18 / 43
連載
第20話 バベルを散歩してみる
しおりを挟む
「本当に……国なのね」
翌日、朝食を摂った俺たちは着替えを終えると早速街へと繰り出した。
「一体どれだけの人間が暮らしてるんだ?」
町は活気にあふれていて、大人から子供までが笑顔で歩き回っていた。その人数は、よくこんなダンジョン内にと思うほどに多く、一体どのような生活をしているのかと疑問を抱いた。
「それ似合ってるわね。完全にこの場に溶け込んでいるみたいだから見失わないようにしないとね」
俺たちが着ているのは宿の人間に用意してもらった服だ。
この街の一般的な衣装らしく、外の世界の格好は目立つからと注意された。
「そっちは浮いているようだけどな」
シーラも同じような服を着ているのだが、艶やかな髪と見惚れそうになる美貌。均整の取れた身体が人の目を惹きつけるため、大いに目立っている。
「そうかしら……うん、そんな私と一緒できるなんて嬉しいでしょう?」
口元に手をやると少し考え笑ってみせる。
「言ってろよ」
そう言った俺は、彼女を突き放すようにさっさと歩き出すのだが……。
「うそうそ、ごめんって」
後から追いかけてくる彼女を見ながら、最近張りつめていたシーラの様子が元に戻ったことに安堵した。
「とりあえず、どこでもいいから買い物をしておきたいな」
街並みをしばらく歩く。
これまで通ってくる途中には様々な店があり、様々な物が売っていた。
「この身分証がそのままお財布にもなってるのよね?」
兵士から説明されたのだが、バベルでのお金のやり取りはすべてこの身分証で行われるらしい。
ひとまず、俺とシーラの身分証にそれぞれ二十万ベルずつお金が入っているのだが、本当にお金を持っているのか実感がわかないので、どこかで使ってみようと思ったのだ。
「あそこに地図があるから、見てみましょうよ」
途中、シーラが街頭に立っている地図を発見した。
「これに近くの店が載っているのね、この【ⅩーⅥーⅡ】ってなにかしら?」
地図に映っているのは十層の一部の形で、左から順番にⅠ~Ⅸの番号が振られている。
「さあ、とりあえず近くの人に聞くのが早そうだ。聞いてみてくれないか?」
人と話すのは苦手だ、俺が提案するとシーラは「仕方ないわね」とためいきを吐くと近くを歩いていた女性に話し掛けた。
「わかったわよ、ピート。最初の【Ⅹ】はこの層を示していて、次の【Ⅵ】は区画らしいわ。全部で十二の区画に分かれているらしくてここは六番目なんだって」
「最後の【Ⅱ】というのは?」
「この区画だけでも広いから、場所を示すために全部で九カ所に区切っているらしいわ」
それで【ⅩーⅥーⅡ】というわけか、地図の現在地から確認して俺たちがこの層に入ったのは【ⅩーⅥーⅧ】のはず。つまり、北上していたことがわかる。
「それでね、何か良い店がないか聞いたんだけど、三番目の区域に美味しいケーキを出すカフェがあるらしいの」
三番目の区域となるとここから東に行けばすぐの場所だ。情報収集だけではなく、ちゃっかりお勧めの店まで調べてきたようだ。
「じゃあ、そこに行ってみるとするか」
「うん」
俺がそう答えると、彼女は嬉しそうに頷くのだった。
「ここがお勧めのカフェか、結構人が入ってるわね」
「……ああ、そうだな」
シーラは興味深そうに周囲を見渡しているが、この場にいるのは女性が殆どだった。
外の世界ではこういった店に一切寄り付かなかった俺だ、女性を同伴したからといって慣れるものでもない。
周囲の視線を感じると、気まずさで押しつぶされそうになった。
「ふーん、ケーキセットはそこそこの値段って感じね。外と比べると……私にはわからないかも?」
値段からバベルの水準を推測しようとしたのだろうが、首を傾げていた。
「とりあえず何でもいいから注文しよう」
俺はそう言うと、ウェイトレスを呼ぶ。
「えっ、もう? まだ決めてないのに!」
あくまで情報収集のために入ったのだ。とっとと食べてこの気まずい場所から離れたい。
「御注文はお決まりでしょうか?」
「ケーキセット。飲み物は紅茶で砂糖を多めにつけてくれ」
「ぷっ!」
「なんだよ?」
「砂糖多めって、ピート甘いのが好きなんだね?」
