幸せという呪縛

秋赤音

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一夜の夢

霧の向こう側

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あらすじ

入り口も出口もない、
先が見えない薄闇の中。
そこで出会ったのは、
無機質な人形だった。
案内された先で見せられたのは…。


人物

流過(るか)

シキ
自動人形

ツキ
自動人形

メイ
自動人形

理時(りと)

---

暗く曇った空と、薄い霧。
見晴らしの悪い視界に、私はいる。
気づけば、ここにいた。
ずっといた気がするし、
あまり時間が経っていない気もする。

「最高ノショウヲ見セマショウ」

少し先にある金属がむき出しのゲートの先で話すのは、
黒い燕尾を着た自動人形。
目の前で手品を披露し、出てきた花を持っている。
見渡しても出入口がないので、
誘われるまま、ゲートをくぐる。
一歩進むごとに、金属の縁から花びらが舞う。
霧の中で踊る花びらは現像的で、
とても不思議な光景だ。

「私ノ名前ハ「シキ」デス。
最高ノショウヲ見セマショウ」

そう、立ち止まって私の方へ振り替えるシキ。
無機質な黒い瞳を向け、
手に持っている白色の花を私に渡すと、
再び私に背を向けた。

「シキさん。ここはどこ?」

「最高ノショウヲ見セマショウ」

その背を追いながら話しかけるが、
会話にならない。
機械らしい音が言葉を紡ぐ。
花びらのゲートをぬけ、
広い場所に出た。
そこへ、誰かが一人、立っている。

「シキ。開演ノ時間デスカ」

「ハイ。
最高ノショウを見セマショウ」

「ワタシノ名前ハ「ツキ」デス。
最高ノショウヲ見セマショウ」

ツキと名乗った赤い燕尾を着た自動人形。
おそらく、仮にシキさんと同じならば、
話しかけても無駄だと考える。
しかし、その瞳には、
わずかだが光が見える気がする。

その広い場所には、
いつの間にか現れた火の輪がある。
火の輪を持つのはシキさん。
ごうごうと燃える輪をくぐるツキさん。
無傷で何度かくぐり続け、
何度目かで服の裾が少し焦げていた。
くぐり終えたツキさんの姿を、
手に火傷のあるシキさんは気にも留めず、
持っている輪の火を消し、地面に置いた。

「「最高ノショウヲ見セマショウ」」

二人は、身なりを整え、
揃って歩き始める。

「待って!」

煌めく光のような白銀が、
一瞬だけ私を見た気がした。


空は暗く、霧が深くなっていて、
ますます遠くの見通しが悪い視界。
いくら走っても、なぜか、
ギリギリ二人の姿が見える距離にしかならない。

走る途中、
小さな家があるのを見つける。
その窓に映る姿を見て驚く。
久しぶりに見た。
成人を目前に控えたような子供姿の自分。

追いかけた先。
うっすらと、わずかに晴れた霧の中。
着いた場所にあったのは、
大きな回転木馬。
キラキラとメルヘンな枠の中には、
人が乗れそうな馬がいる。
黒と白で表面が滑らかそうな石の馬と、
滑らかに削いでありそうな木馬が一つずつある。
その前には、三人の人影がある。
シキさんとツキさん。
そして、新しい人…おそらく、自動人形だろうけれど。

「「最高ノショウヲ見セマショウ」」

「ワタシノ名前ハ「メイ」デス。
最高ノショウヲ見セマショウ」

メイと名乗ったのは、
上品さが印象的な自動人形。
深みのある濃い茶色の、長袖とロングスカートが特徴のワンピース。
その上に、白いエプロンを身に纏っている。
メイさんの言葉を合図に、
回転木馬が煌めきながら回り始めた。

呼吸が整わないまま、ぼんやりと、
その煌めきを眺める。
時に火を纏い、風を纏いながら回る。
枠の煌めきは変わらず、
一周する度に色がつく馬たち。
目が赤く、たてがみは黒く、
現れた手綱は滑らかな表面の茶色に。
回転木馬は回り続ける。

呼吸が緩やかになった瞬間、
鮮やかな赤い瞳のメイさんが
私へ手を伸ばす。
その足のもとには、赤い棺。
気づけば、辺りの地面が、
わずかだが、燃えていた。
死を予感する。

気づけば、走っていた。
来た道を走る。
タッタッタ…私の足音がする。
パチパチ。
燃える音がする。
パタパタ。
音が近づいている。

私は走る。
前を向いて走る。
赤い熱が揺らぐ景色を、走る。
ふと、ゴウゴウと音がした。
それは、小さな家だった。
横切るとき、窓に映る私は大人の姿。
パタパタ。
その音から少しでも離れるために、
走る。

しばらく走って、
静かになったことに気がついた。
そして、走り出すまでは、
音がなかったことにも気がついた。
足が限界になり、早足で歩く。
見えてきたのは、金属のゲート。
そして、荒い呼吸が止まる。
同時に細くなる呼吸。

