かけられたのはDom/Subの魔法でした。

市瀬雪

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すれ違い02

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 ばさりと羽を羽ばたかせ、寒空を行くギルベルトの首にはリリスに借りた真っ白いマフラー。帰りぎわにリリスに巻いてもらったとき、なんだかその純白っぷりがラファエルみたいだとぼんやり思ったものだった。

「……ただいま」

 ドアを開け、普段あまり使うことのない言葉を口にする。部屋に電気が灯っているのは知っていた。おそらくラファエルはリビングのソファにでも座っているだろう。

「……?」

 マフラーをほどきながら部屋を進む。あいかわらずテーブルには例の本がのっていた。けれども、そこにラファエルの姿はなかった。ギルベルトは瞬き、視線を転じようとした。

「おかえりなさい」

 そこで声をかけられる。いつのまにか、背後にラファエルが立っていた。
 まだキッチンにいたというなら、別におかしな話じゃない。おかしくはないけれど、それでもギルベルトは驚いた。

「飲んできたんですか?」
「……飲んできたら悪ぃのかよ」

 ラファエルは微笑んでいた。その笑顔は見慣れたものであるはずなのに、どこか不自然にも感じられる。とはいえ、ギルベルトはあくまでも普段通りに返す。ラファエルは「そうですか」と目を伏せた。
 ギルベルトはわずかに眉を寄せ、ともあれ首にひっかけていたマフラーに手をかける。

「……それ、誰に借りたんですか?」
「は……?」
「石鹸の香りもしてますよね。……どこで誰と何をしてきたんですか?」

 ラファエルは前髪を掻き上げながら息をついた。視線は落としたままなので表情はよくわからない。
 けれども、その声はいくぶん低く、冷ややかで、その抑揚のない言いようからも、かえって感情的になりつつあるのは見てとれた。だってギルベルトの知るラファエルは笑みを絶やさない。それがどういう状況であろうと、ラファエルの表情はいつもにこやかだ。声だって柔らかい。
 それが気に入らないと思うこともよくあった。だけどラファエルのそんな態度が、ギルベルトは嫌いではなかった。
 なのに、

「……別に俺さまがどこでなにしようが、お前には関係ないだろ」

 やはりギルベルトは素直になれない。口をつくのは憎まれ口ばかりで、あてつけるように引き抜いたマフラーをラグの上に落とした。

「飯。食ってやるから用意しろよ」

 続けながら、愛用のモッズコートのジッパーを下ろす。室内は暖かいけれど、身体はまだ少し冷えていて、寒暖差に軽く肩を震わせた。

「ギル」

 名を呼ばれた。
 ギルベルトははっとする。

「――〝kneel〟」

 振り返った瞬間、身体の芯が痺れるような感覚がした。

「……ギル、顔を上げて下さい」

 崩れ落ちるようにして床へと座り込んだギルベルトに、ラファエルは淡々と指示を重ねる。
 ギルベルトはゆっくり視線を上げる。脱ぎかけていたコートから一方の肩が覗く。構わずラファエルをまっすぐに見上げて、瞳を揺らした。注がれるグレアが強い。

「な、んで……」

 ギルベルトは呼気を震わせる。繋ぎ止めた理性の中で、訝しげな顔をする。目端はじわりと赤く染まり、しだいに息も上がって、あろうことか下腹部ははやくも兆し始めていたけれど、ぺたんと冷たい床の上に座り込んだ格好のまま、ギルベルトは小さく首を振った。

「ラ、ファエ……」
「僕の質問に答えてください」
「は……?」
「〝教えて〟、ギル。あなたがどこでなにをしてきたのか。ここに帰って来ない間、誰のことを考えていたんですか?」

 ――言いたくない。

 ギルベルトは奥歯を噛み締めた。
 コマンドを使われても、ギルベルトは再度首を横に振るだけだった。

「……逆らうんですか?」

 ラファエルは驚き、それからすっと目を細めた。

 逆らうんですか。
 逆らえるんですか。
 あなたは僕の言うことが聞けないんですか。

 ギルベルトはラファエルを見据えたまま、それでも口を開かない。口を開けば勝手に答えてしまいそうで、必死に唇を噛み締めていた。

「……ベッドに行きましょう、ギル」

 びくりとギルベルトの肩が揺れる。怯むような心地に身が竦む。なのに身体はいっそう熱を持ち、不本意な期待に下着はすでに濡れていた。
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