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後悔の先に05
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「……なんでそんなに頑ななんだよ。素直になれって言ったのお前だろ」
呆れ混じりに口にすると、ラファエルはいっそうばつが悪いように俯いた。
「はあ……うっぜ」
吐き捨てながら、ギルベルトはラファエルの手をいっそうぎゅっと握り締める。痛みが走るほどのそれにラファエルはぴくりと目を眇め、けれどもなお顔は上げない。
「……申し訳なく思ってるんです」
「あ?」
「あんなふうに、意地になって……あなたの尊厳を踏みにじって。……使うつもりのなかった薬まで使ってしまって」
使うつもりのなかった薬なんて、大事に持ってんじゃねぇよ。
心の中でつっこみながら、ギルは小さく肩を竦める。
「そこはほんとそう。そこまでしてなにがしたかったのか、いまだに俺にはさっぱりだし」
はっきり言ってやれば、ラファエルは更に視線を落とす。束の間の沈黙が流れ、そして白状するように呟いた。
「……あなたを、サブスペースに入れたかったんです」
「……は?」
「だけど、そもそもサブスペースというのは、僕の……Dom側の意思で入れられるようなものじゃなくて……、あくまでもあなたが、Sub自らが入るもので」
ギルベルトは眉を寄せた。そんなことは自分だって知っている。
「……だから?」
「だから結局、無理でした。でも、無理だとわかったら、それならそれで、せめてあなたの口からあの言葉が聞きたいと思ってしまって」
「セーフワードか」
「……はい。ごめんなさい。本来そういう使い方をするものじゃないのに。それなのに、ともすればセーフワードを言えだなんて、無茶な要求を……」
「まぁ、それにも俺さまは従わなかったけどな」
ギルベルトはあからさまに息をつき、どこか得意気に言った。
「はい……だからよけいに意地になってしまいました。それまで一度だってあなたは壊れなかったし……その強さに甘えてしまいました」
「俺を弱ぇみてぇに言うんじゃねぇ」
かぶせるように言ってみても、ラファエルはすみません、と頭を下げるだけだった。
ラファエルはいつになく殊勝な態度で、それこそギルベルトがどう返しても、一切応戦してこなかった。後悔ばかりを口にして、ただひたすらに謝罪を繰り返す。
もしかしたら、いまのラファエルなら俺に抱かれるんじゃないだろうか。なんて思ってしまうほど、ラファエルは素直で謙虚だった。
ギルベルトはふと視線を落とす。そこには重ねたままの二人の手があって、その下にはカヤの本が置いてあった。
「……ランクってのがあるんだろ」
「え?」
「Domにも、Subにも、その力の強さを表すレベルみてぇな」
「ああ、はい。そうみたいですね」
「たぶん俺さまは、その中でいうと最上ランクだな。いうなればSubの王様みてぇな。だからお前にも簡単には屈しなかったんだろ」
Subの王様……。それにはラファエルも少し視線を上げる。ギルベルトの例えがあまりにかわいくて、つい呼気を揺らしてしまう。
「いえ、でも、ちゃんと聞いてくれたことも……」
ラファエルはゆっくり顔を上げた。問うようにギルベルトを見返して、わずかに首を傾げる。
「……たぶん、選んでるのはSubだ」
「え?」
「対する力が拮抗するとき、最終的な決定権はSubにある」
要するに、ギルベルトはただ強いられていたわけじゃない。一方的に好きにされていたわけでもなくて、ギルベルト自身がそうしたいからそうしていたにすぎなかった。
最初こそわけがわからなくなったりもしたけれど、ギルベルトだって実際Subとしてのランクは高かったわけで、だからこそあんな結果となってしまった。
「ギル……」
もちろん、客観的に見れば性格上居た堪れない心地にはなるのだけれど、それはそれとして、根っこの部分ではちゃんと許容していた。それを選ばなかったのは、ラファエルの気持ちが見えなくなっていたときだ。いくら相手が特別な存在だろうと、あまりに自分本位な欲求を受け入れることはできなかった。
自分のためにも、ラファエルのためにも。
「……それって」
ラファエルは目を見張る。
それからぐるぐると考えた。
「それって……要は僕が従わせてたんじゃなくて、ギルが選んで従ってくれてたってことですか? Subの本能に任せただけでなく……?」
「……」
「それって、僕のコマンドに応えてくれた瞬間は、本当に素直になってくれてたってことですか? 心から……?」
「それってそれってうるせェな」
「ということは、僕がキスしてっていったときにしてくれたのは、あなたもしたいと思ってくれたからですか?」
「言い方変えても一緒なんだよ! つか、そこまで言ってねぇし!」
ギルベルトは声を荒げた。
ラファエルの瞳にも光が宿る。次第にいつものペースが戻ってくる。
「だいたい、使うつもりのなかった薬ならはなから処分しとけや!」
「なんでいまその話を蒸し返すんですか」
「ずっと思ってたからだよ!」
まるで空気が読めないとでも言われた気になって、ギルベルトは思い切りラファエルの手を握り締める。それこそ林檎でも砕かんばかりに。
「いった……! ていうか、こっちだってさっきから手が痛いと思ってたんですよ。あなた馬鹿力なんですから少しは考えてください」
「うっせー、死ね!」
言うなり、ギルベルトは投げつけるように振り払う。空いた手はすぐさまコートのポケットに戻して、
「帰る!」
ギルベルトはふいと背を向け、羽を広げる。
ラファエルもまた文献を手に、真っ白な翼を顕現させる。
