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町の日常
19.過ち~返応
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灰野 紅は紫と再会して二か月が過ぎた。
手紙も来ない。
電話もない。
でも、探す当てもなかった時よりは良い。
会いに行こうと思えば会える幸せがある。
仕事が休みの日に加わった新しい習慣。
一人で向かう隣町にある思い出の宿には、愛しい人が立っている。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
営業向きの笑顔だと分かっていても、嬉しい。
友人と過ごした記憶がない一夜を責めない紫は、別れを望んでいる。
過ちを犯した自分は去るべきだと分かっていても、紫と離れるのは辛い身を優先してしまう。
何度か通い、友人としての交流を許された日は個人的な記念日だ。
再会して数年が過ぎたある日。
休日の外出という奇跡の約束を交わせた。
あくまで友人としてだが、嬉しかった。
当日。
穏やかな川沿いにある整備された歩道を歩く。
散歩ならいい、と言われたから考えた外出先だ。
紫が隣を歩いている幸せを噛みしめながら、すれ違う家族連れと当たらないよう体を避ける。
「紅?そんなに嬉しいの?」
顔に出ていた、らしい。
呆れたような目線が向けられる。
当たり前だろう。
裏切ったのは俺なのに、嬉しくて舞い上がっているのだから。
返す言葉が分からない。
「紅…」
ふと、紫の声が硬くなった。
道のしばらく先を見ると、健やかに育っている子供と遊ぶ楽しそうな白崎がいた。
幸い、俺には気づいていない。
ここで慌てて引き返すと不自然な気がしたが、子供の容姿を見て足が止まってしまった。
傍にいる夫らしき男性と似た子供と、似ていない子供。
でも、家族のみんなが幸せそうに笑っている。
楽しい思い出のある孤児院を思い出した。
「紅。やはり、関係があったのね」
紫は、責めるような視線を俺に向けた。
直接聞かないと分からないが、覚えていないが、可能性は、ある。
でも、聞かない方が良い気がした。
今さら、なにができる。
そう、だったとして、今さら何を求めてくるのだろう。
連絡をしなかった俺と連絡をくれなかった白崎。
今声をかけると、きっと苦労をして幸せをつかんだ白崎の邪魔をする気がした。
「道を、戻っていいか?」
「そう、ね」
重い空気と沈黙。
分かれ道で迷いなく告げられたのは解散。
「会っていたのを知っていた。さようなら」と感情が無い表情だった。、
予想できた一つが現実だと最悪な形で知り、久しぶりの外出は終わった。
後日。
仕事が終わり、偶然に賑わう街で出会った翠と、翠に寄り添う男性。
今日は子供を連れていない。
場所を変え、人の気配が少ない公園にきた。
翠は黒鐘と名乗り、さらに、ゆっくりと口を動かした。
「私も悪かった。二度と会うことは無いし、街で見かけても無視してほしい」が最後の言葉になった。
謝ることすら、させてもらえなかった。
家に帰り、静かな部屋で今日を思い返す。
翠は、あの一夜で妊娠した。
幼馴染に求婚している俺には言えなかった、と。
子供は夫の子供として育てていて、幸せに暮らしている、と。
血縁の父親を子供に明かす気はない、と。
立ち去る二人の背と横顔は、とても幸せそうだった。
翠が幸せなことに安堵しながら、自分自身の状況を思い返し苛立つ。
自分の失敗を自覚しながら、自分は望みを叶えられていない悔しさ。
どうしようもない。
翠には支えてくれる誰かがいて、自分は自ら手放しただけだ。
重い気分で迎えた休日。
会う資格はないと分かっていても、来てしまった隣町。
店番をしている紫は、俺を見て目を伏せた後、作った笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、誰もいなかった。
手短に翠と会ったことを告げると、紫はため息をついた。
「内縁関係なら、夫婦になってもいいです」
呆れた顔で告げられた言葉。
耳が都合のいい言葉を作った気がして、疑った。
「今、なんて」
「内縁関係なら、夫婦になってもいいです。
生活環境は変えないで、子供を作らないのが条件です」
淡々と告げられる言葉は、同じようで違う現状維持の提案だ。
本当に、いいんだろうか。
「俺、でいいのか」
「望まれない子供が増えるよりは、いいです。
つまらない私ですが。
約束で失敗の可能性を抑えられるなら、いいです」
「ありがとう」
きっと、恋人のように甘い出来事は不可能だ。
でも、十分だ。
内縁関係だとしても夫婦になれる。
誰かに寄り添ったとしても、俺から離れることは無いのだから。
契約書をその場で交わし、お酒も控えることを約束した。
