幸せという呪縛

秋赤音

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明けた夜の向こう側

0.嵐の前夜

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月明かりだけが照らす薄暗い部屋。
二人の男女が寄り添い合っている。

「ねえ、ジュネス。
私は、ジュネスが王座に座るべきだと思いますの」

女は妖艶な笑みを浮かべ、
その豊かに熟れている体に薄い生地の衣服を纏う姿で、
男の細い黄金の髪をひと撫でし、身を任せる。

「そうかな。
しかし、そう簡単にはいかないよ。
弟にも権利があるからね」

男は、煌めく銀の髪へ口づける。
そして、女の肌を隠しているネグリジェに手をかけた。
少しずつ空気にさらされる滑らかな肌を、
味わうようにゆっくりと撫でる度にこぼれる女の声。

「…っ、それならば。
弟から権利を奪えばいいと思いますわ」

「それも、そうか。
フィア…」

中途半端に閉められているカーテンから降り注ぐ明かりが、
纏うものがなくなった女を照らす。
情欲に染まりきった男の瞳が女を捕らえた。




ある日のこと。
暖かな日差しの中、元気よく屋敷を出る兄弟がいた。

「エアス、行こう」

「はい。ジュネスお兄様」

「お兄様!待ってください。
私も行きますわ」

黄金の髪をした青年が、銀の髪の青年を連れて門を出る。
その後を走って追うのは、銀の髪のほとんどを帽子で隠した女性。

「おにい、さ…ぁ、う…申し訳ありません」

あと少しのところでこけそうになる。

「フィア。焦らなくていい」

少女を抱きとめる青年の姿を、
使用人たちは苦笑いをしながら見守っていた。
それを、高い場所にある窓から見守る両親がいる。

「最近は、浜で剣の練習をするのが好きらしい。
子供たちの仲が良くて安心だ。
ジュネスは亡き妻との子供で、
年も少し離れているから心配だったが。
王座の傍らで、
フィアとエアスがしっかりと支えになると信じたい」

「そうですね。私も、安心です。
フィアとエアスのこと、よく見てくれます。
これからも仲良く、国の未来を作ってほしいですわ。
明日は嵐です。風が強いので早く戻ればいいのですが…」

国王は、隣で窓の向こうを見ている王妃の
銀の長い髪を梳くように撫でる。
そして、その手は王妃の腰を抱き寄せた。

「国王様?」

「今日は、休みだろう」

「はい…」

国王は、そのまま王妃を抱き上げる。
王妃は静かに国王の首へ腕を回し、二人は寝室へ消えた。



誰もいない浜辺。
激しく剣と剣がぶつかる音がやんだ。

「休憩だ」

ジュネスは、息が上がっているエアスに背を向ける。
その視線の先にいるのは、
何かを大切そうに手で包みながら歩み寄ってきたフィア。

「お兄様。見てください。
綺麗な貝がありました!」

「ほう…帰ったら、これで飾りを作らせよう。
どこにあったんだ」

「はい!お兄様、大好きです!
こっちにありました」

二人は、指を絡めて手を繋ぎながら浜の隅へ歩いていく。
兄妹だと知らない人からみれば、
どこにでもいる恋人同士にしか見えない。



「再開する」

「はい」

一時間ほどして戻ってきた二人は離れた。
ジュネスはエアスに向けて剣を構える。
エアスも剣を構え、来るはずの攻撃に備えた。

空の夕日も去り、暗くなり始めた頃。
再び剣の音はとまる。
帰る支度をしていると、ちょうどよく、どこからか戻ってきたフィア。
しかし、様子がおかしい。

「フィア、どうした?」

「お兄様。帽子が風で飛んで、浜の隅に…」

フィアは今にも泣きそうな声で、帽子のある先を手でしめす。

「わかった。エアス、三人で行こう」

「はい」

到着して三人が目にしたのは、
崖のギリギリにとどまっている上品な帽子。

「さっきまで手前にあったのに…どうしましょう」

「お母様がくれた大切な物だろう。
俺が行く」

ジュネスが崖へ一歩進もうとすると、
エアスの腕がジュネスをとめた。

「僕が行きます。
未来の国王に何かあってはいけません」

「エアス…すまない」

崖へ進み、あと少しのところで、足場の一部が崩れた。

「エアス、戻ってください。
帽子はもういいですから…」

しかし、エアスがその声に振り向くことはない。
必死な表情で、その手が帽子をつかむ。
あとは戻るだけ…だった。

「エアス!!!」

足場が完全に崩れ、エアスの身は海へ投げ出される。
エアスの手から離れた帽子は、
風に乗ってジュネスの近くへ落ちた。

「帰ろう。希望は薄いが、まずは一刻も早く伝えることだ」

「はい。お兄様」

結局、エアスは見つからなかった。
海に住まう者に聞いても、知る人はいなかった。
焼く体もないまま、エアス・サラは埋葬された。
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