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秘めた心
10.季節が巡っても、
しおりを挟む輝く月が照らす別館。
冬椿家の執事が案内する途中で、
誰かを探している様子の亜樹十先輩がいた。
「公祐、お話は終わった?」
「終わりました。せん…亜樹十さん、どうしました?」
「呼びにくいなら慣れたのでいいよ。
一つ、相談を聞いてくれる?」
用事があるのは俺だった。
真剣な声に緊張する。
「はい。俺でよかったら、お話聞きます」
「できれば、二人だけで話したいんだけど…」
先輩が執事に目配せすると、
静かに一礼してきた道を戻っていく。
「俺の部屋でいい?」
「はい」
先輩が先導して入るよう促されたのは、
すっかり見慣れた先輩の自室。
「そこに座って」
後ろで鍵がかかる音がした。
ゆっくりとこちらへ近づく小さな足音は、
目の前に置かれている机の前で止まる。
「公祐、これ、みて。
亜紀羅と和馬には秘密で処理したい。
もらった相手は分かってるけど、どうしたらいいと思う?
読んでいいよ」
出された袋の中身は、本だった。複数冊ある。
内容は、しっかり大人向け。
作成年月は最近で、三か月に一度は書くらしい。
男性同士が恋人のように甘い雰囲気で見つめあっている表紙の。
そして、その絵のモデルになっている人物は俺と先輩。
「これ、は…」
「とあるお嬢さんの言葉は、こうだった。
”妹さんには秘密です。医学に反したことは描きません。
どうぞ、ご参考にしてください”
こういうの、正直困る。
今月くらいからで、やめてって言っても無駄で。昨日も…。
一人のときなら、まだよかったけど…ね。
確かに、学生の時ほどではないけど公祐と出かける日も増えた。
でも、こういう関係ではないから。
最近こういう絵を求める仕事の依頼がくるよ。
だから参考書は自分で選んで持ってるし、
どういうものか知っている。
仕事だけならいいけど、私生活は別。
俺は、結婚も恋愛もする気はないし、跡取りではない。
でも、一応、冬椿の長男だからな。
亜紀羅と和馬には心配かけたくないし、
公祐にも迷惑がかかるだろうから」
これには、
片思いを決め込んでいる俺が昔思い描いた遠い夢が書いてある。
他人の空想力は侮れない。
しかし、それを現実にしないと決めた。
この気持ちは、今も変わらない。
「ありがとうございます。
俺のことは問題ないです。
家はすでに身内が引き継いでますし、
俺も結婚する気ないです。親も了承してます。
むしろ、無理にしなくていいって言ってますからね。
それより、それです。もしかして…」
親自身が失敗してる。
一生と決めたはずの相手と違う人と心身を通わせた両親。
その事実は、別れても変わらない。
だからか、母親は俺に結婚を強いることはない。
おかげで、とても気が楽でいられる。
「うん。
昨日のお嬢さんが、いつも渡してくる袋の中身はこれ。
和十がいるときも遠慮がないとは思わなかった。
冬椿家の威厳にも関わるし…
万が一、和十の目に入ったらと思うと…だから、やめさせたい」
「わかりました。ぜひ手伝わせてください。
事実と違うことが広まるのは、よくないですからね」
うんざりした表情の先輩は、一冊ずつを丁寧に袋へ戻していた。
俺の返事を聞くと、袋を置きに部屋の中を移動する。
戻ってくるとき、その手には小さな包みがあった。
「ありがとう。助かる。
あと、これ。今日、誕生日だから。
気持ちだけだが、よかったら受け取ってほしい」
それは、不安そうな表情と共に机の上へ置かれた。
突然のことに驚く。
親族も友人も、誰もが記憶にとどめていない俺の誕生日。
俺自身も特別な意識をもたなくなった日を、
いつも、先輩だけは覚えていてくれる。
初めてもらった贈り物のときは、
秋風先輩と亜紀羅先輩がとても驚いていた。
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「どうぞ」
包みを破らないようにそっと開けると、
鍵を保管するための道具があった。
小さな輪にあるのは、鍵をひっかける金具と皮製の飾り。
「これ…」
「俺も使ってるけど、便利でね。
俺の様子を見に来るよう言われてることは知ってる。
だから、心配かけてるお詫びと感謝」
「ありがとうございます。
大切に使います。今、つけてもいいですか?」
「うん。どうぞ。
悩んだけど、選んでよかった。
和馬か公祐にしか渡さないから、何がいいか分からなくて。
亜紀羅とは好みが根本的に全然違うから…」
嬉しそうな声と安堵したような笑みが俺に向けられた。
持っている鍵を金具にかける。
苦痛の象徴になっている家の鍵が、特別なものになった気がした。
先輩のおかげで抱える決心ができた苦痛は、
自分の一部として生きている。
俺の全てを否定も肯定もせず、慰めもなく、
そこにあった感情も事柄も認めてくれる唯一の人。
これからも、先輩が穏やかでいられる世界を守りたい。
「本当に、ありがとうございます。
そういえば、来月は和馬さんの誕生日ですね」
「うん。何がいいのか、悩んでいる」
再び不安そうに考え始めた先輩は、
視線を宙に漂わせている。
「よかったら、一緒に考えますよ」
「いいの?」
期待と不安が揺らぐ瞳が俺を向いた。
幼さが混じる表情は、
不特定に向けた無機質に作られたものではない気がした。
「はい。
俺もお世話になっているので、お礼がしたいです」
「ありがとう!亜紀羅が元気なのは和馬のおかげでもあるからね。
お礼はしたいけど、当日まで秘密にしたいから、
和馬といつも一緒にいる亜紀羅にも相談しにくくて困っていたんだ」
「当日まで秘密、ですね。わかりました」
「そうです。よろしくお願いします。
そこで待ってて?候補の物を書いてあるから」
楽しそうにはしゃぐ先輩は、
おそらく候補を書き出している紙を探しに部屋を歩く。
やがて、目的の物を手にして戻ってくる。
愛おしい人のすべてを一瞬も逃さないよう、与えられた場所から眺めていた。
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