町で噂のあの人は

秋赤音

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変わらない日々と新たな出会い

5.謎の男と、訪ねる人

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冷たい日差しが町を見守る午後時間。
そこには、二人の迷い人がいた。

「ねえ?迷った、よね」
「迷った、ですね」
「まあ、来たの二度目だし仕方ない…あ、すみません!」

女性たちは、偶然近くを通った男性に声をかける。

「はい。どうされました?」
「『八百屋の仞』って、どこにあるかご存じですか?」
「はい。知ってます。よければ一緒に行きますか?
同じ方面に用事があるので」
「お願いします!ありがとうございます」

男性は、すぐに、先導するよう前を歩き始める。

「剛さんのこと、分かるといいね」
「うん!楽しみだなー」

そして、三人は無事に『八百屋の仞』へ着いた。

「ここです。私はこれで、失礼します」

そう言って、男性は女性と店の前で別れ、店の中へ入っていった。

「兄さん、お客様」
「秋人、ちょうどよかった。
今から剛さんのところだろう。これ、ついでに」
「わかった」
「潮さん、なんて?」
「ありがとうございますって。とても喜んでいた」
「よかった。いってらっしゃい。剛さんによろしくね」
「うん」

店員を親しそうに話す男性は、『剛さん』のところへ行くらしい。
女性は、聞き耳を立てながら、
現れたもう一人の男性と話をする。

「いらっしゃませ」
「ここのオススメは、なんですか?」
「今日は、白菜ですね。
鍋や汁物にぜひ。焼いても美味しいです」

にっこりと笑いながら話す男性は、
近くにある白菜を一瞥し、そう言った。

「泰河、試食ない?」
「さっき、なくなりました」
「そうか。あ、あれなら…お嬢様方、漬物は好きですか?」

道案内の男性を見送った男性は、女性たちへ声をかける。

「「あ、はい」」
「では、少々お待ちください」

そう言って、店の奥へ入る。
少しして、小さなお皿を手に戻ってきた。

「お待たせしました。よろしければ、どうぞ。
うちで漬けた白菜の浅漬けです」
「ありがとうございます!いただきます」
「いただきます」

お皿と使い捨ての割りばしを渡す男性は、。
食べ終わるのを、愛嬌のある笑顔を浮かべながら待つ。

「「ごちそうさまでした」」
「お粗末様です」

そう言って、割りばしとお皿を両手で受け取る。

「美味しかったです。売ってないんですか?
お皿も可愛いです!」
「申し訳ありません。売り物ではないですが
簡単にできるので、献立の一品にオススメです。
お皿は、『雑貨屋 湊』さんで買ったものです」
「そうですか。でしたら、白菜一つください!」
「私も一つください」
「ありがとうございます。泰河、頼む」
「はい」

男性は、泰河と呼ぶ人に後を任せて、奥へ入った。
女性たちが会計を済ませて移動しようとしたとき、
紙を手に持ち再び出てくる。

「あ、よかったです。
お二人とも、よろしければ、どうぞ。
漬物の作り方です」
「わ!ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございます」

柔らかく笑う男性は、綺麗な礼をする。

「『雑貨屋 湊』さんは、どこにあるんですか?」
「あ…」

戸惑う女性に、質問をした女性がため息をつきながら、
向き合った。

「行きたいんでしょう。また迷うと大変だし」
「うん…」

女性の一人が、改めて男性に向き直る。

「『雑貨屋 湊』さんと、『魚屋 潮』さんに行きたいのですが
初めてきた場所なので地図だけだと迷いそうで…」
「そうでしたか。湊さんは、そろそろ終わりですね。
潮さんは、これから居酒屋の時間ですが、開いてはいます」
「さむっ…」

不意に吹いた風が、女性の身を縮ませる。

「菫、薄着だもんね。はい、これ着てて」
「桜はいいの?」
「私は着こんでいるから」
「ありがとー」

桜と呼ばれる女性は、手に持っている上着を隣にいる女性に渡す。

「大丈夫ですか?」

来た時よりも冷える風と、空を彩る橙色が夕暮れを告げている。

「大丈夫です。戻れば車もあります。
ありがとうございます」
「よろしければ、車のある場所まで送ります。
暗くなると、女性だけでは危ないです」
「いいですか?」
「はい。泰河、お願いします」
「はいー。私は神堂泰河と言います。
では、お嬢様方、行きましょうか」
「「よろしくお願いします」」

自転車をおしながら先を歩く泰河。
女性たちは、街灯が少なく人気も少ない風景に驚きながら、
来た道を戻っている。

「湊さんは、もう少し向こうの方です。
この道をまっすぐ行けば着きますよ」
「潮さんは、どこですか?」
「もう少し先の分かれ道を右に曲がって、そのまま歩けばあります。
日中は魚屋。夜は居酒屋です」
「剛さんは、どこですか?」
「大通りを一本外れた道にあります。
ただ、あの辺りは飲み屋が多いので…女性だけではオススメしません。
食事がしたいだけなら、開店して早めに行くか、出前を頼めばいいと思います。
隣町までなら頼めたはずですよ」

桜と呼ばれていた女性は、お店について質問する。

剛という言葉の先を、
菫と呼ばれる女性はより熱心に見つめながら聞いていた。

「ここでよかったんですよね?」
「はい。ありがとうございます」
「この道、夕方になると人気もないし暗いから、
女性だけだと危ないです。
男性でも一人歩きは危ないとされています。
気をつけてください」
「はい。気をつけます」
「では、失礼します」

女性たちが車に乗り、出発したのを見送って泰河は家路を急ぐ。

「お腹すいたなあー」

空腹が泰河の足を速くさせていた。

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