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一線の越え方
07-2
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彼の携帯から俺の電話へワン切りしたときも、持ち主に返す前に発信履歴を消してから渡してある。
自分の番号を知られて面倒に巻き込まれるのが嫌だったからだ。
でも、今は少しだけそれを後悔していたりもする。
(俺だって怪しい電話が掛かってきたら多分無視するだろうし)
番号非通知の着信に、消された発信履歴。
電話に出てくれる可能性はかなり低そうだな、と思いつつ、かといって何故か電話を切る気にもなれなくて、俺はしばらくコールをし続けた。
そのまま十回目の呼び出し音を数えながら携帯を耳に当てていると、留守電のメッセージが流れ始めた。
普段なら絶対伝言なんて残さない主義の俺だが、今夜は少しむきになっていたんだと思う。
「……あー、俺、今日荷物を届けてもらったモンだけど……また連絡す――……」
そこまで言ったところで、
『っちょ、ちょっと待って!』
少し慌てたように彼が電話に出た。
やっぱり非通知からのしつこい着信に、用心していたらしい。
俺だと知って思わず勢いで電話に出てしまったものの、どうしていいか分からなくなったのだろう。それっきり黙り込んでしまった。
「……もしかして警戒して電話に出なかったとか?」
彼の困った顔が目に浮かんで、俺は思わず意地悪してみたくなった。
『……そ、そういうわけじゃ』
「じゃあ、どういうわけ?」
楽しくて、わざと聞こえるようにクスクス嘲笑う。
『非通知なんてろくな相手じゃないと思ったから……』
「それ、正解だったんじゃねぇ?」
彼の言葉に笑いながらそう返すと、
『ふざけんな、用がないなら切るぞ……!』
からかい過ぎたらしい。不貞腐れたような声が返ってきた。
「わりぃー。別にふざけてるつもりはなかったんだけど、アンタの反応があんまり可愛いからつい……」
からかってみたくなっただけだ。
そう告げようとしたら、
『アンタじゃない。ミキナオヒトだ』
存外怒らせてしまったらしい彼が、不機嫌さを隠さず言い放った。
「ん、了解。ナオヒト、ね。OK、OK。で、その直人君は今日バイト……」
休み? そう続けようとしたら、
『そっちは?』
またもや遮られてしまった。
「……そっち?」
『……名前』
「あー。俺? 俺はヤマハイツキ。今朝お前が見てた現場看板にも名前、書いてあったんだけど……?」
『……? そう言われてみればあったような気も……』
この反応からすると、今朝看板を見詰めていた彼は別に意識して俺の名前を見ていたわけではないということだ。
名前も知らないのに俺の勤務地を知っていた直人に、俺はますます興味をそそられる。
本当は今この場で「何で?」と疑問をぶつけることも出来た。でも、俺はあえて別の選択肢を選んでみたくなった。
(礼もしなきゃなんねぇしな)
心の中でそう呟いてから、
「で、さっきの話の続きだけど……。もし今日バイト休みだったら世話んなった礼に夕飯奢りたいんだけど……どう?」
言いながら、多分『要りません』と返ってくるだろうと予想していた。
今朝方の彼の様子からすればその流れのほうが至極自然だったから。だからこそ、そんな彼をどう説き伏せるかを頭の中でシミュレーションし始めていたのだ。
それなのに――。
『いいですよ? 俺、ちょうど今日バイト休みですし……。それに……実は俺、山端さんに相談したいことが出来て――』
想定外の返答に、俺の頭は珍しく空回りをしてしまった。
自分の番号を知られて面倒に巻き込まれるのが嫌だったからだ。
でも、今は少しだけそれを後悔していたりもする。
(俺だって怪しい電話が掛かってきたら多分無視するだろうし)
番号非通知の着信に、消された発信履歴。
電話に出てくれる可能性はかなり低そうだな、と思いつつ、かといって何故か電話を切る気にもなれなくて、俺はしばらくコールをし続けた。
そのまま十回目の呼び出し音を数えながら携帯を耳に当てていると、留守電のメッセージが流れ始めた。
普段なら絶対伝言なんて残さない主義の俺だが、今夜は少しむきになっていたんだと思う。
「……あー、俺、今日荷物を届けてもらったモンだけど……また連絡す――……」
そこまで言ったところで、
『っちょ、ちょっと待って!』
少し慌てたように彼が電話に出た。
やっぱり非通知からのしつこい着信に、用心していたらしい。
俺だと知って思わず勢いで電話に出てしまったものの、どうしていいか分からなくなったのだろう。それっきり黙り込んでしまった。
「……もしかして警戒して電話に出なかったとか?」
彼の困った顔が目に浮かんで、俺は思わず意地悪してみたくなった。
『……そ、そういうわけじゃ』
「じゃあ、どういうわけ?」
楽しくて、わざと聞こえるようにクスクス嘲笑う。
『非通知なんてろくな相手じゃないと思ったから……』
「それ、正解だったんじゃねぇ?」
彼の言葉に笑いながらそう返すと、
『ふざけんな、用がないなら切るぞ……!』
からかい過ぎたらしい。不貞腐れたような声が返ってきた。
「わりぃー。別にふざけてるつもりはなかったんだけど、アンタの反応があんまり可愛いからつい……」
からかってみたくなっただけだ。
そう告げようとしたら、
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存外怒らせてしまったらしい彼が、不機嫌さを隠さず言い放った。
「ん、了解。ナオヒト、ね。OK、OK。で、その直人君は今日バイト……」
休み? そう続けようとしたら、
『そっちは?』
またもや遮られてしまった。
「……そっち?」
『……名前』
「あー。俺? 俺はヤマハイツキ。今朝お前が見てた現場看板にも名前、書いてあったんだけど……?」
『……? そう言われてみればあったような気も……』
この反応からすると、今朝看板を見詰めていた彼は別に意識して俺の名前を見ていたわけではないということだ。
名前も知らないのに俺の勤務地を知っていた直人に、俺はますます興味をそそられる。
本当は今この場で「何で?」と疑問をぶつけることも出来た。でも、俺はあえて別の選択肢を選んでみたくなった。
(礼もしなきゃなんねぇしな)
心の中でそう呟いてから、
「で、さっきの話の続きだけど……。もし今日バイト休みだったら世話んなった礼に夕飯奢りたいんだけど……どう?」
言いながら、多分『要りません』と返ってくるだろうと予想していた。
今朝方の彼の様子からすればその流れのほうが至極自然だったから。だからこそ、そんな彼をどう説き伏せるかを頭の中でシミュレーションし始めていたのだ。
それなのに――。
『いいですよ? 俺、ちょうど今日バイト休みですし……。それに……実は俺、山端さんに相談したいことが出来て――』
想定外の返答に、俺の頭は珍しく空回りをしてしまった。
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