幸せという呪縛

秋赤音

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哀しても、愛してる

5.幸せを祈る

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キッチンで調理器具の魔力を調整していると、
ドアの向こうで呼ばれた。
自動維持と完了通知魔法を重ねて使い、
キッチンを出た。

「黒崎さん。人払いは終わりましたか?」

「してますよ」

「黒崎さん。こちらの人払いは」

「しました」

久音の母親と、咲音の父親が愛想の良い表情で問いかけた。
交遊関係が広がると頻繁になる慣れたやりとりをしながら、
三度目で最後の幼なじみの幸せを祈る。

何かの確認や相談は、監視対象のパートナーとすることにしている。
経験から学び、自分なりに考えた結論だ。
呪いの子孫は言葉の意味を反転して考える手間がいるので、
話に正確さと早さが欲しいときは遠慮してもらっている。
自分の親族がかけた呪いは、
それが面倒なところだと思う。
一代目のときは本人と会話していたが、
大変だった覚えしかない。

「咲音。良いことになればいいけど…」

「姉さんの娘は不安しかないだろう。久音は…安心しかない」

二代目の子供達は、
窓の近くで景色を見ながら我が子の心配をしている。
確かに、悪いことにならなければいいとは思う。
そして、少しくらいは"何とかなるさ"の気持ちを持てばいいと思う。
内心で監視対象の話に共感しながら、
パートナーと会話を続ける。

「いつもありがとうございます」

「いえ。これも仕事ですから」

「黒崎さんは、いつ見ても変わらないから不思議ね」

「確かに…私たちが結婚したときと、変わらないですね」

目の前で和やかに弾む会話を聞いていると、
魔法から調理終了の知らせがきた。

「変わりますよ。見た目の成長が、人間と比べれば、
かなり緩やかですが。
さて、料理の準備が終わったのでどうぞ」

「いつもご用意いただき、ありがとうござます」

「ありがとうございます」

彼らの中では"半年先まで予約が埋まる程のレストラン"と呼ばれている我が家。
何か面白く、仕事の合間でもできて、長く続けられることはないか。
色々やった結果、料理だけは飽きずに続けられている。
三代の監視は、生きる時間の中では短いが、一分一秒が大切な時間だ。

「いえ。
こちらこそ、暇つぶしに付き合っていただき、ありがとうございます。
器具は魔法で動かしているので、手間はかかっていませんが」

テーブルに並んだ料理を、
二代目とそのパートナーと共に食べる。
美味しいと言って食べる姿を見て、心が満たされる。
白崎家は皆、多目に作っても綺麗に食べきるので作りがいもある。
冠婚葬祭や食事会で料理を食べる機会があると、
秘密保護のため、必ずうちを使う決まりだ。
だから、それなりに料理を振る舞う機会は多い。

「妻を呼んできます」

「私も。夫を呼んできます」

二人は楽しそうに話ながら二代目を呼びにいった。
その日も和やかに1日を終えた。

その翌週。

「お招きいただき、ありがとうございます。
霧森 陸と申します」

滑らかな所作の彼は、咲音の恋人。
そして、将来は結婚するかもしれない相手。

「ありがとう、ございます」

カクカクとした固い笑みとお辞儀の咲音。
初めて会ったとき以来の姿に、懐かしい記憶が頭を過ぎる。
大きくなったな…と思う。

「咲音。緊張しているの?」

「詞音。違う」

「咲音。久音が来ています。積もる話もあるでしょう。
霧森さんは、そちらの椅子にかけてお待ちください」

拗ねる咲音を久音のところへ連れ、雪城さんと一緒に戻る。

「お待たせしました。お二人に話があります。
率直に言います。
普通ではない相手をするのは、ご苦労が多いと思います。
生涯を共にする気がないなら、今のうちに別れてください。
もちろん、縁がなくなっても秘密は守っていただきますが」

驚いた表情の二人は、静かに息をのむ。
そして、覚悟を決めたような表情に変わる。

「確かに、声で会話をしようと思うと、ひと手間かかります。
正直、余裕がない時は、こじれる喧嘩になることも多いです。
あれを苦労というのなら、苦労です。
だから、なんですか。
覚悟なら、秘密を聞いたときに決めています。
苦しそうに「好き」と言われるのは辛いですけど、
俺は、咲音のそういうところも含めて愛しています」

そう。
清々しい笑みの霧森さんは、はっきりとした声で告げた。
そんな彼に、あえて問う。

「死ぬまで、一生、咲音だけを愛することができますか?
人は移り気。一瞬の気まぐれもあるかもしれません。
咲音の異常な行動に気づいていますか?
おとなしそうに見えて、意外と束縛します。
経験者語る、と言いますか…始まると大変です」

咲音は、おとなしそうだが、一度気に入るとひどく執着する。
外で久音でない人と会っているのが見つかった後は、
帰るまで傍から離れなかったことがある。

「それでも、です。
むしろ、もっと執着してもらってもいいくらいです」

爽やかそうに見える笑みに、黒い何かが見えた気がした。
もしかすると、咲音は厄介な人に好かれたのかもしれない。
内心、咲音の穏やかな未来を祈った。

「そうですか。
雪城さんの気持ちも聞かせてください」

雪城さんを向くと、穏やかな笑みがそこにある。
素直に驚いた。

「私も、彼と別れる気はありません」

「そろそろ久音の中身が見え始めている頃かと思います。
それでも、ですか。
もしかすると、自由な生活は望めなくなるかもしれませんよ」

久音なら、本当にやりかねない。
昔、お気に入りの玩具に触ったことがある。
散らかっているから片付けただけだが、
持ち主は面白くなかったらしい。
それからは、遊んでいる話をご両親から聞くだけで、
目の前で見たことがない。
そして、最大の不安材料は、
母親が軟禁状態で暮らしているのを見ながら生活していること。
久音は、すでに、普通の価値観が歪んでいる。

「はい。確かに、危ういところはあると思います。
ですが、そうなったとしても、できる限り話し合います」

「話し合う?男の力でねじ伏せられても、ですか?
特別鍛えている女性でもないあなたが、
その時どうやって抵抗するのでしょうか」

「そのときは、受け入れます」

「暴力を?死ぬかもしれない」

「はい。それでも、彼ならいいです」

変わらない笑みに背筋が凍った。
この人は、心の何かが壊れているようだった。
ふと、久音の母親を思い出す。
好みが似るのは親の遺伝なのかと思うほど、
選んだ人の性質が似ている。
よく探したと、逆に感心する。

「そうですか。
話していただき、ありがとうございます。
気が変わったときは、いつでも、言ってください。
では、向こうで待っている人の所へ戻ってください。
用意ができたら、呼びに行きます」

「失礼します」

「失礼します」

二人とも、手本のような一礼をして背を向けた。
自分も料理の仕上げを始めるために移動する。
できた料理を美味しそうに食べる四人を眺めながら、
幸せな未来が訪れるならいいと、心から思う。
それが世間では"幸せ"と呼ばないものだとしても。
三代目の幸せを守ろうと、強く思った。
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