだろう。挿れた瞬間ひきつったような声を上げた彼に、俺は気付いていて知らん振りをした。

 数ヶ月前から通い始めたジムで出会った男。
 十代後半ぐらいの幼さの残る彼を、欲求不満解消のためだけにホテルへ連れ込んだ。

 彼が、いつも俺のことを見ているのは知っていたから。羨望の眼差しで俺を見詰める彼が、誘えば断らないと計算ずくで声をかけたのだ。

 甘い囁きも、優しい愛撫も、キスさえも、俺には無縁のしろものだ。
 出したいから抱く。
 相手は誰でも構わない。
 それこそ、今回のように女じゃなくっても一向に気にしない。

 酷いヤツだと自分でも思うけれど、こういう性分なんだから仕方ない。

 一夜限りのこの逢瀬が終われば二度と会うつもりはない。
 後腐れのない関係が一番望ましいからだ。

(始めたばかりのジムだけど、解約しなくちゃな)

 そんなことを思いながら、俺は袋の中に欲望を吐き出した。




 ぐったりと眠る彼の枕元へ、三万置いて部屋を出た。

 目が覚めたら好きにするだろう。
 終わった後の相手のことは、考えないようにしている。

 肌を重ねれば情が芽生えるなんて嘘だ。
 どんなに激しく抱いても、俺は心から満たされたことがない。

(いい加減な関係をやめない代償だろうか)

 ふとそんなことを思って、一人苦笑する。

(どうでもいいけどな)

 愛だの恋だの騒いで他人に翻弄されるのはごめんだ。

 左肩にかけたリュックを持ち直すと、俺は暗くなっても尚、通行量の減らない夜の街を歩いた。

 横断歩道の向こうに、一際明るい照明に照らされてコンビニが建っている。
 それを見て、俺はふと思い出した。

(そろそろ無くなりそうだったな……)

 いつでも鞄に忍ばせているゴムが、さっき使ったので残り一個になった。

 生で犯るのは俺の性分じゃねぇ。
 買い足しておいたほうがいいだろう。

 夜のコンビニは、幸い男の店員が多い。別に女が居たからと言って気にしやしないが、何となく同性のほうが買いやすいのは確かだ。

(信号も丁度青に変わったことだし)

 そう思った俺は、コンビニを目指して道路を横断した。
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