かけられたのはDom/Subの魔法でした。

市瀬雪

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Prologue

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「なんだよこれ……っ、なんだよコマンドって……!」

 喚くように言うギルベルトの声はかすれている。勝手に息が上がって、目端がじわりと熱を持つ。褐色の肌がいっそう色付いて、黒銀の瞳が滲んでいた。
 なんだか力が抜けていく。それでも努めて立ち上がろうとするのにそれも叶わない。
 理由は一つだった。目の前に佇む見慣れた男、ラファエルが口にした〝それ〟が阻んでいたからだ。
 気がつけば、ギルベルトは冷たい床の上へとぺたんと座り込んでいた。

「クソ、ふざけんな。てめぇマジぶっころす……!」
「いいですけど、今は無理じゃないですか。ほら、ギル。僕を〝見て〟」
「――!」

 ギルベルトは顔を上げる。いやなのに。この男の言葉に従うなんて不本意でしかないのに、うらはらに身体は動いてしまう。

「もう、なにも言うな……っ、息もするな!」
「むちゃ言わないでくださいよ」

 絞り出すように怒鳴りつけても、ラファエルはかち合った金色の瞳を細めるだけだった。それどころかまるで普段通りの柔らかい仕草で、手の中の文献を示唆される。

「ギル」
「る、せぇ……っ」

 吐き捨てるギルベルトからも、その古めかしい本の背表紙は見えていた。そこには〝失われた古代魔法〟と書かれていた。

「〝聞いて〟ください、ギル」
「……っ」

 もうなにも言うなと言ったのに。
 それがなにであるか確信もないまま、ラファエルはすでに〝言葉それ〟を使いこなし始めているようだった。

(クソ……っ、クソ……!)

 ギルベルトはたまらず歯噛みする。
 そのつもりもないのに逆らえない。こいつの言うままになるなんて冗談じゃないのに、従えば従うほどふわふわとした妙な感覚に包まれていく。

 なんだこれ。なんだこれ。

 まるで肌を重ねる最中に追い上げられていくみたいな。思えばますますいたたまれない心地になり、ギルベルトはふるふると首を横に振る。

「――〝いい子〟ですね」

 その頭に、ラファエルがそっと触れた。眼前で跪くギルベルトに向けて、柔らかく微笑む。再び目が合って、そして、

「……っ、!」

 あ、と思ったときには、ギルベルトの思考はたちまちほどけて、眼差しまでとろんと緩んでいた。

「ん、ぁ……なに……」

 唇が薄く開いて、甘くうわずる吐息がこぼれる。
 ラファエルの「なるほど」と言う声がどこか遠くに響く。

「最初は僕も気のせいかなとか、そんなはずないと思ったんですけど、……やっぱりこれ、Dom/Subの魔法というやつじゃないでしょうか」

 言われたところで、そのときのギルベルトにはほとんど理解できなかった。
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