かけられたのはDom/Subの魔法でした。

市瀬雪

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ことの発端03

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 ***

「なんですか、それ?」
「たぶんゴミ」
「ゴミ……」

 上から倣うように視線を落としてきたラファエルは、一冊の分厚い書物を持ったまま、わずかに苦笑する。
 カヤのことだから、ありえそうだとラファエルも思う。付き合いが長いだけに、想像は容易い。

「それより、これ見て下さいよ、ギル」
「あぁ?」
「ここ」

 ラファエルが手の中の文献を開いて見せる。

「いにしえのまほう……?」

 示された紙面には、ギルベルトにも読める文字が並んでいた。どうやら共通文字に書き直された書物らしい。原本らしきものも一緒に置いてあったから、要は翻訳されたものということかもしれない。

「面白いことが書いてあるんですよ。いまは存在しない魔法の話です」
「存在しない魔法?」

 ギルベルトは立ち上がり、ラファエルの方へと向き直る。踵があたり、また箱の中でかしゃんと小さな音が鳴った。構わず文献を眺める二人の死角で、ふいに淡く細い煙が立ちのぼる。

「禁止された魔法の話も書いてあるな」
「はい。この本、ギルも好きそうですよね」
「……」

 ギルベルトは魔法は使えない。悪魔の血も半分であるため、あえていうなら快楽に弱いというくらいの特性しか持ち合わせていなかった。
 だが、魔法は使えなくとも、魔法道具なら使うことはできるのだ。なにか面白そうな魔法があるなら、知識として持っておくのも悪くはない。

「貸してもらえるようお願いしておきましょうか」

 どのみち帰る家は同じだ。ラファエルが借りて帰るなら、ギルベルトだって読むことができる。
 普段はふらふらして自宅に帰らないことも多いギルベルトだったが、少なくとも現在いま、ともに寝泊まりしている場所が自分の住処だという認識はあった。
 よってそこに異論はなく、ギルベルトはわずかに目を細める。肯定も同じその仕草に、ラファエルはぱたんと本を閉じ、嬉しそうに微笑んだ。

 そのときだった。

「っ!」
「え……!」

 気のせいかと思うほどにか細く揺蕩っていた煙が、突如ボン! と音を立てて弾けた。
 かと思えば真っ白なもやのようなものに包まれて、二人はげほげほと咳き込んでしまう。
 けれどもそれも数秒のことで、反射的に閉じていた目を開けたときには、嘘のように消えていた。

「は……?」
「なん……だったんでしょうか」

 ラファエルは静かに息をつき、周囲に視線を巡らせる。ギルベルトも同様に一望するけれど、特に気になるようなものは見つからなかった。

「別に身体もなんともねぇし……」
「それはそう……みたいですね」

 ギルベルトの言葉にラファエルも頷いた。

「とりあえず、先に片付けてしまいましょうか。さきほどのことは、あとでカヤにも報告しておきます」

 ラファエルは持っていた書物を軽く叩いて、本の山へと戻っていく。かたわら、ちらりと肩越しに振り返り、

「ギル、こちらを先に手伝ってください」

 あなたの方が力は強いので。
 あえて眉尻を下げて頼れば、「しかたねぇな」と、ギルベルトも存外満更でもない表情で踏み出すのだった。
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