幸せという呪縛

秋赤音

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風の旅

4.光さす場所

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「こんにちは」

懐かしい声に妻が玄関へ向かう。
それは、リーリスが夫と別れて国に戻ったと、街の噂で聞いた直後だった。
応接間へ案内すると、椅子に座るよう促した。
二人が着席した後、魔法で三人分のお茶とお菓子を出すが、二人は夢中で話をしている。

「シーファ。あれから、ゆっくりできてる?幸せ?」

「おかげさまで、とっても幸せ。
リーリスは、どうして帰ってこれたの?」

「離婚してほしいと言われたから。
浮気相手の隣に立って"魔力無しを生む器はいらない"って言ってたね。
今だから言うけど…魔力目当てで結婚したから、婚姻破棄の申し出に感謝したいくらいね。
おかげで、大切な人の幸せを傍で見守れる」

「そう。よかったわね。
今は幸せ?国を出た後から聞く噂は聞くだけでも辛くて…確かめる術もなかったから」

応接間で和やかな空気に流れる声。しかし、その内容は穏やかではない。
妻がリーリスへ向ける笑みは柔らかく、リーリスは優しさが宿る瞳を妻へ向けている。
リーリスは、俺にとってもかけがえのない友人だが、妻に関しては複雑だ。
妻を泣かせれば、ご両親と同じくらいの怒りを向けてくると分かっているので、
存在するだけで気が引き締まる。

「とっても幸せ。
二人の様子も見れたし、帰るね。
二人とも、末永くお幸せに。
私、これからは念願だった魔法と武術の先生をするの。
実家にいるから、何かあれば連絡は家へお願い。
相変わらず、美味しいね。ごちそうさま」

「わかったわ。会いにきてくれて、ありがとう」

「いえ。では、またね」

爽やかな日差しのような笑顔を浮かべながら魔法具を操作するHは消えた。
おそらく、位置指定の転移魔法を使ったのだろう。
国という結界の中でのみ、一部の者しか許されていない魔法だが、便利ではある。

「リーリス。どうして、魔力のためだけにわざわざ隣国へ行ったのかしら?
あんなに嫌そうに帰ってきて」

それを俺に聞かれたところで、想像するしかできないが。
おそらく、あの時何かがあったんだ。

「では、聞くが。
俺が向こうで拘束されたとき、シーファはどうした?」

「あのときは…イーシアが他の誰かといるのを見聞きするくらいなら、いっそ一緒に死んでしまおうかと…」

その言葉に、帰ってこれてよかったと思った。
あえて聞いていなかった疑問の答えは、幻に消えてよかったと思う。
言葉は簡単に国境を渡る。
どこへいても、いくら耳を塞いでも、聞こえてしまうだろう。
王直々の賞与と女性を断ったことは有名になっていたと、帰って知った。
まず、王が何かを選び用意して、押しつけるように与えたことだけでも大きく話題になるのだから。
そして、リーリスの予想外な行動の原因は妻の憂いだろうと思う。
しかし、これも想像を出ないことだ。

「では、もしリーリスに伴侶がいて同じようになっていたとしたら。
シーファは、どうしていた?」

「もし、同じ?それは…おそらく、リーリスと似たようなことをしていたわ。
大切な家族の憂いを晴らせるなら、相手を燃やしつくすだけ」

本気が宿るその瞳に恐怖と興奮を感じた。
この激情ともいえる想いが嬉しい。

「そこまで想われている俺は、幸せだな。
ま、俺も同じ事をするが」

「まあ!イーシア…嬉しいわ」

「俺も嬉しい。リーリスが何を思うのか、気になるなら本人に聞けばいい。
これからは、いつでも会える」

「そうね。両親も今頃は歓喜しているかも」

冷めたお茶をのんだ妻は、俺にお菓子を差し出した。
それを食べると同じようにしてほしいと言うように、お菓子と俺に視線を動かす。
指でつまんで差し出すと笑みを浮かべて口で受け取った。
美味しそうに頬張る姿が可愛い。

「美味しい?」

「今日も美味しい。明日は、バザーもあるし私も作るわ」

口の端にある欠片があることに気づき指ですくって、食べる。
すると、妻は少しだけ顔を赤らめた。

「言ってくれればいいのに…」

「ごめん。つい」

じっと俺を見る妻の唇に触れる。

「なに?」

「俺のシーファは可愛いな、と」

「私のイーシアはカッコいいわ」

赤い頬で告げられた不意討ちの言葉に、心臓が掴まれた。
この可愛い存在は、俺をどうしたいのだろう。
今すぐ寝室へ連れたい衝動を抑え、妻は座っているよう言い、空になった皿を台所へ運ぶ。
片付け終え、妻のところへ戻ると背もたれに身を預けて眠っている。
安心して疲れが出たのだろう。
起こさないように横抱きにして持ち上げ、ベッドへ連れていく。
ゆっくりとおろすが、寝ぼけた妻に手をひかれ、そのまま俺を抱きしめて眠る。
赤と白の聖霊が楽しそうに守りを強化し宙で煌めく様子に、たまにはいいか、と身を預けて目を閉じた。

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