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第37話 緊急離脱

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「はぁはぁはぁ……」

「はぁはぁはぁ……んっ」

 二人して息を切らせている。

 全身から汗が吹き出し、思考が定まらない。

 ドラゴンがブレスを放った瞬間、俺たちは脱出石でその場を離脱した。最後に肌に感じた熱量からして、もし直撃を受けていたら今頃こうしてここにはいなかっただろう。

 右手には折れた火属性剣を握っているのだが、修理する設備もないのでこれはもう使えないだろう。

 それよりも胸の奥からふつふつと感情があふれ出してくる。

「危なかった……」

 元々、ドラゴン討伐は超危険な仕事だと聞いていた。

 国から選りすぐりの戦士や魔道士を集め集団で挑むもの。
 万全の準備を整えてなお、犠牲を出さなければ倒すことができない。

 そんなモンスター相手にたった二人で挑むのは無謀というのは理解できる。

「反則すぎますっ! あの威力、判断が一歩遅れていたら私たちは死んでいました」

 キキョウもケモミミをペタリを伏せると尻尾を震わせている。
 これまでが順調だったばかりに、あまりにも理不尽な死に方をしそうになったので感情が溢れているようだ。

「今はひとまず生き延びたことを喜ぼう」

 もし万が一、別な場面で遭遇していた場合、態勢を崩れたまま殺されていた可能性もある。
 そうならなかっただけ運が良かったと言いたい。

「どうした、キキョウ?」

 ようやく息を整え、麻痺していた思考が元に戻ると、キキョウが身体を寄せ俺に抱き着いてきた。

「怖かったです。今回ばかりは本当に死ぬかと思って……、もしあのまま死んでいたらと考えたら……」

 俺の腕の中でキキョウの身体が震えている。

「ライアス、もっと強く抱きしめてください」

 彼女が恐怖を振り払えるように俺は強く抱きしめた。

 胸元に顔を埋め呼吸をする。全身に彼女の身体の柔らかさを感じ心臓が脈打ち落ち着かない。

「ライアスも凄くドキドキしていたんですね」

「いや、これはどちらかと言うと、キキョウがくっついてるからなんだが……」

 このままでは別な意味で精神力がもたない。離れて欲しいと思っていると……。

「ライアスも男性だったのですね、でも駄目です。そう言うのは契りをかわしてからですよ」

 その先はお互いに言葉にしない。
 俺もキキョウも故郷に戻るためにユグドラシル迷宮に潜っている。

 状況に流されてしまうと、最終的に誰も幸せになれない結果が待っていると知っているから……。

「キキョウ?」

「スースースー」

 ずっと迷宮に籠りきりの上、最後にあんなとんでもないモンスターと対峙して精神力が限界を迎えたらしい。

 キキョウは俺の腕の中で意識を失うとあどけない寝顔を晒していた。
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