かけられたのはDom/Subの魔法でした。

市瀬雪

文字の大きさ
8 / 51

魔法の発動02

しおりを挟む

 ***


「なんだよこれ……っ、なんだよコマンドって……!」

 喚くように言うギルベルトの声はかすれていた。勝手に息が上がって、目端は熱を持ち、黒銀の瞳はじわりと滲んでいる。
 なんだか力が抜けていく。それでも努めて立ち上がろうとするのにそれも叶わない。
 なんで。なんでこんなことに。
 睨み付けても怖いくらいに微笑まれるだけで、ギルベルトは逃げるように顔を背けた。それだけのことすら容易くはなく、額に汗が滲む。
 ギルベルトはなにもわからない。だがラファエルはおそらく知っている。

「クソ、ふざけんな。てめぇマジぶっころす……!」
「いいですけど、今は無理じゃないですか。ほら、ギル。僕を〝見て〟」
「――!」

 ギルベルトはふたたび顔を上げる。いやなのに。この男の言葉通りになんて不本意でしかないのに、うらはらに身体が動いてしまう。
 わかっているのに教えてくれない。だけどそのもったいぶった〝言葉〟になにかあるのだろうことだけはしだいに理解する。
 となれば、まずはその口を塞がなければ。

「もう、なにも言うな……っ、息もするな!」
「むちゃ言わないでくださいよ」

 絞り出すように怒鳴りつけても、ラファエルはかち合った金色の瞳を細めるだけだった。それどころかまるで普段通りの柔らかい仕草で、手の中の文献を示唆される。

「ギル」
「る、せぇ……っ」

 吐き捨てるギルベルトからも、その古めかしい本の背表紙は見えていた。そこには〝失われた古代魔法〟と書かれている。

「〝聞いて〟ください、ギル」
「……っ」

 もうなにも言うなと言ったのに。

 その正体がなにであるか確信もないまま――いや、それを確信に変えるべく、ラファエルは言葉を重ねる。

(クソ……っ、クソ……!)

 ギルベルトはたまらず歯噛みする。
 そのつもりもないのに逆らえない。こいつの言うままになるなんて冗談じゃないのに、従えば従うほどふわふわとした妙な感覚に包まれていく。

 まるで肌を重ねる最中に追い上げられていくみたいに――気持ちいい。

 自覚するとますますいたたまれない心地になり、ギルベルトはふるふると首を横に振る。

「――〝いい子〟ですね」

 その頭に、ラファエルがそっと触れる。眼前で跪くギルベルトに柔らかく微笑む。再び瞳がかち合って、そして、

「……っ、!」

 あ、と思ったときには、何かが注ぎ込まれていた。瞳の色が深みを増して、逸らせないそこから浴びるのは目には見えないなにかだった。
 気のせいだと思おうとした。だけど明確に影響が出る。ギルベルトの思考はたちまちほどけて、普段なら苛烈なばかりの眼差しまで頼りないほどにとろんと緩む。

「ん、ぁ……なに……」

 唇が薄く開いて、こぼれる吐息が甘く上ずる。
 ラファエルの「なるほど」と言う声がどこか遠くに響く。

「最初は僕も気のせいかなとか、そんなはずないと思ったんですけど、……やっぱりこれ、Dom/Subの魔法というやつじゃないでしょうか」

 言われたところで、おぼつかない思考回路に処理できるはずもなく、

「もっと……もっと褒めろ、……」

 ギルベルトは知らず下腹部を濡らしながら、次にはラファエルの手に自ら頭を擦り付けていた。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~

Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい 俺だけに命令して欲しい 俺の全てをあげるから 俺以外を見ないで欲しい 俺だけを愛して……… Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、 でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ 俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です! Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。 こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動

相沢蒼依
BL
 名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。  一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。  青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。 《届かぬ調べに、心が響き合い》 https://estar.jp/novels/26414089 https://blove.jp/novel/265056/ https://www.neopage.com/book/32111833029792800 (ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)

ゲームにはそんな設定無かっただろ!

猫宮乾
BL
 大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。

久しぶりの発情期に大好きな番と一緒にいるΩ

いち
BL
Ωの丞(たすく)は、自分の番であるαの かじとのことが大好き。 いつものように晩御飯を作りながら、かじとを待っていたある日、丞にヒートの症状が…周期をかじとに把握されているため、万全の用意をされるが恥ずかしさから否定的にな。しかし丞の症状は止まらなくなってしまう。Ωがよしよしされる短編です。 ※pixivにも同様の作品を掲載しています

【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。 理想の彼氏はスパダリよ! スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。 受:安田陽向 天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。 社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。 社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。 ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。 攻:長船政景 35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。 いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。 妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。 サブキャラ 長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。 抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。 兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。 高田寿也:28歳、美咲の彼氏。 そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。 義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。

処理中です...