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セーフワードの行方07
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ギルベルトが目を覚ましたとき、寝室は真っ暗だった。正確にはリビング差し込む灯りに一部の床が照らされているけれど、それもベッドまでは届かない。
「……」
ギルベルトはサイドボードに置いてあった一枚の紙きれに手を伸ばす。ラファエルが置いたのだろうそれを無言で見つめて、そこに書いてある文字を目で辿る。
「カラー……」
洗い立てのシーツの上に、下着一枚の状態でうつ伏せたまま、反芻するように読み上げた。
「……〝カラーガホシイ〟」
それはラファエルが提示し、ギルベルトが選択したセーフワードだった。
カラー。カラーってなんだよ。
最初は意味がわからなかった。わからなかったけれど、別にいいと思った。セーフワードを決めたときには、本当に内容なんてどうでもよくて、とにかく自分が使える最強のカードが欲しかったから。
だからいざそういう場面になったとき――しつようにコマンドを重ねられたときには早速使ってやろうと口を開いた。だけどそこでラファエルが言った。
「ギル、Collarって知ってます?」
Collarとは、DomからSubへ贈られる信頼の証のことだ。ただし、それをラファエルは所有の証だと説明した。自分はあなたのものであると、自らそれを選択した証だと。もちろん、あえてそういう言い方をしたのだ。
その上で、それを使ったセーフワードを〝もう無理だと思ったら〟いつでもどうぞ、ご自由に、と言い置いた。にっこり微笑って、念を押すように。
そんなふうに言われて、極度の負けず嫌いであるギルベルトに「はいそうですか」と使えるはずもない。
「クソ……」
ギルベルトは枕に横顔を埋めたまま、いまいましげに手の中の紙きれを握り込んだ。
セーフワードは一方の気分だけでころころ変えられるものじゃない。双方合意の上で決めた言葉だからこそ効力を発揮するのだ。よっていまはこれしかない。泣いても笑っても、これ以外の言葉でラファエルは止められない。
「……クソ、マジで死ね……」
ベッドから見えるリビングのテーブルには例の文献が載っている。苛立つギルベルトの気分に反して、キッチンからはカチャカチャと食器の擦れるような音がのんきに響いていた。ラファエルが遅めの夕食を作っているらしい。
それがまた腹立たしくてギルベルトは歯噛みする。歯噛みしながらも枕に顔を押し付けると、覚えのある匂いが鼻腔を満たした。清涼感のある上品な匂い。それが誰のものであるかは考えるまでもない。
「まずい飯出しやがったらひっくり返してやる……」
重怠い身体を投げ出し、癖のように悪態をつく。けれどもその枕がベッドから払い落とされることはない。なんなら無意識に顔をすりつけながら、ギルベルトは浸るように目を閉じる。耳にはめられたルビーのピアスに、無意識に触れながら。
ギルベルトが目を覚ましたとき、寝室は真っ暗だった。正確にはリビング差し込む灯りに一部の床が照らされているけれど、それもベッドまでは届かない。
「……」
ギルベルトはサイドボードに置いてあった一枚の紙きれに手を伸ばす。ラファエルが置いたのだろうそれを無言で見つめて、そこに書いてある文字を目で辿る。
「カラー……」
洗い立てのシーツの上に、下着一枚の状態でうつ伏せたまま、反芻するように読み上げた。
「……〝カラーガホシイ〟」
それはラファエルが提示し、ギルベルトが選択したセーフワードだった。
カラー。カラーってなんだよ。
最初は意味がわからなかった。わからなかったけれど、別にいいと思った。セーフワードを決めたときには、本当に内容なんてどうでもよくて、とにかく自分が使える最強のカードが欲しかったから。
だからいざそういう場面になったとき――しつようにコマンドを重ねられたときには早速使ってやろうと口を開いた。だけどそこでラファエルが言った。
「ギル、Collarって知ってます?」
Collarとは、DomからSubへ贈られる信頼の証のことだ。ただし、それをラファエルは所有の証だと説明した。自分はあなたのものであると、自らそれを選択した証だと。もちろん、あえてそういう言い方をしたのだ。
その上で、それを使ったセーフワードを〝もう無理だと思ったら〟いつでもどうぞ、ご自由に、と言い置いた。にっこり微笑って、念を押すように。
そんなふうに言われて、極度の負けず嫌いであるギルベルトに「はいそうですか」と使えるはずもない。
「クソ……」
ギルベルトは枕に横顔を埋めたまま、いまいましげに手の中の紙きれを握り込んだ。
セーフワードは一方の気分だけでころころ変えられるものじゃない。双方合意の上で決めた言葉だからこそ効力を発揮するのだ。よっていまはこれしかない。泣いても笑っても、これ以外の言葉でラファエルは止められない。
「……クソ、マジで死ね……」
ベッドから見えるリビングのテーブルには例の文献が載っている。苛立つギルベルトの気分に反して、キッチンからはカチャカチャと食器の擦れるような音がのんきに響いていた。ラファエルが遅めの夕食を作っているらしい。
それがまた腹立たしくてギルベルトは歯噛みする。歯噛みしながらも枕に顔を押し付けると、覚えのある匂いが鼻腔を満たした。清涼感のある上品な匂い。それが誰のものであるかは考えるまでもない。
「まずい飯出しやがったらひっくり返してやる……」
重怠い身体を投げ出し、癖のように悪態をつく。けれどもその枕がベッドから払い落とされることはない。なんなら無意識に顔をすりつけながら、ギルベルトは浸るように目を閉じる。耳にはめられたルビーのピアスに、無意識に触れながら。
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