夫婦として初めて迎えた休日。
今日も、隣町に行く。
枯天 紫に、愛しい妻に会うために。
手紙も来ない。
電話もない。
でも、探す当てもなかった時よりは良い。
会いに行こうと思えば会える幸せがある。
仕事が休みの日に加わった新しい習慣。
一人で向かう隣町にある思い出の宿には、愛しい人が立っている。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
営業向きの笑顔だと分かっていても、嬉しい。
友人と過ごした記憶がない一夜を責めない紫は、別れを望んでいる。
過ちを犯した自分は去るべきだと分かっていても、紫と離れるのは辛い身を優先してしまう。
何度か通い、友人としての交流を許された日は個人的な記念日だ。
再会して数年が過ぎたある日。
休日の外出という奇跡の約束を交わせた。
あくまで友人としてだが、嬉しかった。
当日。
穏やかな川沿いにある整備された歩道を歩く。
散歩ならいい、と言われたから考えた外出先だ。
紫が隣を歩いている幸せを噛みしめながら、すれ違う家族連れと当たらないよう体を避ける。
「紅?そんなに嬉しいの?」
顔に出ていた、らしい。
呆れたような目線が向けられる。
当たり前だろう。
裏切ったのは俺なのに、嬉しくて舞い上がっているのだから。
返す言葉が分からない。
「紅…」
ふと、紫の声が硬くなった。
道のしばらく先を見ると、健やかに育っている子供と遊ぶ楽しそうな白崎がいた。
幸い、俺には気づいていない。
ここで慌てて引き返すと不自然な気がしたが、子供の容姿を見て足が止まってしまった。
傍にいる夫らしき男性と似た子供と、似ていない子供。
でも、家族のみんなが幸せそうに笑っている。
楽しい思い出のある孤児院を思い出した。
「紅。やはり、関係があったのね」
紫は、責めるような視線を俺に向けた。
直接聞かないと分からないが、覚えていないが、可能性は、ある。
でも、聞かない方が良い気がした。
今さら、なにができる。
そう、だったとして、今さら何を求めてくるのだろう。
連絡をしなかった俺と連絡をくれなかった白崎。
今声をかけると、きっと苦労をして幸せをつかんだ白崎の邪魔をする気がした。
「道を、戻っていいか?」
「そう、ね」
重い空気と沈黙。
分かれ道で迷いなく告げられたのは解散。
「会っていたのを知っていた。さようなら」と感情が無い表情だった。、
予想できた一つが現実だと最悪な形で知り、久しぶりの外出は終わった。
後日。
仕事が終わり、偶然に賑わう街で出会った翠と、翠に寄り添う男性。
今日は子供を連れていない。
場所を変え、人の気配が少ない公園にきた。
翠は黒鐘と名乗り、さらに、ゆっくりと口を動かした。
「私も悪かった。二度と会うことは無いし、街で見かけても無視してほしい」が最後の言葉になった。
謝ることすら、させてもらえなかった。
家に帰り、静かな部屋で今日を思い返す。
翠は、あの一夜で妊娠した。
幼馴染に求婚している俺には言えなかった、と。
子供は夫の子供として育てていて、幸せに暮らしている、と。
血縁の父親を子供に明かす気はない、と。
立ち去る二人の背と横顔は、とても幸せそうだった。
翠が幸せなことに安堵しながら、自分自身の状況を思い返し苛立つ。
自分の失敗を自覚しながら、自分は望みを叶えられていない悔しさ。
どうしようもない。
翠には支えてくれる誰かがいて、自分は自ら手放しただけだ。
重い気分で迎えた休日。
会う資格はないと分かっていても、来てしまった隣町。
店番をしている紫は、俺を見て目を伏せた後、作った笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、誰もいなかった。
手短に翠と会ったことを告げると、紫はため息をついた。
「内縁関係なら、夫婦になってもいいです」
呆れた顔で告げられた言葉。
耳が都合のいい言葉を作った気がして、疑った。
「今、なんて」
「内縁関係なら、夫婦になってもいいです。
生活環境は変えないで、子供を作らないのが条件です」
淡々と告げられる言葉は、同じようで違う現状維持の提案だ。
本当に、いいんだろうか。
「俺、でいいのか」
「望まれない子供が増えるよりは、いいです。
つまらない私ですが。
約束で失敗の可能性を抑えられるなら、いいです」
「ありがとう」
きっと、恋人のように甘い出来事は不可能だ。
でも、十分だ。
内縁関係だとしても夫婦になれる。
誰かに寄り添ったとしても、俺から離れることは無いのだから。
契約書をその場で交わし、お酒も控えることを約束した。
夫婦として初めて迎えた休日。
今日も、隣町に行く。
枯天 紫に、愛しい妻に会うために。
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