「「最高ノショウヲ見セマショウ」」

ゲートの前には、二人がいる。
淡い金色の瞳が薄闇に浮かぶツキさんが青い花を、
煌めく赤い瞳のメイさんが緑色の花を持っている。
後ろへ戻ろうとすると、
視界を横切る黒。

「最高ノショウヲ見セマショウ」

振り向いた先にいるのは、シキさん。
その後ろには、
果てが見えない暗闇が現れる。

怖い。
今は、ただ、
それだけが頭の中を支配している。
完全に動きを止めてしまった私の足。
ゆっくりと近づいて、
簡単に私の手をとり、
首をつかんだ。
足が地面から離れていく。
力は入っていないが、
支えがない体はぶら下がり、
ゆるりと絞まっている。
そのまま、歩いて、暗闇へ近づく。

目の間近には、シキさんの黒い瞳。
私の足は地面から離れたままで、
私の手はシキさんにつかまれたままで。
それでも、無駄だとしても、
暗闇に落ちないように足掻いている。

「最後ノショウヲ見セマショウ」

シキさんは、そう言って、
首を離し、
私を暗闇へ落とした。
真っ暗で、落ちていく苦しさに、
目を閉じる。
細く吸った空気には、
わずかに花の優しい香りがした。




「………っ!」

途絶えそうな意識の中、
ふいに感じた柔らかで冷たい空気に、
思わず目を開けた。

「る…、…か!」

聞きなれない、馴染みのある声がする。
かすむ視界に見える、黒い瞳。
悩みの原因によくなるけれど、
幸せの一部にもなっていて、
傍にいないことが考えられない人。
始まりは、
お互いに打算ばかりの出会いだった。
しかし、いつの間にか好きになってしまった人。

「流過…よかった。
うなされていたけど、大丈夫?」

「り、と…?」

珍しく焦る恋人が、安堵したように
ため息をついた。
今の原因をうっすらと思い出す。
なんとなく眠くなり、
少しだけ昼寝をしていただけ…だった気がする。

「うん。間違いなく、理時だよ。
水、もってこようか?」

「うん…ありがとう」

落ち着くために、深呼吸する。
一息つくと、ふいに頭を撫でられた。
見上げると、嬉しそうな笑みがある。

「待ってて」

トットット。
聞きなれた足音が遠くなる。

ピーンポーン。
ほぼ同時に、
玄関からお客様の合図が鳴った。

「ありがとうございます」

ドアが閉まる音がする。
 
トットット。
片手に小さな花束と、
片手にボトル入りの水を持った理時が戻ってきた。

「はい。お水」

「ありがとう」

私がゆっくり水を飲み始めたのを見た理時は、
自分も同じように飲み始めた。

「あのさ」

「うん?」

ボトルの蓋を締めた後、
低い声の理時が私を見る。
なぜか緊張している様子。

「流過。私の妻になってください」

「ええ、と。つまり」

急に言われたことに、頭が混乱する。

「うん。私と、結婚してください」

この選択が良いものかは、
まだ分からない。
不安は多いし、先は見えない。
しかし、
理時と生涯を共に歩むこと選んだ私が
初めてもらった贈り物は、
白と青と緑色が彩る小さな花束と、
優しい気遣いだった。
それが打算だとしても、
私にとっては、穏やかで温かなもの。
それが、私の選ぶ道。

「その顔。
まだ、打算だと考えている…よね?」

「まあ、はい」

すると、目をそらされて、ため息をつかれた。
仕方がない…と言う顔で。
そして、再び目が合うと、
知らない熱を宿した瞳がそこにある。

「わかった。
伝わるまで、何度でも言うよ。
あと、もう、遠慮もしない。
確かに始めは打算しかなかった。
でも、今は、
流過が幸せでいてくれることも、
自分にとっての幸せになっている。
だから、一緒に、幸せになろう」

その、何度目かの建前。
しかし、初めて触れる温度に戸惑う。

「流過にしか、できないことだよ。
流過と一緒がいい」

黙る私に続けられた言葉は、甘い悪魔のささやきのようだ。
そして、気づいてしまった。
この恐ろしい熱を、自分も持っていることに。
傍にいるのが当たり前。
その自分勝手で我儘な感情は、
自分も相手にも怪我をさせそうなほどに、
熱く大きく育っていた。
これを扱いきれるのか、怖くなった。
しかし、伝えるなら、今だと思う。

「私も、理時でないと…理時と一緒が、いいです」

「これは…どうしよう。嬉しすぎる。
ありがとう」

そして、言葉に戸惑い続けている私の瞳にそっと口づけた。

「泣かせるつもりは、なかったのだけれど…。
抱きしめても、いい?」

初めて見る穏やかさに隠れた強い光のある瞳に不安になる。
息も苦しい。
しかし、私は静かにうなずいた。
すると、優しく抱き寄せられ、強く腕に閉じ込められる。

「たぶん、怖い、よね。
でも、大丈夫。無理はさせない。
これまで通り、ゆっくり過ごそう」

その言葉に緊張が解ける。
とたんに、頬に止まらない違和感がある。

「ずっと、一緒だよ」

理時は、ますます私を強く抱きしめた。
そして、私は、初めて知った恋に泣いた。

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