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一夜の夢
日常
しおりを挟む「あれ、とってください」
「どれ?」
「それです」
紙を切ろうと思った。
すると、ちょうどいいタイミングで、ハサミの近くにいる同居人。
指し示せば机に置いて部屋を出ていった。
その日の夕食もありきたりなものばかりだった。
味つけは、いつも美味しい。
しかし、限度がある。
作ってもらうので文句は言わないが、伝わっているらしい。
いつもより機嫌が悪い、気がする。
なんとなく気まずくなり、食器だけは台所へ持って置き、
早々に自室へこもった。
画面に向かってボタンを押せば、聞いても特別焦ることのない話ばかり。
他者同士のや蹴落としあい、事故、自殺。
聞き慣れた犯罪話の隙間に、時候らしい事が流れている。
暑い、涼しい、日差しが強い…花が咲いたと、笑顔をほころばせる話し手。
毎年のことに感じ始めると、意外と聞き流していて忘れることも多い。
目が覚めると、知らない場所に立っていた。
辺りは一面の白。
どこまでが天で、どこまでが果てなのかも分からない。
ただ一つ言えるのは、今立っている場所が地であることのみ。
ここはどこだ。
確かに体は動いているはずだが、声が出ない。
深呼吸。
腕を軽く回す。
立ち止まっていても仕方ないので、歩く。
足を動かすが、白しかない場所で位置を掴むのが難しい。
進んでいるのかも分からない。
だんだんと、その場で足踏みをしているだけのような気もしてくる。
たまに、わざと足を跳ねさせて走ってみる。
普段はしないが、あえて大きく腕を振ってみる。
思いつきで歌いながら歩いてみるが、やはり声は出ない。
焦りで浅くなる呼吸も構わず続けるが、さすがに疲れてきた。
誰に会うこともなく、景色が変わることもない。
どこかで、何かにぶつかることもない。
立ち止まって飛んでみるが、床が抜けることもない。
自分が生きている実感が持てなくなってきた。
ふと、知り合いを思い出す。
彼女は多くの人に親しまれているが、どこかで一線を引いているような雰囲気だ。
実際、特別に親しい存在を聞いたことがない。
知らないだけだとすれば、彼女から見て"その程度"の付き合いということになる。
彼は、必要最低限の付き合いしかしていないようだが趣味が多い。
人畜無害。
いてもいないような存在感だが、それだけ場に馴染んでいるということだろう。
"何となく感じる嫌な空気"もなく、いつも朗らかな様に、存在そのものが必要とされているように感じる。
本人が意図しないとしても、場をなごませていることもある。
趣味、あるいは趣味を通して知る何かが、彼の心を穏やかにしているのかもしれない。
自分は、どうだろう。
今の自分は。
一人。
いや。誰かを思い描くことで少しだけ"何か"が見えた。
おそらく、
何気ない誰かとの関りで、"何か"が積み重なるのだろう。
あえて考えてみる。
もし、いないとしたら。
もし、思い浮かばないとしたら。
自分は、自分だけで自己を見ることができるだろうか。
それができる人だろうか。
ふと、風が吹いた。
何かを切るような勢いに思わず目を閉じる。
しばらくして止んだ風。
目を開けると、こちらを見る同居人がいた。
「うなされていたけど、大丈夫そうね」
起きたのを確認すると、足早に部屋を出ていった。
窓を見ると、カーテンからこぼれている光が朝を知らせていた。
「あれ、とってください」
「どれ?」
「それです」
紙を切ろうと思ったらしい。
『夕食を作り始める時間に関わるので』と言われてからは、
毎朝の習慣だ。
渡されたメモ用紙に帰る時間を書いて返すが、
余りの空白が多かったらしい。
ちょうどいいハサミの近くにいる自分。
「夕飯。いつも作ってくれて、ありがとう」
「え?あ…はい。どういたしまして?」
戸惑う同居人に驚いた。
たまには言っている気が…していただけ、だと気づく。
何となく一方的に気まずくなり、
ハサミを机に置いて部屋を出た。
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