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町の日常
5.帰りたい。~さらば、世界
しおりを挟む転生から13日目。残された時間は、あと17日。
祖父母の家で食事をして以来、お姉さんの食事に良い変化が出てきた。
少しずつだが、家でも普通に食事ができる日もくるかもしれない。
今日と明日は学校が休みなので、雑貨屋の湊さんに行く。
『友理奈』の記憶を頼りに、
周りにゆっくりと視線を向けるお姉さんの隣を歩きながら道を行く。
到着し、その扉をあけると、一人の女性が立っていた。
「いらっしゃいませ。友理奈さん、莉里奈さん」
「「こんにちは」」
愛想のいい店員さんの名前は、記憶通りなら「白銀 冬樹」さん。
お姉さんは、よくここで香り物を買っていた。
この人とも交友があるらしい。
今回も何か手ごたえがあればいいのだが。
「お姉ちゃん、ゆっくり見てね」
「ありがとう」
そう言うと、ゆっくりした足取りで香りコーナーに向かって行った。
「莉里奈ちゃん、少し痩せた?大丈夫?」
心配そうにお姉さんの方を見ながら、小声で聞かれた。
「まあ、そうですね。でも、大丈夫です。
ありがとうございます」
「友人ですからね。何かあったとき、よければ言ってください。
できることがあれば、手伝います」
「ありがとうございます」
話していると、お姉さんが冬樹さんを見た、気がした。
こちらに視線が向いた後、私に一礼して、
威圧しない柔らかな靴音がゆっくりとお姉さんの所へ向かった。
それから、考えていたよりも良い感じにゆっくりした。
くつろいだ雰囲気のお姉さんからは、自然と笑みがこぼれていた。
友人の力は偉大である。
「「ありがとうございました」」
扉をあけると、黄色に橙色が混ざり始めた夕暮れが目に飛び込んでくる。
町の半分は遮蔽物の少ない場所なので、空が広く見える。
元の世界と比べようにも、質が違いすぎて比にならない世界だが、
人工的な明かりが少ないだけ夜空も綺麗に見える気がする。
歩いていると、だんだんと茜色に染まる空。
そこに流れる一筋の星。
偶然見えた星屑に、思わず願った。
早く帰りたい、と。
その日は歩いたこともあってか、
普通に一人前を食べたお姉さんに両親は嬉しそうだった。
前のことを思えば良くなった顔色に、出会った縁とはいえ私も嬉しくなる。
そんな私は、測定機にのり、数値が目標を保っていることに安堵した。
穏やかな気持ちで布団に入り、楽しい明日を脳裏に描きながら眠った。
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