7 / 51
魔法の発動01
しおりを挟む
「ギル」
名を呼ぶと同時に向けられた眼差しが、柔らかく細められる。かち合った視線の先で、金の瞳が色を深め、ほのかに揺らめいて見えた。
「……っ」
グラスを傾けようとしていた、ギルベルトの手が一瞬止まる。身のうちをビリ、とかすかな電流が流れるような、覚えのない感覚がした。
「ギル」
再度呼ばれて、はっとしたように頭を振った。グラスを呷り、誤魔化すように問い返す。
「なんだよ、うるせぇな」
「カヤに借りた本に、面白い魔法の話がいくつかあったんです」
「面白い魔法?」
ラファエルの前、同じテーブルの端にその書物は置かれていた。その表紙をちらりと見やって、ギルベルトは怪訝そうに眉をひそめる。
「いろんな魔法があったんですけど、中でもギルが好きそうだなと思ったのが……」
「……?」
「ええと、なんだったかな」
面白そうだと思いながら、ギルベルトはまだその中身についてはよく知らない。知っているのはカヤの家で目にした〝存在しない魔法〟や〝禁止された魔法〟と言った項目があることくらいで、それ以外には〝擬人化の魔法〟が準・禁止魔法に該当するらしい、というラファエルの言葉を覚えている程度だった。
「ギル、コマンドって知ってます?」
「コマンド?」
突然振られた言葉に、ギルベルトの黒銀の虹彩がかすかに揺れる。ラファエルは手の中のグラスを回しながら静かに続けた。
「はい。なんでも、現在は存在しないと言われる二次性というものがあって……」
「二次性?」
「うーん。言葉にすると難しいな。二次性と呼ばれるもの自体はいくつか種類があるようなんですが、中でも主従……支配と従属の性というのが……」
「はぁ……?」
支配と、従属?
ますます訝しげに目を眇めるギルベルトをよそに、ラファエルはゆっくりとグラスの中身を飲み干した。
「……なんだか僕、さっきからちょっと変なんですよね」
「……。……んなの、ちょっと酒に酔ったとかそういうのだろ」
急になにを言い出したかと思えば……。
要は早くもこの特殊なワインに酔っ払って、さっきまで読んでいた本の中の、面白そうな部分を教えてやろうということだろう。
なんだよクソ。面倒くさい酔い方しやがって。そもそも俺はまだ読んでねぇんだぞ。とんだネタバレだ。
酔うなら酔うで、とっとと力が入らない~とか、眠くなってきました……とかになればいいのに。
密かに舌打ちをしたギルベルトは、ラファエルの空いたグラスにワインを注ぐ。
珍しい、とラファエルはわずかに目を見開いた。次には嬉しそうに眦を下げ、ギルベルトが自分のグラスにもそれを注ぎ終えるのを見届けてから、ふたたびそっと口を開く。
「ギル」
目が合った。かと思えば、
「〝kneel〟」
その瞬間、ギルベルトの中で何かが弾けた。知らず燻っていた火種が一気に温度を上げて、
「な、――っ」
気がついたときには、ギルベルトはぺたんとラファエルの足もとに座り込んでいた。
へぇ……? と、ラファエルが感嘆の声を漏らす。わけがわからないまま冷たい床へと尻を落としていたギルベルトは、ただ信じ難く目を見開き、ラファエルの顔を見上げていた。
「これが、コマンドって言うものらしいですよ」
ラファエルは悠然と微笑んだ。伸ばした手はグラスには触れず、かたわらの書物を取り上げる。
名を呼ぶと同時に向けられた眼差しが、柔らかく細められる。かち合った視線の先で、金の瞳が色を深め、ほのかに揺らめいて見えた。
「……っ」
グラスを傾けようとしていた、ギルベルトの手が一瞬止まる。身のうちをビリ、とかすかな電流が流れるような、覚えのない感覚がした。
「ギル」
再度呼ばれて、はっとしたように頭を振った。グラスを呷り、誤魔化すように問い返す。
「なんだよ、うるせぇな」
「カヤに借りた本に、面白い魔法の話がいくつかあったんです」
「面白い魔法?」
ラファエルの前、同じテーブルの端にその書物は置かれていた。その表紙をちらりと見やって、ギルベルトは怪訝そうに眉をひそめる。
「いろんな魔法があったんですけど、中でもギルが好きそうだなと思ったのが……」
「……?」
「ええと、なんだったかな」
面白そうだと思いながら、ギルベルトはまだその中身についてはよく知らない。知っているのはカヤの家で目にした〝存在しない魔法〟や〝禁止された魔法〟と言った項目があることくらいで、それ以外には〝擬人化の魔法〟が準・禁止魔法に該当するらしい、というラファエルの言葉を覚えている程度だった。
「ギル、コマンドって知ってます?」
「コマンド?」
突然振られた言葉に、ギルベルトの黒銀の虹彩がかすかに揺れる。ラファエルは手の中のグラスを回しながら静かに続けた。
「はい。なんでも、現在は存在しないと言われる二次性というものがあって……」
「二次性?」
「うーん。言葉にすると難しいな。二次性と呼ばれるもの自体はいくつか種類があるようなんですが、中でも主従……支配と従属の性というのが……」
「はぁ……?」
支配と、従属?
ますます訝しげに目を眇めるギルベルトをよそに、ラファエルはゆっくりとグラスの中身を飲み干した。
「……なんだか僕、さっきからちょっと変なんですよね」
「……。……んなの、ちょっと酒に酔ったとかそういうのだろ」
急になにを言い出したかと思えば……。
要は早くもこの特殊なワインに酔っ払って、さっきまで読んでいた本の中の、面白そうな部分を教えてやろうということだろう。
なんだよクソ。面倒くさい酔い方しやがって。そもそも俺はまだ読んでねぇんだぞ。とんだネタバレだ。
