従僕と柔撲

秋赤音

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曇天と棘

6.生化

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衝撃の誕生祝から、一か月が過ぎた。
恋人役として避けられないイベントがある。
彼の誕生日。
何かを言われたわけではないが、彼の言葉にこめられた指示に従うことする。
「仕事にも関わるから、僕が手本を示す。
僕は、次の誕生日を恋人に、羅輝亜さんに、祝われなければいけない」
彼が求める理想の恋人役をこなすのが、私の仕事。
具体的な日を聞かされることはなかったし、聞いて良いか分からないまま過ぎた一か月だった。

学生にできる限りの、私ができるお祝いをする。
緊張と不安で迎えた休日。
いつもと同じように作る昼食、ではない。
いつもは着ない、与えられたワンピースという特別な衣装にまとうエプロン。
少しだけ特別にした、指南書通りの料理。
前菜から主役まで、冷蔵庫に待たせていたデザートまで好評だった。
学校でしている「女子高生の恋バナ」について聞かれたので、聞き流してきた内容を思い出す。
真面目に聞いておけばよかったと後悔しながら、わかることだけ答えた。
思い出す会話に混ざるのは、恋人同士の触れ合う度合いが濃く深く様。
自分に与えられた役割の未来を想像し、重ねてみると、体がじくじくと熱をもつ。
あくまで普通に語りながら、彼の様子をみつめる。
他愛ないことから猥談までが飛び交うことに関心している彼の反応は、普通に暮らす自分にとって新鮮だった。


穏やかな空気で楽しい食事らしく終え、安堵したのもつかの間。
「恋人らしく」と自室で過ごすようお願いされた。
彼の自室にいると、緊張する。
用事が無いと来ない場所だからか、ぼんやりと遠くなっていた幼い頃の記憶が反射するのか。
開けられたままの扉から聞こえる水の音。
掃除をしなければと近づけば見えたのは、ベッドの上で長い髪を揺らす裸の女。
女の嗚咽と悲鳴と知らない声が重なって、水をまいたような音も混ざって。
かすめる母親の香りと幻覚が、聞きなれた彼の声で消えた。
長らく空っぽだった場所にあるのは、彼の生活感だけ。
誕生日に感じた唇と舌で感じた熱と体の浮遊感を思い出す。
なぜか、お腹がぎゅっと痛んだ。

「羅輝亜さん。ここ、座って」

「はい」

示されたのはベッドの上。
座って隣をみると、にっこりと笑う彼。
意図がわからないで返事に困ってなんとなく見ていると、唇に何かが触れた。

「食事、美味しかった。でも、まだ足りない」

「おかわり、してまし…っ、んぅ…う、ぁ…っ、ひゃうぅっ…首、なめなぁああっ」

つかまれた肩と、彼の舌がはう首すじが熱い。
びりびりと痺れが体を巡って、じくじくとたまっていく。
吸いつかれると、意識が揺らいで眩暈がする。
自分には関係ないと思っていたことが、また一つ現実になった。
このまま進めば、いずれは。
拒絶感に混ざる期待と安堵を消そうとするが、遅いと嗤うように体は燃える。
彼の体の一部と触れ合った首筋が火傷したように痛くて熱い。
一秒でも早く、バラバラな感情から解放されたい。

「キスしてくれたら、やめる。
愛しの恋人の部屋で、甘えるようにキスをねだる彼女。できるよね」

キスすれば終わる。
ふわふわする体が支えられているうちに、しないと。
誰かから聞く恋の話と、想定内の行為が記された資料を思い出す。

「ぁ…あっ、…ふぁあっ、凪都さ、んっ、キス、してくださ、ぃひゃんっ」

「どこに」

楽しそうな声が耳元で響いて、少し強く吸われた胸元。
びりびりと駆けまわる感覚にたえながら、考える。
どこ?
どこがいい?
どこが理想?

「指定がないなら、自由にさせてもらう」

「あっ、あんっ、胸、つつかないで…っ、揺らさなぁあ…っ、服、噛まないで、くださひぃっ」

力が抜けた背中になにかが当たった。

「胸が嫌なら」

「んむっ…んんぅっ…っ、ふ、ぁ…っ」

口から酸素がこなくなった。
いつの間にか天井が見えるようになっていて、彼と目が合って。
楽しそうだから、恋人役としては良いことだと思った。
他にも何か、でも、のぼせた思考では何も考えがでてこない。

「気持ちいい、ね」

「ん…ぅ、んっ…きもち、い…っ」

「他のところにも、したい。羅輝亜さんの体、全部に、したい。
いいなら、脱いで」

彼の願いは叶えなければ、特別な日だから、叶えたい。
私は彼の恋人だから。
自由な手で着ていたワンピースのファスナーをおろす。

「はい…っ、自由、に、してくださ…ぃっ、凪都さ、ぁあっ…」

するりと服を体から抜かれると、下着しか身につけていない自分の体が晒された。
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