一線の越え方

市瀬雪

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灯る頃

14-7(完)

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 前方を見据えていた逸樹さんの視線が、ちらとこちらに向けられる。
 不意討ちのように絡んだ視線に、俺は何故か一瞬背筋を正し、

「じゃあ、アリア……」

 そんな自分に戸惑いながらも、ぽつりと答えたのは以前にも一緒に行ったことのある近場のファミレスの名前だった。

 それを聞いた逸樹さんは、再び横目に俺を見て、

「了解」

 まるで答えが分かっていたみたいに、ふっと笑みを滲ませた。

(何が了解だよ……嬉しそうに)

 心の中で悪態をついても、もう悪い気はしていない。寧ろ擽ったいような恥ずかしいような心地で、俺はまた窓越しに逸樹さんの顔を見ていた。

 何て言うか……。

 俺を素直になれなくするのも彼だけど、素直になるきっかけをくれるのも案外彼だったりするんだよな……。

 と、そんなことをぼんやり思いながら――。

 ちなみに、その後は意外なほど平穏無事に食事して、逸樹さんのマンションに行き、俺が用意していたシャンパンとケーキを、それこそ大したものでもないのに嬉しそうに食べてくれる逸樹さんに……何て言うか、――き、きゅんとしたりしながら、それはもう本当に楽しくて幸せなクリスマスを過ごすことができた。

 俺はというと、酒の影響もあってか、恋人同士らしからぬ妙な警戒?もすっかり解けて、そのままリビングのソファでうとうとしかけたりもして――。

 でも、今思うとそれがいけなかったのかもしれない。

 ふと「酒飲んでるから送るのは朝な」と言われ、それには夢現にも素直に頷けたんだけど、まさかそのまま「そのつもりで酒は夜にって言ったんだろ」と寝室にひっぱりこまれるなんて――。

 色々ありつつも、最後は幸せなクリスマスで締められたと、俺はそう思っていたけど、彼の中でのクリスマスはまだまだこれから状態だったらしい。

 要は一人勝手に楽しかったと気を許しすぎてしまった俺の負け……?

 だけどもう、それでいいと思うしかないのかもしれない。

「お前が傍にいるのに、触れない道理はねぇだろ?」

 相変わらず自分勝手に、釘を刺すように囁く彼のことを、それでも許してしまうんだから。

「傍にいられる幸せって言葉を知らねーのかよ」

 言い返しても堪(こた)えない彼の背後で、ぱたんとドアが閉まる音がした。




……end
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