19 / 22
第19話 眠り姫様
しおりを挟む
「シンジさん、姫様が目覚めました!」
訓練場で剣を振っていると、パメラが現れた。
遠く離れた廊下から大声で叫ぶと、彼女は胸に手を当て呼吸を整えた。
俺に知らせるためにここまで走ってきたのだろう。
「わ、わかった。すぐ行くっ!」
俺は急いで剣を鞘へと納める。
「悪いけど、抜けさせてもらう」
「ああ、行ってやれ」
「ちっ!」
佐藤と小林に声を掛けると、俺はパメラの下へと急いだ。
「姫様に異常はないのか?」
俺は恐る恐る確認する。
「ええ、まだ自分の状況を把握できていないのか寝ぼけている様子ですが、健康に問題はありません。治癒士のお墨付きです」
「そっか、良かった……」
ほっと息を吐く。
「まずは姫様にあって話をしたい。急ごう」
俺はパメラに声を掛けると、急ぎ足でオリヴィアが寝ている部屋へと向かうのだった。
荘厳な作りのドアの前に立つ。
城の中でも高位の人間でなければ使うことを許されない部屋だ。
試練が終わり、オリヴィアがこの部屋に運び込まれてから一週間が経過した。
その間、彼女が目を覚ますことはなく、治癒士とパメラが泊まり込んで治療にあたっていた。
俺もこの一週間、城に寝泊まりをしていたのだが、最悪の状況が頭をよぎるせいで訓練に明け暮れていた。
今は一刻も早くオリヴィアの無事を確認したい。
廊下の後ろにパメラの姿が映ったが、彼女が追い付くまでまだ時間が掛かる。焦れた俺はドアを開けることにした。
「姫様、無事か!」
次の瞬間、目に飛び込んで来たのはオリヴィアの肢体だった。
身体を清めている最中だったのか、水に濡らしたタオルで身体を拭いている。
雫が身体に張り付き流れていく、彼女も突然現れた俺をみて驚いていた。
俺は彼女の肢体を観察する。倒れた原因はムカデの毒ではないと言われているが、本当にそうなのか、外傷がないか確認をしたかったからだ。
先日の浴場同様、綺麗な肌が目に映る。流れるように胸元を隠す艶やかな髪。程よく膨らんだ二つの山、釣り上がった目に、赤く染まった肌。
先日の記憶と少し違う部分があるが、おおむね問題なさそうだ。俺がそう考えて安心していると……。
「とっとと出ていきなさいよ! 馬鹿ぁーーーーー!!」
彼女は目に涙を浮かべて、近くにあった壺を掴むと俺に投げつけてきた。
「本当に、申し訳ありません」
改めて、オリヴィアが着替えを終えたので部屋へと通される。
俺は入るなり土下座をすると、彼女に許しを請うた。
「ふんっ!」
天蓋付きのベッドに腰掛け、腕を組みながら顔を背ける。用意してあったドレスに着替えているのだが、恐ろしく似合っている。
それにしてもこの反応は何だろう?
以前、浴場であった時は無視されたのだが、一方的に裸を見られるのは気に入らないということなのか。謝罪をするなら俺も脱がなければ駄目だろうか?
「駄目ですよ、シンジさん。着替え中の姫様の部屋に入るなんて」
そんなことを考えていると、パメラが眉根を寄せて怒っていた。
怒るというよりは諭す感じで、どこか甘さの残る裁定に見える。お姉さんに怒られているようでいまいち迫力に欠けた。
「ごめん、まさか着替えてるとは思わなくて……」
一刻も早くオリヴィアの元気な姿を見たいと思ったからなのだが、それは言い訳にはならない。
「姫様も、ごめんなさい」
俺は真剣な表情で、再度頭を下げた。
「別に、良いわよ。あんたに見られたところで気にしないから」
「そういうセリフは耳を赤くしながら言っても逆効果ですよ、姫様」
「なっ!」
パメラの指摘にオリヴィアは慌てふためく。彼女のこのような表情はこれまで見たことがない。
「それで、姫様。あれから何があったんだ?」
ムカデの毒にやられて倒された後のことを俺は知らない。彼女に救われたのならそれをきちんと認識しておきたくて聞いてみる。
「別に、あなたが倒れたから私が魔法で倒しただけよ」
どうやら概ね予想通りらしい。
「俺に解毒剤を飲ませたのも姫様?」
既に意識を失っていて身体の自由も効かなくなっていた。自分で飲んだとは考え辛い。
俺が確認をすると、彼女は自分の唇に手を触れ、何かを思い出したかのように顔を赤くする。まだ体調が戻っていないのだろうか?
