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変わらない日々と新たな出会い
8.点眼と料理と、
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「うー」
休日。約束通りに遊びにくると、冬樹が唸っていた。
その手にあるのは点眼薬。
「何唸ってるのー?」
「あ。黒刀さん。いらっしゃいませ。
さっきから失敗してばかりで…」
しょんぼりと、点眼薬と格闘する冬樹。
思えば気候も暖かくなり、枯れ色だった山にも優しい色が見えていた。
「花粉。ついに、始まったかー」
「始まってしまいました…」
ガックリとうなだれている冬樹。
それが点眼薬に対してか、花粉対してなのか。
それとも両方なのかは分からない。
「時期が決まっているから、しばらくの辛抱だなー」
「そうなんです…」
点眼薬を紙の袋に戻しながら、冬樹は言った。
どうやら諦めたらしい。
「いいのか?」
「疲れました」
「そうかー」
冬樹はゆるりと笑いながら、どこかへ行こうとする。
「そちらに座ってお待ちください。お茶を入れてきます」
「ありがとう」
にこっと笑い、背を向けて移動した。
お茶と共に現れた冬樹の目は赤い。
ふと、親が言っていたことを思い出す。
「冬樹。レンコン、食べられるよな?」
「レンコン?」
「噂程度だが、花粉症に効くらしい。
それで少しでも楽になるなら、美味しいし一石二鳥だろ」
「そうだね。ありがとう」
「決まりだな。
野菜は秋人に…料理は来春に頼めば何か作ってくれよねー」
「それなら…せっかくだし、みんなで食べたいです」
「確かに。言ってみる。
多目に作って持って変えれば、夕飯も楽できるしなー」
「そうですね」
楽しそうに笑う冬樹。
それからは、互いに他愛ない話をしてお開きになった。
後日。仕事の帰りに八百屋へ向かった。
「こんにちは。秋人いますー?」
「秋人ですね。少々お待ちください」
八百屋の前で待っていると、
店の奥から歩いてくる秋人は僕を見つけて笑った。
そのまま隣を通り過ぎ、少し歩こう…と手ぶりで示した。
「潮。どうした?」
「よかったら今度、四人でレンコン料理を食べよう」
「レンコン…ああ、花粉症に効くと話題になっている」
店から少し離れると、秋人は口を開く。
僕は目的をそのまま伝える。
すると、秋人も聞いたことがあるらしいが、
なぜか苦笑いをした。
「そう。冬樹、目が赤くて大変そうだった」
「毎年のことながら大変だな。
レンコンと、あとは適当に持って行く。
剛には、私から言うので良い魚、期待してる。
場所は剛の店にさせてもらおうかな」
「料理が目的だから、そうだねー」
「日程は、また四人で話そう。
今日は、これで」
「うん。ありがとう」
それぞれ帰り道へ進む。
日程は、あっという間に決まった。
当日。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。
凪人。先に言っておくがな。
レンコンは毎日少しずつ食べないと効果がでないそうだ。
効果には個人差があるのも忘れるな」
待ち合わせよりも少し早めに店の扉をくぐると、
苦笑いで言われた。
もしかすると、秋人も知っていたのかもしれない。
思い込みではあるが、
苦笑いの理由の一つになりそうだった。
「初めて知った。ありがとう。
効果は保証されていないのも、
個人差も、分かっている。
合えばいいな、と思ってはいるけどねー。
あ、これ、使ってね」
「ありがとう。今日も料理のしがいがある品だ」
「『魚屋 潮』の名にかけて、良い物しか出しません」
「そうだな。私も看板の名に恥じない料理を作ろう。
そこに座ってお待ちください」
互いのわざとらしい口調に笑いながら、
席に座って作業に集中し始めた来春を見る。
なんとなく落ち着かないので、
店を見渡しできそうなことを探す。
「テーブルの上、ふいていいー?」
「ありがとう。頼む」
最後の一つをふき終わると、扉が開く音がした。
「こんにちは。
剛。野菜を持ってきた」
「こんにちは。
お花を持ってきました。
よかったら、お家に飾ってください」
「二人とも、いらっしゃいませ。
野菜はそっちに。
花は…そこに花瓶があるから、すぐに飾ればいいだろう」
「「はい」」
二人は指示通りに動き、
先に作業を終えた秋人が近づいてきた。
「先に来ていたのか」
「まあ」
「さすが魚屋さん。魚に優しいな」
釣りあげている時点で命を奪ったようなものだから、
優しいとは思えないが。
釣り上げた後にできるのは、
せめて最後まで無駄にしないことくらいだ。
「それなら、肉も植物も同じだよー」
「そうだった。失礼したね」
秋人の視線の先を見ると、花の仕上げが終わったAがいる。
こちらへ歩いて立ち止まった冬樹が、
感想を聞きたそうに花瓶と僕を交互に見た。
「綺麗だねー」
「今日も可愛いな。さすが雑貨屋さん」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑った冬樹が、隣へ座る。
すると、調理場から足音が聞こえてきた。
「料理、運ぶの手伝ってくれるか?」
その手には、すでに何品かあるが、
視線の先にも美味しそうな香りが漂っている。
「手伝うー」
四人だけの静かな店で食べた特製の料理は、
いつも以上に美味しく感じた。
レンコンの話に少しだけ肩を落とす冬樹だが、