魔道士は基本的に頭脳労働が多いので、糖分が不足しがちになる。俺はむっとすると言い返した。
「そう言うからにはそっちはちゃんとした注文をするんだろうな?」
「も、もちろんよ。私はこう見えてもこういう場所には慣れているんだから」
「どうなさいますか?」
ウェイトレスが注文を聞き返すと、シーラはメニューから顔を上げた。
「わ、私はケーキセットダブルで……」
これでは俺の注文とあまり変わらない。そう思っていると、
「それと飲み物は紅茶にブランデーを用意してください」
メニューを閉じると勝ち誇った笑みを浮かべる。
上流階級の人間はティーパーティーの際に酒も楽しむと聞いたことがあるが、それを実行するとは……。
「そうだ、一つ聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
注文を受けて戻ろうとするウェイトレスを俺は呼び止めた。
「ここでは一ヶ月どのくらいの金で生活できる?」
「……うーんとですね」
ウェイトレスは口元に手を当て考え込んだ。
「両親に子供が二人の四人家族で月に二十万ベルで生活するのが一般的ですね」
「そうか、ありがとう」
知りたかったことがわかり、俺が礼を言うと……。
「いえいえ、わからないことがあれば何でも聞いてください。私、もうすぐ上がりなので時間をとりますよ?」
耳元に唇を寄せ囁いてくる。それは助かると思って返事をしようとすると……。
「ピート、君?」
「ひっ!」
シーラの背後からオーラが立ち昇ってウェイトレスを睨んでいた。
「そ、それじゃあ私はオーダーを通してきますので」
シーラの視線から逃れるようにウェイトレスが飛んでいく。
「せっかく、情報を聞けるチャンスだったのに……」
話を聞かせてもらうなら協力的な相手の方が良い。彼女は俺に対しても嫌な顔一つせず質問に答えてくれたし適任だったのだが……。
「ふーん、ピートはああいう娘が好みなんだ?」
「何を言っている?」
頬を膨らませたシーラに俺は怪訝な目を向ける。
「なんでもないわ!」
それからしばらくするとケーキが到着し、シーラは黙々とケーキを食べるのだった。
翌日、朝食を摂った俺たちは着替えを終えると早速街へと繰り出した。
「一体どれだけの人間が暮らしてるんだ?」
町は活気にあふれていて、大人から子供までが笑顔で歩き回っていた。その人数は、よくこんなダンジョン内にと思うほどに多く、一体どのような生活をしているのかと疑問を抱いた。
「それ似合ってるわね。完全にこの場に溶け込んでいるみたいだから見失わないようにしないとね」
俺たちが着ているのは宿の人間に用意してもらった服だ。
この街の一般的な衣装らしく、外の世界の格好は目立つからと注意された。
「そっちは浮いているようだけどな」
シーラも同じような服を着ているのだが、艶やかな髪と見惚れそうになる美貌。均整の取れた身体が人の目を惹きつけるため、大いに目立っている。
「そうかしら……うん、そんな私と一緒できるなんて嬉しいでしょう?」
口元に手をやると少し考え笑ってみせる。
「言ってろよ」
そう言った俺は、彼女を突き放すようにさっさと歩き出すのだが……。
「うそうそ、ごめんって」
後から追いかけてくる彼女を見ながら、最近張りつめていたシーラの様子が元に戻ったことに安堵した。
「とりあえず、どこでもいいから買い物をしておきたいな」
街並みをしばらく歩く。
これまで通ってくる途中には様々な店があり、様々な物が売っていた。
「この身分証がそのままお財布にもなってるのよね?」
兵士から説明されたのだが、バベルでのお金のやり取りはすべてこの身分証で行われるらしい。
ひとまず、俺とシーラの身分証にそれぞれ二十万ベルずつお金が入っているのだが、本当にお金を持っているのか実感がわかないので、どこかで使ってみようと思ったのだ。
「あそこに地図があるから、見てみましょうよ」
途中、シーラが街頭に立っている地図を発見した。
「これに近くの店が載っているのね、この【ⅩーⅥーⅡ】ってなにかしら?」
地図に映っているのは十層の一部の形で、左から順番にⅠ~Ⅸの番号が振られている。
「さあ、とりあえず近くの人に聞くのが早そうだ。聞いてみてくれないか?」
