一線の越え方

市瀬雪

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灯る頃

14-3

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「ぁ……っ」

 微かな水音をたてながら、耳に舌先が伸ばされる。彼の腰が下腹部に押し付けられると、反射的に身体がぎくりと揺れた。

 彼の反応は見るまでもなく明らかで、と同時に、いつのまにか自分の身体にも火が灯っていたことを自覚した。

 俺の反応に気付いて、彼が笑みを深めたのがわかる。
 そのせいで余計恥ずかしさの余り消えてなくなりたいと思いながらも、

「……んん…っ…」

 三度目のキスにはもう抵抗しなかった。

 大人しく深まる口付けを受け入れて、自らも唇を浮かせると、躊躇いつつも舌を差し出し、少しでも彼に応えようと努力する。

 微かに震える瞼を伏せて、浸るように瞑目し、彼の首に回した腕にぎゅっと力を込める。

 すると吐息がかかる距離で堪らないように彼がこぼした。

「……煽るなよ」

 別に煽ってるつもりなんて――。

 言いたいのに言う隙が貰えない。逸樹さんは再び唇を重ねながら、手際よく俺の服を肌蹴にかかった。

 少しでも離れるのが惜しいみたいに、服を床に落とすのも片手間で、唇はほとんど肌の上から離れない。
 
 晒された素肌から改めて寒さを感じたけれど、傍らにあった上掛けを被せられたことでそれはすぐにましになった。

 彼の肌が密着すると、共有する体温で更に温かく感じられたし――。ていうか、逸樹さんの方は寒くねーのかな?

 そんなことをぼんやり考えていると、

「っ、あっ……!」

 耳元から首筋へと位置を変えた唇が、不意に小さな痛みを与えてきた。

「そ、そんなとこ、見えるっ……」

 思わず首を反らして、彼の唇の下に手を入れる。今のは絶対痕が付いた。

 私服はともかく、バイト先の制服だと誤魔化しがきかないのだ。下にハイネックを着るのは禁止とされているから、どうやったって外から見えてしまう。

 それは逸樹さんだって知っているはずなのに、

「別に構わねぇだろ」

 困惑する俺に、彼は白々しく笑みをひく。

 か、構わねぇわけねぇだろ!

「て言うか、ここは壁が薄そうだな。まぁそれも関係ねぇか」

 それも関係なくねぇよ!

 言うことなすこと相変わらず自分本位で、呆れる余り俺が言葉に詰まっていると、

「どのみち、今夜は我慢しねぇし」

 彼は一層不敵な笑みを浮かべて、まるでとどめを刺すようにそう宣言した。
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