幸せという呪縛

秋赤音

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風の旅

5.炎の灯り

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フライアの元王は、嘆いている。
どうして、こうなったのだろう。
こんなことなら、リーリスを愛人にしておけばよかったと後悔する。

荒れ始めた国の対処で妻や娘と過ごす時間は減り、疲ればかりがたまっていく。
フィリスを国から出した後、隣国ウィードから婚姻の申し出があった。
すぐに承諾した。
これで、魔力無しだが王直系の血をもつフィリスをレアと離すことができる。
伴侶を妃とするため、魔力無しを生んだリーリスに婚姻破棄を告げると、すぐに承諾された。
そして、やっと願いは叶った。
強さで選んだリーリスを妻にした後で出会った愛する伴侶。
隠れて会っていたが、もう遠慮はいらない。
伴侶と授かった娘のレアが傍にいて、堂々と過ごせるようになる。
邪魔者はいなくなった。
その後、聞こえ始めたフィリスと元妻の噂。
調べた結果、事実だと知る。
今さら、当時の調査結果を嘆いても意味はない。
世に不穏な空気が漂い始めていたので、
一度手にした強さが惜しくなり元妻を呼び戻そうとするが、連絡先が分からない。
フィリスの父親という主張で隣国からフィリス夫婦を呼ぼうとするが失敗した。
それらがきっかけで身を追われることになったが、経験を生かしてほしい…と兄弟の計らいで仕事の補佐をすることになった。
王と妃の座には、次男夫婦が座っている。
後継ぎは、三人の息子から選ばれることになった。



話疲れたシーファは、毛布をかけて長椅子で眠っている。
向かい側に座っているリーリスは穏やかな笑みで見守るように眺めている。
そんなリーリスをクライヴさんは、優しい瞳で見つめている。

「これが、望みだったのか?」

あの時シーファが過ごしていた時間にいるようなフライアの元国王の話は、隣国にも届いた。
誰かの大切な者を無理やり奪おうとした王の末路は、不穏な世の憂さ晴らしの的になっていた。
聖霊の加護のおかげで変わらない暮らしを保っているウィードは、
フライア国から来る食料補助の依頼で儲けている。

「何のことでしょう。
それより、シーファに無理をさせてはダメよ」

「わかってる。
家事は一切させていないし、歩くときは俺が連れている」

俺は伴侶の隣で微笑むリーリスに問うが、"どうでもいい"と言うように話は変わる。
確かに本人たちが気にしていないなら、それで終わる話だ。
職場で出会ったと言っていたクライヴさんはリーリスと手を繋いだまま、変わらず涼しい笑みを浮かべている。

「僕だって、そうしたい」

「え?それって」

話の流れとリーリスの慌て方で、その言葉が意味する状況に焦る。
もし予想が当たっているとしたら、今の状況は妻の心配を増やしてしまう。

「ちょっと…クライヴ、待って、少しくらい」

「体が冷え始めている。帰ろう」

クライヴさんは、リーリスの言葉を遮る。すぐにでも帰りたい様子だ。

「リーリス、無理しないように。
シーファの心配を減らしたければ、な。
クライヴさん、抱えてでもいいので、早く帰って温かくしてください」

「…!リーリス、ご友人に心配をかけてはいけない。帰ろう」

すると、迷わずリーリスを大切そうに抱き上げたクライヴさんは、
転移魔法を使って消えた。

「りー…」

妻の声がしたので視線を移す。
そっと髪を撫でると、あいていた瞼は再び閉じられる。

「また会える」

「ん…今、体、たいせつ」

さすが家族、といったところだろう。
おそらくの予想は、妻によって肯定されたような気がする。
ふと、ひと欠片の赤い光がふわりと舞った。
行先はおそらく、リーリスのところだ。
聖霊の魔法は、冷えた体を優しく癒すだろう。

「魔法禁止、が嫌なら今は使うな」

光でシーファを包むと、使った分の魔力を補う。
ついでに冷えないようにする。

「イーシア、温かい」

「温めているんだ。当然だろ。ベッドへ行こう」

「はい」

俺に体を預けたシーファは眠る。
ベッドにゆっくりとおろし、隣で静かな寝顔を眺めていた。



私は、夫の温もりを感じながら眠りにおちた。
今も包んでいる光は、ずっと私の傍にいる。
出国して、拘束されたあの時も。
そして二人の家に戻ってくるまで、戻っていた今も、ずっと。

夢を見ている。
懐かしい、夢。
あの時、光から聞こえたのは噂とは正反対の内容だった。
夫からこぼれたような囁く小さく短い言葉は、
辛さがにじむ声で私の名を呼び帰国を望むばかりだった。
夫の声と魔法だけは離れることなく傍にいて、肝心の本人は戻る気配がない。
光が私を労わるように輝きを増すたび、影も暗くなっていく。
私たちは、過ごす日々に多くを望んではいなかったはずだ。
ただ穏やかに同じ時間を過ごしたいだけだ。
それすら許されないなら、いっそ炎となって夫と共に消えてしまいたい。
問題が大きくならないためと、死すら許されない私に監視がつくようになった。
ついに、国同士の戦いになりそうになっていた、ある日。
隣国へ行くと言っていたリーリスが、本当に旅立った。
何もできないもどかしさを抱えて待っているばかりの日々は過ぎる。
リーリスが隣国の妃になって少しすると、イーシアは戻ってきた。
大切な家族と引き換えに戻ってきた。
私たちは一緒に泣いて、抱きしめられた腕の体温に、ますます涙がとまらなくなった。

「シーファ」

どこかで夫が呼んでいる。
その声は遠く、光の欠片が赤い光と踊るように漂っている。

「イーシア」

呼ぶ声に手をのばすと、温かな何かに包まれる。
眩しさに目を閉じ、再び開けると心配そうに私をみるイーシアがいた。

「シーファ。どうした」

そっと私を腕に抱く夫の背に手を添える。
胸に耳をあてると、鼓動が動いている音がした。

「なんでもない」

「そうか」

返事をしようとするが、夫が私の髪を撫でる心地よさに瞼が重くなる。

「いーし、あ」

「今は、少しだけ、このままで」

今日は、体の調子がよければ"一緒に食事を作ろう"と約束をしている。
約束を守るべく、この言葉に身を預ける。
光からこぼれ聞こえる優しい声に、生きていて、待っていてよかったと心から思った。

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