人と話すのは苦手だ、俺が提案するとシーラは「仕方ないわね」とためいきを吐くと近くを歩いていた女性に話し掛けた。
「わかったわよ、ピート。最初の【Ⅹ】はこの層を示していて、次の【Ⅵ】は区画らしいわ。全部で十二の区画に分かれているらしくてここは六番目なんだって」
「最後の【Ⅱ】というのは?」
「この区画だけでも広いから、場所を示すために全部で九カ所に区切っているらしいわ」
それで【ⅩーⅥーⅡ】というわけか、地図の現在地から確認して俺たちがこの層に入ったのは【ⅩーⅥーⅧ】のはず。つまり、北上していたことがわかる。
「それでね、何か良い店がないか聞いたんだけど、三番目の区域に美味しいケーキを出すカフェがあるらしいの」
三番目の区域となるとここから東に行けばすぐの場所だ。情報収集だけではなく、ちゃっかりお勧めの店まで調べてきたようだ。
「じゃあ、そこに行ってみるとするか」
「うん」
俺がそう答えると、彼女は嬉しそうに頷くのだった。
「ここがお勧めのカフェか、結構人が入ってるわね」
「……ああ、そうだな」
シーラは興味深そうに周囲を見渡しているが、この場にいるのは女性が殆どだった。
外の世界ではこういった店に一切寄り付かなかった俺だ、女性を同伴したからといって慣れるものでもない。
周囲の視線を感じると、気まずさで押しつぶされそうになった。
「ふーん、ケーキセットはそこそこの値段って感じね。外と比べると……私にはわからないかも?」
値段からバベルの水準を推測しようとしたのだろうが、首を傾げていた。
「とりあえず何でもいいから注文しよう」
俺はそう言うと、ウェイトレスを呼ぶ。
「えっ、もう? まだ決めてないのに!」
あくまで情報収集のために入ったのだ。とっとと食べてこの気まずい場所から離れたい。
「御注文はお決まりでしょうか?」
「ケーキセット。飲み物は紅茶で砂糖を多めにつけてくれ」
「ぷっ!」
「なんだよ?」
「砂糖多めって、ピート甘いのが好きなんだね?」
魔道士は基本的に頭脳労働が多いので、糖分が不足しがちになる。俺はむっとすると言い返した。
「そう言うからにはそっちはちゃんとした注文をするんだろうな?」
「も、もちろんよ。私はこう見えてもこういう場所には慣れているんだから」
「どうなさいますか?」
ウェイトレスが注文を聞き返すと、シーラはメニューから顔を上げた。
「わ、私はケーキセットダブルで……」
これでは俺の注文とあまり変わらない。そう思っていると、
「それと飲み物は紅茶にブランデーを用意してください」
メニューを閉じると勝ち誇った笑みを浮かべる。
上流階級の人間はティーパーティーの際に酒も楽しむと聞いたことがあるが、それを実行するとは……。
「そうだ、一つ聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
注文を受けて戻ろうとするウェイトレスを俺は呼び止めた。
「ここでは一ヶ月どのくらいの金で生活できる?」
「……うーんとですね」
ウェイトレスは口元に手を当て考え込んだ。
「両親に子供が二人の四人家族で月に二十万ベルで生活するのが一般的ですね」
「そうか、ありがとう」
知りたかったことがわかり、俺が礼を言うと……。
「いえいえ、わからないことがあれば何でも聞いてください。私、もうすぐ上がりなので時間をとりますよ?」
耳元に唇を寄せ囁いてくる。それは助かると思って返事をしようとすると……。
「ピート、君?」
「ひっ!」
シーラの背後からオーラが立ち昇ってウェイトレスを睨んでいた。
「そ、それじゃあ私はオーダーを通してきますので」
シーラの視線から逃れるようにウェイトレスが飛んでいく。
「せっかく、情報を聞けるチャンスだったのに……」
話を聞かせてもらうなら協力的な相手の方が良い。彼女は俺に対しても嫌な顔一つせず質問に答えてくれたし適任だったのだが……。
「ふーん、ピートはああいう娘が好みなんだ?」
「何を言っている?」
頬を膨らませたシーラに俺は怪訝な目を向ける。
「なんでもないわ!」
それからしばらくするとケーキが到着し、シーラは黙々とケーキを食べるのだった。
164
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。