幸せという呪縛

秋赤音

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始まらない御伽噺

5.新たな風

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それから二年の月日が経った。
穏やかに時は流れ、
多少だが楽しい何事かを寮の仲間と共有し、祝うこともあった。

「磨希子。何かあれば相談してね?
この寮からは出るけれど、
行く先の職員寮は敷地内にあるのよ。
巳化牙も一緒だから、
きっと力になれることはあるはずだわ」

「うん。ありがとう。お姉ちゃん」

そう言って、巳化牙先輩の隣で幸せそうに微笑んだお姉ちゃん。
まだ肌寒い気候に綻ぶ優しい香りの薄紅が、
春を告げる光を浴びながら風に揺れていた。

妹としては、正直、ひと安心だ。
巳化牙先輩は、
お姉ちゃんも自分や周囲のことも考えて動ける人だと思っている。
避けられない結婚。
それならば、
自己中心な人と無理やり夫婦にさせられるよりは良いはずだと、
私は信じたい。


「磨希子。
華紅夜さんと帝さんを呼んできますか?」

「そうだね。火の守をお願いします」

「はい」

二人で立つことに慣れた台所で、
化煙が料理の完成を知らせてくれた。
私が、部屋で過ごす二人を迎えに行くのが習慣になっている。
去年までは、姫羅から静かに観察するような視線が向けられていたが、
最近はそれもなくなった。
おそらく、必要がなくなったのだろうと思う。
帝と過ごしている様子は、
それを境に穏やかな空気が増す感じがする。
なんとなく、二人とも無理をしなくなったような気がした。

「姫羅、帝。ご飯だよ」

開けっぱなしの扉の部屋を見ると、
帝は眠っている姫羅を大切な宝物を見るように、
傍で眺めていた。

「はい。ありがとうございます」

声をかけると、すぐに来た道を戻る。
あとは、
帝が姫羅を起こして、一緒にくるのがお決まりになっている。

人数分の椅子に空席がなくなると、食事が始まる。
みんなで一緒に…いつもと変わらない日常。
食事を終え、皆が席を立とうとする。
しかし、今日は、伝えなければいけないことがある。

「待ってください。お知らせがあります。
一週間後、新しい寮生が来ます。
真路 健渡さん。一つ年下の男性です。
次期寮長候補でもあるので、色々と教えることになります。
ご協力、よろしくお願いします」

「「「はい」」」

「磨希子。
僕にできることなら、遠慮なく言ってください」

「一人で何でもやろうとしないでください」

「俺も、できることを手伝います」

最後の一年となる今年。
残り半年となった今、新たな転入生が、寮に、くる。
新たな変化への戸惑いと不安を身に感じながら、
寮長としてできることをしようと。
優しい笑みをくれる三人を見て、思った。

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