かけられたのはDom/Subの魔法でした。

市瀬雪

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魔法の発動01

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「ギル」

 名を呼ぶと同時に向けられた眼差しが、柔らかく細められる。かち合った視線の先で、金の瞳が色を深め、ほのかに揺らめいて見えた。

「……っ」

 グラスを傾けようとしていた、ギルベルトの手が一瞬止まる。身のうちをビリ、とかすかな電流が流れるような、覚えのない感覚がした。

「ギル」

 再度呼ばれて、はっとしたように頭を振った。グラスを呷り、誤魔化すように問い返す。

「なんだよ、うるせぇな」
「カヤに借りた本に、面白い魔法の話がいくつかあったんです」
「面白い魔法?」

 ラファエルの前、同じテーブルの端にその書物は置かれていた。その表紙をちらりと見やって、ギルベルトは怪訝そうに眉をひそめる。

「いろんな魔法があったんですけど、中でもギルが好きそうだなと思ったのが……」
「……?」
「ええと、なんだったかな」

 面白そうだと思いながら、ギルベルトはまだその中身についてはよく知らない。知っているのはカヤの家で目にした〝存在しない魔法〟や〝禁止された魔法〟と言った項目があることくらいで、それ以外には〝擬人化の魔法〟が準・禁止魔法に該当するらしい、というラファエルの言葉を覚えている程度だった。

「ギル、コマンドって知ってます?」
「コマンド?」

 突然振られた言葉に、ギルベルトの黒銀の虹彩がかすかに揺れる。ラファエルは手の中のグラスを回しながら静かに続けた。

「はい。なんでも、現在は存在しないと言われる二次性というものがあって……」
「二次性?」
「うーん。言葉にすると難しいな。二次性と呼ばれるもの自体はいくつか種類があるようなんですが、中でも主従……支配と従属の性というのが……」
「はぁ……?」

 支配と、従属?

 ますます訝しげに目を眇めるギルベルトをよそに、ラファエルはゆっくりとグラスの中身を飲み干した。

「……なんだか僕、さっきからちょっと変なんですよね」
「……。……んなの、ちょっと酒に酔ったとかそういうのだろ」

 急になにを言い出したかと思えば……。
 要は早くもこの特殊なワインに酔っ払って、さっきまで読んでいた本の中の、面白そうな部分を教えてやろうということだろう。

 なんだよクソ。面倒くさい酔い方しやがって。そもそも俺はまだ読んでねぇんだぞ。とんだネタバレだ。
 酔うなら酔うで、とっとと力が入らない~とか、眠くなってきました……とかになればいいのに。
 密かに舌打ちをしたギルベルトは、ラファエルの空いたグラスにワインを注ぐ。
 珍しい、とラファエルはわずかに目を見開いた。次には嬉しそうに眦を下げ、ギルベルトが自分のグラスにもそれを注ぎ終えるのを見届けてから、ふたたびそっと口を開く。

「ギル」

 目が合った。かと思えば、

「〝kneel〟」

 その瞬間、ギルベルトの中で何かが弾けた。知らず燻っていた火種が一気に温度を上げて、

「な、――っ」

 気がついたときには、ギルベルトはぺたんとラファエルの足もとに座り込んでいた。
 へぇ……? と、ラファエルが感嘆の声を漏らす。わけがわからないまま冷たい床へと尻を落としていたギルベルトは、ただ信じ難く目を見開き、ラファエルの顔を見上げていた。

「これが、コマンドって言うものらしいですよ」

 ラファエルは悠然と微笑んだ。伸ばした手はグラスには触れず、かたわらの書物を取り上げる。
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