幸せという呪縛

秋赤音

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始まらない御伽噺

0.鳥かごの世界で、

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「紅姫だわ!」

「帝も一緒ね。相変わらず麗しい」

「幼馴染の一途な相思相愛…素敵よね」

放課後。
寮へ向かうために学び舎の門をくぐる。
聞こえてくるのは、慣れた雑音。
行動を共にしているだけで、周りは勝手な勘違いで話を広めていく。
私は、私たちは、思いついた。
やまない雑音は、利用してしまおう…と。

寮へ戻ると、調理場から甘辛く食欲を誘う香りが漂ってくる。
馴染んだ気配に安堵すると、瞼が重くなってきた。
疲れ果てている体は、食欲よりも眠ることを優先した。
遠ざかる意識が最後に感じたのは、和真の温かな腕だった。




「あ、きら。おかえりー。
今日の夕食は、私の自信作の煮物…って、寝てますわ。
帝くんもお疲れですわね」

皇 枝創子は、すべてを包み込むような柔らかな笑みで二人を迎える。
少しの間の後、先輩の後ろから、
同級生の皇 磨希子が静かに姿を見せた。

「枝創子先輩、お疲れ様です。
まあ、あれだけ大きく言われるとは思いませんでしたから。
俺もさすがに少しは…とりあえず、姫羅を部屋へ運びます」

「私も行く。寮長として安全を守らないと。
帝、鞄を貸して…ほら、ね?」

ありがたい手助けに感謝した。
親元を離れているからこそ、細心の注意が必要だ。
順序を疑われる行動は避けないといけない。

「皇…ありがとう。お願いします」

「磨希子、ご飯になったら一緒にくるのですよー」

「わかってるよ。お姉ちゃん」

調理場に戻る先輩を見送ると、目的の部屋へ向かう。
皇が扉をあけ、入室を促される。
姫羅をベッドへゆっくり寝かせ終えると、
鞄を置いた磨希子が座るように目と手の動作で言ってきた。
読みかけの本があることを思い出し、
置かれている鞄から取り出して座る。
茜色が窓から差す穏やかな時間が、
少しだけ疲れた神経を和らげてくれていた。

「…ど、みーかーど!」

大きな声と揺さぶられる肩の刺激で目が覚める。
窓を見ると、茜色は濃紺に変わっている。

「化煙が呼びに来た。ご飯の時間!
お姉ちゃん特製の美味しい煮物、楽しみだね」

軽い足取りで扉へ向かう皇を目で追うと、
こちらを見ていた男と目が合う。

「御主人。お疲れ様」

「帝も、お疲れ様。
巳化牙先輩と枝創子先輩が支度しています。
僕は、華紅夜さんと帝さんを呼んで、
磨希子と一緒に来るよう言われています」

「ありがとう。
姫羅…ご飯の時間です」

その場で待つ皇と御主人から視線を外し、
おそらく先に目が覚めていたが、
まだぼんやりしている姫羅に声をかけた。

「あー…はい。ありがとうございます」

「また俺に運ばれますか?」

瞼の重そうな姫羅の耳元で小さく囁くと、
艶やかな長い漆黒が揺れた。
そっと離れると、
淡い紅の瞳が驚きで見開かれた表情が俺を見つめる。

「いえ。結構です。ありがとうございます」

そう言って目を伏せ、そらされた瞳。
腰まで伸びる漆黒の髪を手早くまとめ、ゆっくりと起き上がった。

「お待たせしました」

姫羅の安定しきっていない揺らぐ歩みを、後ろから追う。

「いつも通りだよ」

「問題ないです」

美味しそうな香りがする居間へ入ると、
ふいに、ふわりと花びらが舞った。

「「「「ご婚約、おめでとうございますー」」」」

棒読みで、形だけは祝いましょう…と感じる言葉だった。
俺たちにとても合う、唯一の祝いかもしれない。

「さて、ご飯ですわ。
二人とも、早く座ってくださいなー」

「お腹すいたから、ねー」

「「・・・・・」」

そこには、笑いながら着席を促す皇姉妹と、
無言の圧で空腹を訴える御主人と御行先輩がいる。
姫羅が一歩進めるとほぼ同時で、俺も席へ向かう。

入学すると、親族すら出入りが禁止される孤立鳥学園。
生徒と職員だけで構成されるこの場所は、
穏やかな年ごろらしい生活が叶う唯一の場所。

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