町で噂のあの人は

秋赤音

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町の日常

4.帰りたい。~気分転換

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転生から7日目。残された時間は、あと23日。
明日は学校な私は、祖父母の家に泊まることになった。
事の始まりは、祖母のお願いだった。
食事を終えて剛さんが帰った後、私たちを送ろうと祖父が立ち上がった時だった。

「友理奈ちゃんとお話がしたい。
学校はここからでも行けるし…だめかしら?」

伺うような口調だったが、
その目は決定事項のように強い意志が宿っていた。
祖父も諦めたようにため息をつき、電話をかけはじめる。
了承されたことを告げられると、祖母は瞳を輝かせて私の手を握った。
両親が納得したなら、と肯定の返事をする。

今は、祖父の車に乗るお姉さんを祖母と見送った後、
二人で祖父の帰りを待っている。
祖母が台所で手早く剥いた食べやすく綺麗な表面の林檎を、二人で食べている。

「急にごめんね。
友理奈ちゃん、少しは気が休めるといいと思って」
「おばあちゃん?」
「最近、遠目に見ても、あまり顔色が良くなかったから」
「・・・・・」
「確かにお姉ちゃんがああだと、心配になって当然だからね。
でも、まずは友理奈ちゃんが元気でいないといけないと思うのよ」

おそらく、この人はある程度見通しているのではないかと思った。
ゆっくりと優しい声で紡がれた言葉は、
どれも『友理奈』を心配する気持ちからだと感じる。

「それとね?」
「はい?」

ふと、声色が変わった。
口調は穏やかなままだが、どこか警戒心のある音だった。

「友理奈ちゃんの身体にいる あなたは、どちら様ですか?」

驚いた。この人は、『紗理奈』のことを見抜いている。

「誰かに言うつもりはありません。
ただ、できるだけ早く、あるべき場所に帰っていただきたいだけです。
そのためなら、私にできることで協力させてください」

どう答えようか迷っていると、苦笑いの祖母は言葉を続けた。
出ていけ、とか。除霊します…ではなく、
見ず知らずの魂に心砕ける理由は、体の主が『友理奈』だからかもしれない。

「私は、23日後に帰る予定です。
帰る条件は、きちんと食事と程度な運動をすれば満たされます。
そのためにも、お姉さんの心身を良くしなければいけないと考えています」

名前は名乗らず、目的だけを伝えることにした。
失礼なことをしているはずなのに、それでも穏やかな雰囲気は残ったまま。
懐の深い方だと思った。

「それで、わざわざ外食をしようとしたのね」
「はい。夢で友理奈さんに聞いたことを元に、やれることをやろうと」
「効果は…あったみたいね?」

そう、祖母は嬉しそうに目を細めて笑った。
家での小食さが嘘のように、普通に食べていたお姉さん。
おかわりはしなかったが普通に一人前を残さず食べていたので、
場の雰囲気の大切さを改めて知った。

「はい。おかげさまで。ありがとうございます」
「友理奈ちゃんは、どうしていますか?」

不安そうな眼差しが対面にいる私に向けられる。
この感情はきっと『友理奈』にも届いていると思いたかった。
あなたは一人ではないと、知ってほしかった。

「私が起きている間は休んでいます。
私が帰った後は、また頑張ると夢で言っていました」
「そうですか。困ったら、遠慮なく頼ってください。
あなたも、友理奈ちゃんも」
「ありがとうございます」

私は、座っている限界までの深いお辞儀をした。

「頭を上げてください。
可愛い孫のためですから、当然です。
あ…藤二郎さんが帰ってきました」

明るい声で玄関の鍵を開けに向かう祖母は嬉しそうに出迎え、
部屋に戻ると、手に持っていた祖父の上着をハンガーにかける。

「優美子さん。そろそろ、風呂に入って休もう」
「はい、藤二郎さん」

そのまま、おそらくお風呂の支度をしに部屋を出た祖母。
さっきまで祖母がいた場所に祖父が座る。

「寝つきが悪いようなら、横になるだけでもいいから。
学校ならここからだと家よりも近い。道具も預かってきた。
だから、安心して少しでも休んでほしい」
「はい。ありがとうございます」

にこっと笑って立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。
祖父のいた場所の近くにあるのは、馴染み始めた学校鞄。
明日の時間割のように準備はしてあるが、一応確認することにした。
鞄をとって元いた場所に座りなおし、中身を開けると、
一枚のメモ書きが入っていた。
”ありがとう”とお姉さんの字で書いてある。
それをファイルの中に挟んで、中身を確認し、閉じた。

「友理奈ちゃん、お風呂どうぞ」
「ありがとうございます」

鞄を隅に置き、着替えを手に呼びに来た祖母の後を追った。

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