「そ、そうよっ! 私が飲ませてあげたの」
「ありがとうございます。あのままだと死んでいましたよ」
事実が判明したので、改めて俺はオリヴィアに頭を下げた。
「それで、結局、姫様はなんで一週間の眠り込んだんですか?」
彼女の容態について知っておきたい。俺は真剣な声でオリヴィアに質問する。
「それはですね、姫様は――」
「パメラ、口を噤みなさい」
「ひ、姫様?」
何か言葉を発しようとしたパメラを、オリヴィアは睨みつけると黙らせた。
張りつめた空気が部屋の中に発生する。
「こいつにだけは……言わないで」
そして、細い声を出しパメラに懇願した。
瞳が揺れていて不安そうな表情を見せる。
「わ、わかりましたよ。姫様の仰せのままに」
納得した様子のパメラだが、俺としては非常に気になるところだ。
「あなたも探りを入れるんじゃないわよ?」
睨みつけてくるオリヴィアに俺は頷くと、
「わかりました」
それ以上の追及が出来なくなった。
訓練場で剣を振っていると、パメラが現れた。
遠く離れた廊下から大声で叫ぶと、彼女は胸に手を当て呼吸を整えた。
俺に知らせるためにここまで走ってきたのだろう。
「わ、わかった。すぐ行くっ!」
俺は急いで剣を鞘へと納める。
「悪いけど、抜けさせてもらう」
「ああ、行ってやれ」
「ちっ!」
佐藤と小林に声を掛けると、俺はパメラの下へと急いだ。
「姫様に異常はないのか?」
俺は恐る恐る確認する。
「ええ、まだ自分の状況を把握できていないのか寝ぼけている様子ですが、健康に問題はありません。治癒士のお墨付きです」
「そっか、良かった……」
ほっと息を吐く。
「まずは姫様にあって話をしたい。急ごう」
俺はパメラに声を掛けると、急ぎ足でオリヴィアが寝ている部屋へと向かうのだった。
荘厳な作りのドアの前に立つ。
城の中でも高位の人間でなければ使うことを許されない部屋だ。
試練が終わり、オリヴィアがこの部屋に運び込まれてから一週間が経過した。
その間、彼女が目を覚ますことはなく、治癒士とパメラが泊まり込んで治療にあたっていた。
俺もこの一週間、城に寝泊まりをしていたのだが、最悪の状況が頭をよぎるせいで訓練に明け暮れていた。
今は一刻も早くオリヴィアの無事を確認したい。
廊下の後ろにパメラの姿が映ったが、彼女が追い付くまでまだ時間が掛かる。焦れた俺はドアを開けることにした。
「姫様、無事か!」
次の瞬間、目に飛び込んで来たのはオリヴィアの肢体だった。
身体を清めている最中だったのか、水に濡らしたタオルで身体を拭いている。
雫が身体に張り付き流れていく、彼女も突然現れた俺をみて驚いていた。
俺は彼女の肢体を観察する。倒れた原因はムカデの毒ではないと言われているが、本当にそうなのか、外傷がないか確認をしたかったからだ。
先日の浴場同様、綺麗な肌が目に映る。流れるように胸元を隠す艶やかな髪。程よく膨らんだ二つの山、釣り上がった目に、赤く染まった肌。
先日の記憶と少し違う部分があるが、おおむね問題なさそうだ。俺がそう考えて安心していると……。
「とっとと出ていきなさいよ! 馬鹿ぁーーーーー!!」
彼女は目に涙を浮かべて、近くにあった壺を掴むと俺に投げつけてきた。
「本当に、申し訳ありません」
改めて、オリヴィアが着替えを終えたので部屋へと通される。
俺は入るなり土下座をすると、彼女に許しを請うた。
「ふんっ!」
天蓋付きのベッドに腰掛け、腕を組みながら顔を背ける。用意してあったドレスに着替えているのだが、恐ろしく似合っている。
それにしてもこの反応は何だろう?
以前、浴場であった時は無視されたのだが、一方的に裸を見られるのは気に入らないということなのか。謝罪をするなら俺も脱がなければ駄目だろうか?
「駄目ですよ、シンジさん。着替え中の姫様の部屋に入るなんて」
そんなことを考えていると、パメラが眉根を寄せて怒っていた。
怒るというよりは諭す感じで、どこか甘さの残る裁定に見える。お姉さんに怒られているようでいまいち迫力に欠けた。
「ごめん、まさか着替えてるとは思わなくて……」
一刻も早くオリヴィアの元気な姿を見たいと思ったからなのだが、それは言い訳にはならない。
「姫様も、ごめんなさい」
俺は真剣な表情で、再度頭を下げた。
「別に、良いわよ。あんたに見られたところで気にしないから」
「そういうセリフは耳を赤くしながら言っても逆効果ですよ、姫様」
「なっ!」
パメラの指摘にオリヴィアは慌てふためく。彼女のこのような表情はこれまで見たことがない。
「それで、姫様。あれから何があったんだ?」
ムカデの毒にやられて倒された後のことを俺は知らない。彼女に救われたのならそれをきちんと認識しておきたくて聞いてみる。
「別に、あなたが倒れたから私が魔法で倒しただけよ」
どうやら概ね予想通りらしい。
「俺に解毒剤を飲ませたのも姫様?」
既に意識を失っていて身体の自由も効かなくなっていた。自分で飲んだとは考え辛い。
俺が確認をすると、彼女は自分の唇に手を触れ、何かを思い出したかのように顔を赤くする。まだ体調が戻っていないのだろうか?
「そ、そうよっ! 私が飲ませてあげたの」
「ありがとうございます。あのままだと死んでいましたよ」
事実が判明したので、改めて俺はオリヴィアに頭を下げた。
「それで、結局、姫様はなんで一週間の眠り込んだんですか?」
彼女の容態について知っておきたい。俺は真剣な声でオリヴィアに質問する。
「それはですね、姫様は――」
「パメラ、口を噤みなさい」
「ひ、姫様?」
何か言葉を発しようとしたパメラを、オリヴィアは睨みつけると黙らせた。
張りつめた空気が部屋の中に発生する。
「こいつにだけは……言わないで」
そして、細い声を出しパメラに懇願した。
瞳が揺れていて不安そうな表情を見せる。
「わ、わかりましたよ。姫様の仰せのままに」
納得した様子のパメラだが、俺としては非常に気になるところだ。
「あなたも探りを入れるんじゃないわよ?」
睨みつけてくるオリヴィアに俺は頷くと、
「わかりました」
それ以上の追及が出来なくなった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜
咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。
そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。
「アランくん。今日も来てくれたのね」
そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。
そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。
「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」
と相談すれば、
「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。
そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。
興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。
ようやく俺は気づいたんだ。
リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。
ハーレムキング
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。
効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。
日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。
青年は今日も女の子を口説き回る。
「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」
「変な人!」
※2025/6/6 完結。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる