幸せという呪縛

秋赤音

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一夜の夢

過ぎる日常

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熱い、熱い、苦しい。

ふと、潮の香りがした。
重い瞼を開けると、窓越しに見えた青。
冷たさを求めて窓に触れると、指先からガラスへ伝わる熱。
背後で小さな音がしたので振り向くと、
驚いた表情の人がいる。

「×××!」

何かを言って部屋を出た人は、別の誰かを連れて戻ってきた。

「×××、具合は?」

「熱は、まだある…ベッドに戻って」

状況が分からず立ち尽くしていると、優しく手をひかれてベッドへ連れられる。
それから数日。
体調が回復した僕に渡されたのは、外出用の服と背負う荷物入れとゴーグル。
僕が誰で、過去に何があったのかは分からない。
ここでは、あまり気にされないらしい。
周囲の真似をして同じように身なりを整える。

「×××、今日は街まで買い物に行く」

「気をつけていってらっしゃい」

優しい笑みを浮かべる女性に見送られ家を出る。
ゆるく吹く風が潮の香りを運んでいる。

「風か…×××、私の傍をはなれないこと。
できるかぎり口を開けないこと。
何があっても必ずゴーグルをつけておくように」

「わかりました」

先導者の後ろを歩いていると、先導者は小さな人の群れへ手を振った。

「ザック、今日は塩がとれる」

「まあ、そうか」

「×××、軽い荷物は任せた。ケイン」

「マイク、わかっている。出発だ」

先導者の名はケインというらしい。
親しそうに僕を呼ぶ音色の正体は相変わらず分からない。

風がない道を歩いていた。
周囲にあるのは地面と道、たまに見かける高さのある建物だけ。
建物の出入り口に積まれている砂袋は、何の意味があるのだろうか。
遠くに見える高台にある建物群がおそらく街だ。
ふと、潮の香りがした。

「あ」

『ゴーグルを外すな』

先を歩くザックさんは、手で合図する。
風が強くなり、歩く速度も落ちてくる。
視界に小さな煌めきが宙を流れていることに気づく。
光を浴びながら風にのってどこかへ消えるそれ。
おろらく塩だと思ったが、どうして風の強い日にとるのだろうか。

さらに歩いてたどり着いた街。
三人が袋を渡すと荷物と交換していた。
ケインさんから一部を渡され、受けとる。
皆、荷物入れに入れたのを確認して背負う。
建物を出ようとすると、湿気を帯びた空気が漂ってきた。

「想定より早いな」

「降る前に」

ぽつりと、音がした。
窓を見ると、小さな粒が地面を濡らしている。

「やむまでは足止めか」

「仕方ないですよ。帰りは砂が舞わないと思えば…」

「そうだな」

話についていけず、
じっとケインさんを見ると、目が合った瞬間に緊張が緩んだ瞳。

「大丈夫だ」

「やむまで休めませてもらおう」

雨粒と音は大きくなるばかり。
しばらくは動けないらしい。

「ザック。俺は×××と遊びたい」

「ケイン」

「ほどほどにな」

「やった!行こう×××」

勢いよく手をひかれ、建物にある階段をのぼる。
すると、美味しそうな香りが近づいてきた。
楽しそうな様子のマイク。
聞こえてくる鼻歌に雨音が馴染む。

「マイクさん、どこへ」

「なに?改まってさ。マイクでいいって」

二ッと口角を上げで笑う姿につられて笑う。

「そうそう。
俺、×××が寝ている間に美味しいものを見つけたんだ」

「おー、いらっしゃい。
今日はお友達も一緒か?」

「そうだよ。美味しかったからね」

マイクさんはお金を渡すと引き換えに食べ物をもらった。
同じようにしようと、服のポケットの重さに期待して探る。
お金があったので、同じように渡す。
食べ物を受け取ると、空いている隅に行く。

「いただきます」

「いただきます」

一口齧ると、香ばしさと旨味が口の中に広がる。
隣をみると、嬉しそうに僕を見ているマイクがいた。
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