毎日続けていると聞いたのは、少し後のことだった
休日。約束通りに遊びにくると、冬樹が唸っていた。
その手にあるのは点眼薬。
「何唸ってるのー?」
「あ。黒刀さん。いらっしゃいませ。
さっきから失敗してばかりで…」
しょんぼりと、点眼薬と格闘する冬樹。
思えば気候も暖かくなり、枯れ色だった山にも優しい色が見えていた。
「花粉。ついに、始まったかー」
「始まってしまいました…」
ガックリとうなだれている冬樹。
それが点眼薬に対してか、花粉対してなのか。
それとも両方なのかは分からない。
「時期が決まっているから、しばらくの辛抱だなー」
「そうなんです…」
点眼薬を紙の袋に戻しながら、冬樹は言った。
どうやら諦めたらしい。
「いいのか?」
「疲れました」
「そうかー」
冬樹はゆるりと笑いながら、どこかへ行こうとする。
「そちらに座ってお待ちください。お茶を入れてきます」
「ありがとう」
にこっと笑い、背を向けて移動した。
お茶と共に現れた冬樹の目は赤い。
ふと、親が言っていたことを思い出す。
「冬樹。レンコン、食べられるよな?」
「レンコン?」
「噂程度だが、花粉症に効くらしい。
それで少しでも楽になるなら、美味しいし一石二鳥だろ」
「そうだね。ありがとう」
「決まりだな。
野菜は秋人に…料理は来春に頼めば何か作ってくれよねー」
「それなら…せっかくだし、みんなで食べたいです」
「確かに。言ってみる。
多目に作って持って変えれば、夕飯も楽できるしなー」
「そうですね」
楽しそうに笑う冬樹。
それからは、互いに他愛ない話をしてお開きになった。
後日。仕事の帰りに八百屋へ向かった。
「こんにちは。秋人いますー?」
「秋人ですね。少々お待ちください」
八百屋の前で待っていると、
店の奥から歩いてくる秋人は僕を見つけて笑った。
そのまま隣を通り過ぎ、少し歩こう…と手ぶりで示した。
「潮。どうした?」
「よかったら今度、四人でレンコン料理を食べよう」
「レンコン…ああ、花粉症に効くと話題になっている」
店から少し離れると、秋人は口を開く。
僕は目的をそのまま伝える。
すると、秋人も聞いたことがあるらしいが、
なぜか苦笑いをした。
「そう。冬樹、目が赤くて大変そうだった」
「毎年のことながら大変だな。
レンコンと、あとは適当に持って行く。
剛には、私から言うので良い魚、期待してる。
場所は剛の店にさせてもらおうかな」
「料理が目的だから、そうだねー」
「日程は、また四人で話そう。
今日は、これで」
「うん。ありがとう」
それぞれ帰り道へ進む。
日程は、あっという間に決まった。
当日。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。
凪人。先に言っておくがな。
レンコンは毎日少しずつ食べないと効果がでないそうだ。
効果には個人差があるのも忘れるな」
待ち合わせよりも少し早めに店の扉をくぐると、
苦笑いで言われた。
もしかすると、秋人も知っていたのかもしれない。
思い込みではあるが、
苦笑いの理由の一つになりそうだった。
「初めて知った。ありがとう。
効果は保証されていないのも、
個人差も、分かっている。
合えばいいな、と思ってはいるけどねー。
あ、これ、使ってね」
「ありがとう。今日も料理のしがいがある品だ」
「『魚屋 潮』の名にかけて、良い物しか出しません」
「そうだな。私も看板の名に恥じない料理を作ろう。
そこに座ってお待ちください」
互いのわざとらしい口調に笑いながら、
席に座って作業に集中し始めた来春を見る。
なんとなく落ち着かないので、
店を見渡しできそうなことを探す。
「テーブルの上、ふいていいー?」
「ありがとう。頼む」
最後の一つをふき終わると、扉が開く音がした。
「こんにちは。
剛。野菜を持ってきた」
「こんにちは。
お花を持ってきました。
よかったら、お家に飾ってください」
「二人とも、いらっしゃいませ。
野菜はそっちに。
花は…そこに花瓶があるから、すぐに飾ればいいだろう」
「「はい」」
二人は指示通りに動き、
先に作業を終えた秋人が近づいてきた。
「先に来ていたのか」
「まあ」
「さすが魚屋さん。魚に優しいな」
釣りあげている時点で命を奪ったようなものだから、
優しいとは思えないが。
釣り上げた後にできるのは、
せめて最後まで無駄にしないことくらいだ。
「それなら、肉も植物も同じだよー」
「そうだった。失礼したね」
秋人の視線の先を見ると、花の仕上げが終わったAがいる。
こちらへ歩いて立ち止まった冬樹が、
感想を聞きたそうに花瓶と僕を交互に見た。
「綺麗だねー」
「今日も可愛いな。さすが雑貨屋さん」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑った冬樹が、隣へ座る。
すると、調理場から足音が聞こえてきた。
「料理、運ぶの手伝ってくれるか?」
その手には、すでに何品かあるが、
視線の先にも美味しそうな香りが漂っている。
「手伝うー」
四人だけの静かな店で食べた特製の料理は、
いつも以上に美味しく感じた。
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毎日続けていると聞いたのは、少し後のことだった
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