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ともすれば予兆01
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カヤの手伝いはおおむね予定通りに行った。ギルベルトは不要だと言ったものの、実際にはラファエルの手が増えたことでずいぶんはかどった。
「ギルも今日、焼き菓子を頼んでいるとは思わなくて……」
「別に少ねぇよりいいわ」
ラファエルの手配していた菓子は、全てが自宅用というわけではなかった。ほとんどが代購分らしく、そのついでに持ち帰り分も用意してもらったとのことだった。それが好きなギルベルトのために。
カヤの家を出た時間は同じだったのに、先に自宅に帰っていたのはラファエルだった。ギルベルトはカヤが手配してくれた例のワインを受け取りに行く必要があったから。
向かった先は、街の中でも路地裏にひっそりと店を構えている酒屋だった。知る人ぞ知るというそこはカヤの紹介があったからこそ入れたようなもので、件の酒は陳列棚に並んでもいなかった。更に奥の方から出されたそれを、無表情の店主から渡された。青白い顔をした店主の種族はわからなかったが、ギルベルトは特に興味も抱かなかった。
それよりなにより、無事手に入れることができたワインボトルの方に夢中になっていた。深い緑色をしたそれに目を落とし、ギルベルトは無意識に口角を上げていた。
「ギルはワインを手配してくれたんですか?」
ついでに夕飯も外で済ませ、意気揚々と帰宅すると、ラファエルはちょうど風呂から上がったところだった。
脱いだモッズコートをポールハンガーにひっかけ、持っていた瓶をテーブルに置く。
ギルベルトの肌は冷えていたけれど、構わずラファエルは触れてくる。頬を撫で、当たり前のように顔を寄せられて、ふいとギルベルトはそれをかわした。
「僕も今夜は飲みたいと思っていたんです」
ラファエルはわずかに眉を下げ、けれどもさほど動じたふうもなく笑みを浮かべた。わかっていたようにいったん身を退き、テーブルの方へと向き直る。
一見すると一般的な赤ワインにしか見えない。だがその実……。なんて説明をするわけもなく、ギルベルトはまっすぐ風呂場へ向かう。
「飲ませてやるから、もうすこし〝待て〟しとけ」
それだけ言い残し、まだ温かさの残る浴室へと姿を消した。
***
ギルベルトが髪を拭きながらリビングに戻ると、ラファエルはカヤから借りた、例の文献を読んでいるところだった。布張りのカウチソファは三人掛けで、そろって百八十を越える二人が使うのにも余裕がある。
「おかえりなさい」
ラファエルが顔を上げる。首元へと滑り落ちた白金色の長髪を緩やかに掻き上げながら、柔らかな微笑みを浮かべる。
「……」
ギルベルトは無言で息をつく。
こいつの顔は嫌いじゃない。
賛美しかされないその容姿が、整っていることはギルベルトも認めている。決して口には出さないけれど。
「始めましょうか」
ラファエルは手の中の本を閉じ、目の前のローテーブルへとそれを置いた。
ギルベルトが持って帰ったワインも、グラスも、焼き菓子も、すでに同じ天板に並べられている。ギルベルトの好きなチーズも添えられていた。
「ギルも今日、焼き菓子を頼んでいるとは思わなくて……」
「別に少ねぇよりいいわ」
ラファエルの手配していた菓子は、全てが自宅用というわけではなかった。ほとんどが代購分らしく、そのついでに持ち帰り分も用意してもらったとのことだった。それが好きなギルベルトのために。
カヤの家を出た時間は同じだったのに、先に自宅に帰っていたのはラファエルだった。ギルベルトはカヤが手配してくれた例のワインを受け取りに行く必要があったから。
向かった先は、街の中でも路地裏にひっそりと店を構えている酒屋だった。知る人ぞ知るというそこはカヤの紹介があったからこそ入れたようなもので、件の酒は陳列棚に並んでもいなかった。更に奥の方から出されたそれを、無表情の店主から渡された。青白い顔をした店主の種族はわからなかったが、ギルベルトは特に興味も抱かなかった。
それよりなにより、無事手に入れることができたワインボトルの方に夢中になっていた。深い緑色をしたそれに目を落とし、ギルベルトは無意識に口角を上げていた。
「ギルはワインを手配してくれたんですか?」
ついでに夕飯も外で済ませ、意気揚々と帰宅すると、ラファエルはちょうど風呂から上がったところだった。
脱いだモッズコートをポールハンガーにひっかけ、持っていた瓶をテーブルに置く。
ギルベルトの肌は冷えていたけれど、構わずラファエルは触れてくる。頬を撫で、当たり前のように顔を寄せられて、ふいとギルベルトはそれをかわした。
「僕も今夜は飲みたいと思っていたんです」
ラファエルはわずかに眉を下げ、けれどもさほど動じたふうもなく笑みを浮かべた。わかっていたようにいったん身を退き、テーブルの方へと向き直る。
一見すると一般的な赤ワインにしか見えない。だがその実……。なんて説明をするわけもなく、ギルベルトはまっすぐ風呂場へ向かう。
「飲ませてやるから、もうすこし〝待て〟しとけ」
それだけ言い残し、まだ温かさの残る浴室へと姿を消した。
***
ギルベルトが髪を拭きながらリビングに戻ると、ラファエルはカヤから借りた、例の文献を読んでいるところだった。布張りのカウチソファは三人掛けで、そろって百八十を越える二人が使うのにも余裕がある。
「おかえりなさい」
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「……」
ギルベルトは無言で息をつく。
こいつの顔は嫌いじゃない。
賛美しかされないその容姿が、整っていることはギルベルトも認めている。決して口には出さないけれど。
「始めましょうか」
ラファエルは手の中の本を閉じ、目の前のローテーブルへとそれを置いた。
ギルベルトが持って帰ったワインも、グラスも、焼き菓子も、すでに同じ天板に並べられている。ギルベルトの好きなチーズも添えられていた。
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