「待ってください、僕も帰ります」
息が白くなるほど周囲の気温は低いのに、解かれた手のひらはまだ熱い。空へと舞い上がりながら、ラファエルはそっと手のひらを握り込む。そうして余韻のように残る体温をそこに閉じ込めた。
呆れ混じりに口にすると、ラファエルはいっそうばつが悪いように俯いた。
「はあ……うっぜ」
吐き捨てながら、ギルベルトはラファエルの手をいっそうぎゅっと握り締める。痛みが走るほどのそれにラファエルはぴくりと目を眇め、けれどもなお顔は上げない。
「……申し訳なく思ってるんです」
「あ?」
「あんなふうに、意地になって……あなたの尊厳を踏みにじって。……使うつもりのなかった薬まで使ってしまって」
使うつもりのなかった薬なんて、大事に持ってんじゃねぇよ。
心の中でつっこみながら、ギルは小さく肩を竦める。
「そこはほんとそう。そこまでしてなにがしたかったのか、いまだに俺にはさっぱりだし」
はっきり言ってやれば、ラファエルは更に視線を落とす。束の間の沈黙が流れ、そして白状するように呟いた。
「……あなたを、サブスペースに入れたかったんです」
「……は?」
「だけど、そもそもサブスペースというのは、僕の……Dom側の意思で入れられるようなものじゃなくて……、あくまでもあなたが、Sub自らが入るもので」
ギルベルトは眉を寄せた。そんなことは自分だって知っている。
「……だから?」
「だから結局、無理でした。でも、無理だとわかったら、それならそれで、せめてあなたの口からあの言葉が聞きたいと思ってしまって」
「セーフワードか」
「……はい。ごめんなさい。本来そういう使い方をするものじゃないのに。それなのに、ともすればセーフワードを言えだなんて、無茶な要求を……」
「まぁ、それにも俺さまは従わなかったけどな」
ギルベルトはあからさまに息をつき、どこか得意気に言った。
「はい……だからよけいに意地になってしまいました。それまで一度だってあなたは壊れなかったし……その強さに甘えてしまいました」
「俺を弱ぇみてぇに言うんじゃねぇ」
かぶせるように言ってみても、ラファエルはすみません、と頭を下げるだけだった。
ラファエルはいつになく殊勝な態度で、それこそギルベルトがどう返しても、一切応戦してこなかった。後悔ばかりを口にして、ただひたすらに謝罪を繰り返す。
もしかしたら、いまのラファエルなら俺に抱かれるんじゃないだろうか。なんて思ってしまうほど、ラファエルは素直で謙虚だった。
ギルベルトはふと視線を落とす。そこには重ねたままの二人の手があって、その下にはカヤの本が置いてあった。
「……ランクってのがあるんだろ」
「え?」
「Domにも、Subにも、その力の強さを表すレベルみてぇな」
「ああ、はい。そうみたいですね」
「たぶん俺さまは、その中でいうと最上ランクだな。いうなればSubの王様みてぇな。だからお前にも簡単には屈しなかったんだろ」
Subの王様……。それにはラファエルも少し視線を上げる。ギルベルトの例えがあまりにかわいくて、つい呼気を揺らしてしまう。
「いえ、でも、ちゃんと聞いてくれたことも……」
ラファエルはゆっくり顔を上げた。問うようにギルベルトを見返して、わずかに首を傾げる。
「……たぶん、選んでるのはSubだ」
「え?」
「対する力が拮抗するとき、最終的な決定権はSubにある」
要するに、ギルベルトはただ強いられていたわけじゃない。一方的に好きにされていたわけでもなくて、ギルベルト自身がそうしたいからそうしていたにすぎなかった。
最初こそわけがわからなくなったりもしたけれど、ギルベルトだって実際Subとしてのランクは高かったわけで、だからこそあんな結果となってしまった。
「ギル……」
もちろん、客観的に見れば性格上居た堪れない心地にはなるのだけれど、それはそれとして、根っこの部分ではちゃんと許容していた。それを選ばなかったのは、ラファエルの気持ちが見えなくなっていたときだ。いくら相手が特別な存在だろうと、あまりに自分本位な欲求を受け入れることはできなかった。
自分のためにも、ラファエルのためにも。
「……それって」
ラファエルは目を見張る。
それからぐるぐると考えた。
「それって……要は僕が従わせてたんじゃなくて、ギルが選んで従ってくれてたってことですか? Subの本能に任せただけでなく……?」
「……」
「それって、僕のコマンドに応えてくれた瞬間は、本当に素直になってくれてたってことですか? 心から……?」
「それってそれってうるせェな」
「ということは、僕がキスしてっていったときにしてくれたのは、あなたもしたいと思ってくれたからですか?」
「言い方変えても一緒なんだよ! つか、そこまで言ってねぇし!」
ギルベルトは声を荒げた。
ラファエルの瞳にも光が宿る。次第にいつものペースが戻ってくる。
「だいたい、使うつもりのなかった薬ならはなから処分しとけや!」
「なんでいまその話を蒸し返すんですか」
「ずっと思ってたからだよ!」
まるで空気が読めないとでも言われた気になって、ギルベルトは思い切りラファエルの手を握り締める。それこそ林檎でも砕かんばかりに。
「いった……! ていうか、こっちだってさっきから手が痛いと思ってたんですよ。あなた馬鹿力なんですから少しは考えてください」
「うっせー、死ね!」
言うなり、ギルベルトは投げつけるように振り払う。空いた手はすぐさまコートのポケットに戻して、
「帰る!」
ギルベルトはふいと背を向け、羽を広げる。
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