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恋嵐
0.機会は、突然に
しおりを挟む国を支える役職の一つ、
「魔法監視員」。
それを決める試験は、魔法使い同士の喧嘩に巻き込まれても生き残ること。
試験は、魔法使いたちが
喧嘩を始めなければ行われない。
不安定で不規則に思える仕組みだが、
そうではない。
なぜならーーーーー
穏やかな青い空と、煌めく草木。
暖かな日差しが、楽しそうに賑わう人々を照らしている。
そんな街中。
一組の恋人が、周囲にいる一部の民を怯えさせている。
「和人!
とっておいた浮兎のお菓子、食べたでしょう!」
「ごめんって!お腹すいてたの!
だから、同じの2つ、買ってきてただろ!」
「それは、そうだけど…それは嬉しいけど!
そうでは、なーーーい!!」
大きな声と共に現れるのは、
小さいが勢いのある一つの竜巻。
所々に丸く抉れている地面を通りすぎ、
男性のところへ
、迷うことなく向かっている。
「わ、ちょ、待って!危ないから!」
慌てる男性は、細い光の線が幾重にもある囲いを、
自身と竜巻が通る周囲に巡らせた。
しかし、光で防げるのは物理的な衝撃だけ。
囲いに当たる物は焼け消えていくが、強い風だけは遠慮なく大地を駆ける。
光の囲いがない場所へは、氷の囲いや壁が現れる。
氷の囲いの表面へ光の守りが重なった。
「浮兎は、いつも元気よね」
「そうですね。
ところで、一流。
これは、いつ解いてもらえますか?」
光の舞台で風が踊るような光景を、
遠くの丘にある氷の中から眺めている人たちがいる。
氷の囲いの外は、暴風が吹き荒れている。
「今日のお夕飯まで…かしら?
烈華の大好物ができているわよ」
「私が悪かったです。
つまみ食いは、もうしません。
だから、解いてください。
お願いします」
上品な装いの男性は、
両手首を澄んだ水で作られた氷の輪で一つに束ねられている。
「お断りします。
それより、こちらを…口をあけて?」
上品さに可憐な雰囲気のある装いの女性は、
最後の一口を手でつまみ、
男性の口元へ運ぶ。
空になった器には、用意されていた食事の名残がある。
てりのあるソースは、使われないままだ。
「はい…あ、美味しい」
「本当に?よかった!
烈華、これ好きだから、
一番頑張ったのよ」
女性は、花が咲くような笑みを浮かべて
男性に抱きついた。
男性はもどかしそうに腕の拘束を解こうとするが、やはり解けない。
「そうなのか。ありがとう。
いつも美味しいものばかりで、
つい食べ過ぎてしまいます」
「それなら私も…烈華の料理はどれも絶品です」
「よかったです。
一流のためだけに、作っていますからね」
「私だって…烈華のためにしか、作らないわ」
満開の花がそこにあった。
女性は、とても嬉しそうに男性へ微笑む。
「でもね。
おかげで、少し太ったので鍛え直して」
女性が困ったように男性を見上げると、言葉の続きを男性が止めた。
「…甘い、ですね。
そこにあるソースとは別の味付けですか?
私にとっては、今の一流も魅力的です。
ですので、叶えてもらえるならば、
過度な鍛え直しは控えてください。
あと、食事の量を控えることも…ですよ。
どうしても、というなら。
一緒に鍛え直しましょう」
女性は真っ赤に染まった頬のまま、静かにうなずく。
「ありがとう。
まずは今日の夕食ですね。
昼が少ない分、足りない栄養を補う食事にします。
デザートは、予定通り一流におまかせします」
「あ…いえ。はい、まかせてね。
美味しいお菓子を用意するわ」
冷めきらない熱に浮かされている女性の瞳が、男性をまっすぐ見つめた。
ふと、外の音が静かになる。
「浮兎。落ち着いたみたいね」
「おそらく、浮兎が暴れた原因は、
和人が浮兎のお菓子を勝手に食べたことだと思われます。
この間、偶然会った和人から話を聞きました」
二人は囲いの向こう側を見ながら、
穏やかな笑みを浮かべている。
「そうなの…浮兎は、おそらくだけど。
和人と一緒に食べたかったのかしら。
それで、あんなに…毎日街を修復する大地の神は大変ね」
「まあ、魔法使いの魔力が食事の神様です。
案外と、美味しく楽しんでいるかもしれません。
壊れる度に変えられるのですから」
ーーー毎日、何かの試験がある。今日の試験は、風の魔法だった。
暴風で何もなくなった街の一部で、生活困難者へ食事の配給が行われた。
住まいは、備えている区域が指定された。
そして、「魔法監視員」の試験は終わった。
「風の監視員は…あの人がいいかも」
私は、人々から大地の神と呼ばれている。
古より土地を治める者と約束を交わし、
今も守り続けている。
「さて。壊れた場所を直さないと。
約束は守りますよ」
民が住み慣れた家は忠実に再現し、
公共機関は不便さを減らせるよう工夫して。
毎日起こる魔法劇から生まれる魔力を糧に、約束を果たす。
「明日は、どんな劇が見られるかな」
独りきりの空間で、神は穏やかに微笑む。
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