酔うなら酔うで、とっとと力が入らない~とか、眠くなってきました……とかになればいいのに。
密かに舌打ちをしたギルベルトは、ラファエルの空いたグラスにワインを注ぐ。
珍しい、とラファエルはわずかに目を見開いた。次には嬉しそうに眦を下げ、ギルベルトが自分のグラスにもそれを注ぎ終えるのを見届けてから、ふたたびそっと口を開く。
「ギル」
目が合った。かと思えば、
「〝kneel〟」
その瞬間、ギルベルトの中で何かが弾けた。知らず燻っていた火種が一気に温度を上げて、
「な、――っ」
気がついたときには、ギルベルトはぺたんとラファエルの足もとに座り込んでいた。
へぇ……? と、ラファエルが感嘆の声を漏らす。わけがわからないまま冷たい床へと尻を落としていたギルベルトは、ただ信じ難く目を見開き、ラファエルの顔を見上げていた。
「これが、コマンドって言うものらしいですよ」
ラファエルは悠然と微笑んだ。伸ばした手はグラスには触れず、かたわらの書物を取り上げる。
20
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~
Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい
俺だけに命令して欲しい
俺の全てをあげるから
俺以外を見ないで欲しい
俺だけを愛して………
Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、
でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ
俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を
Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です!
Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。
こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!
(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動
相沢蒼依
BL
名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。
一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。
青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。
《届かぬ調べに、心が響き合い》
https://estar.jp/novels/26414089
https://blove.jp/novel/265056/
https://www.neopage.com/book/32111833029792800
(ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ
いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。
いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。
※pixivにも同様の作品を掲載しています
【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話
紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。
理想の彼氏はスパダリよ!
スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。
受:安田陽向
天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。
社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。
社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。
ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。
攻:長船政景
35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。
いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。
妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。
サブキャラ
長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。
抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。
兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。
高田寿也:28歳、美咲の彼氏。
そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。
義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる