7 / 34
変わらない日々と新たな出会い
6.仲間と、ご飯と、冬支度
しおりを挟む「寒い…寒い、寒いです!」
空は灰色。日差しがないことで下がる体感温度。
そんな気候でも何とか暖をとろうと、もこもこ着込む女性がいた。
「白銀冬樹って、いかにも寒さに強そうなのになー」
「黒刀さん、その服装どうにかしてください。見た目が寒そうで…」
「まあ、室内とはいえ、タンクトップは…冬樹に同意する」
秋人は、そう言いながら、冬樹にブランケットを渡す。
ありがとう、と言う冬樹に頷きながら、凪人と話している。
「秋人まで言うか?外に出るときは上着きてるよー」
「ここは私の部屋だから、今は私の希望を言ってもいいと思う」
「まあ…そうだね。ごめんなさい」
そう言って、着てきた上着を着る凪人。
着たのを確認すると、
秋人はブランケットにうずくまっている冬樹を見た。
「湊。もうすぐ、剛がくるはずだから。
みんなで食事を食べよう。きっと温まるから」
「うん…ありがとうござます」
小動物のように、
くるまっている布から秋人を見上げている冬樹。
「あ…そろそろ、きそうだな。コタツの用意を始めよう」
「いつものところだよねー。手伝う」
「ありがとう、潮。湊、もう少し待っててな」
「ありがとうございます」
その返事に、二人はかすかに笑い、ゆっくり立ち上がった。
コタツの用意が終わって、電源をつけたとき。
秋人の家族が秋人を呼んだ。
「ちょっと行ってくる」
「「いってらっしゃい」」
秋人が戻ってくると、両手にぶら下がっている食材の入った袋。
続いて入ってくる作刃。
「失礼します。お待たせしました。
ご注文の水炊きです」
「作刃さん。寒いです。空腹です」
「来春、冬樹のためにも早く始めよう?」
「剛。毎年だけど、よろしくお願いする」
秋人と来春は、慣れた手つきで準備をしながら話をする。
「白銀さんは、今が一番寒いからな…。
帰りは凪人と一緒に俺が送るから、しっかり温かくしよう」
「ありがとうございます」
そう言いながら、
冬樹もブランケットを肩からおろして食事の支度の手伝いを始める。
「今日は、豚肉と聞いていたので。これで足りるか?」
「野菜やキノコは、うちのを。追加は遠慮なく言ってくれ」
「秋人、預けていた海藻は?」
「ここにある」
「いつも、ガスボンベと土鍋しか用意できなくて、申し訳ないです」
「冬樹のとこのは特別だから、これでいいのー」
テンポよく弾む会話と、煮える具材たち。
出来上がると、お昼時というのもあり、あっという間になくなった。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
それから、夕暮れまでは遊んだり、昼寝をしたりと、
ゆっくり過ごす。
「来週は、魚メインでやろうよー」
「そうだな」
「だし巻きを作ってこようか?」
「いいね。うちは、今日と同じく野菜とキノコを用意する」
「土鍋セットを、持ってきます」
次の予定を決めたところで、お開きとなる。
三人は、秋人の家族にお礼を言って秋人の家を出た。
秋人の家の駐車場にある車の鍵を来春が開けると、後部座席に
ジャケット姿の凪人と、ダウンを着た冬樹が後部座席に乗る。
最後に黒のコートを着た来春が運転席に座ると、軽く秋人へ礼をして
その場を去った。
その日の神堂家の夕飯は、作刃が秋人の家族に渡した肉だった。
「秋人。来週もするのだろう」
「美味しいわね。来週はなに?」
美味しいものにありつける、
わずかな期待が隠し切れない両親を横目に、
秋人はため息をついた。
「魚の水炊き」
その隣で、焦って食べる末の弟を宥めようと、
黙って慌てているのが長男の光。
「泰河。肉は逃げないから、ゆっくり食べよう」
「はい。兄さん」
光が悩んで話した言葉で、
落ち着いて食べ始める泰河に秋人も安堵する。
自分も食べようと箸を持った瞬間、父親は光に視線を向けた。
その視線に向く光へ、父親は手ぶりで酒をあおる動作をする。
「光、あとで一杯やるか?」
「父さん。まだ飲むの?」
鍋を囲んで過ぎる夜は、とても温かかった。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる