幸せという呪縛

秋赤音

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始まらない御伽噺

8.揺らぐ景色

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最近、和真の演技にますます磨きがかかっている。
愛し合う恋人に見えなければいけないので、
本当にデートもするし、求められれば口づけもする。
ただ、そこにある温度が、なんとなく変わってきている気がする。
まるで本当に好かれているような錯覚になる。

放課後。
いつものように和真の部屋で本を読む。
今日は、和真の膝の上で横抱きにされながら。
読みにくいことはないが、落ち着かない。

「和真。重くないですか?」

「確かに重さはありますが、
姫羅がいるのが分かって嬉しいです。
どうぞ、そのままでいてください」

目を動かして様子を見るが、動く気配はない。
片腕で本を持ち、片腕を私の背に添えながら、
器用に読んでいる。
自分の本は読んでも内容が頭に入ってこないので、閉じた。

「何を読んでいるのです?」

「気になりますか?」

和真は、ページをめくる手を止めて私をみる。
その表情はとても穏やかで、甘く、温かい。

「だから、聞いたのですか?」

「そうですよね。
これは、御主人から借りた本です。
主人公が長年抱える片想いを描いたお話だそうです」

「最後まで読んだのです?」

「いえ。まだ。よかったら一緒に読みますか?」

ちょうど開かれているページに描かれているのは、辛そうな表情の男性。
なんとなく、気になった。
理由はわからないが、惹かれる。

「はい」

「…!では、初めから読みますね。
姫羅の読みやすいようにめくってください」

「ありがとう」

一瞬、動揺した気配がしたが気のせいかもしれない。
しかし、わずかだが私を抱える腕の温度が上がった気がした。
それから読み進め、最後のページをめくり、本を閉じる。

「遅くなったけど、夕飯の…」

「はい。今行きます」

「ありがとうございます」

皇さんは目を瞬かせた後、微笑みを浮かべて戻っていった。

「食事の時間です」

「そうですね」

和真がなぜか離そうとしないので、
きっかけ作りを試みることにする。

「あと何巻あるのです?」

「五巻までなので、あと四冊です」

「わかりました。後日、続きも見せてください」

この流れで膝から降りようとする。

「では、行きますか」

失敗した。
そのまま抱き上げられ、抗ったが降ろす気配はない。
諦めて、和真の首に腕を回した。
結局、食卓の椅子まで運ばれたが、
二人は慣れたように何も言わない。

食事の後、続きを読むか…と誘われた。
気になっているので、そのまま部屋についていく。
普通に隣合わせで読めることを期待したが、叶わなかった。
諦めて読み進めていると、
男性が片想いの女性を切なそうに見つめている場面で思わず手がとまる。
理由は分からないが、なんとなく綺麗に見えた。

「姫羅?」

「いえ。綺麗だと、思いました。
和真は、この方の気持ちが分かりますか?」

じっと見るが、
唇をきつく結んだまま静かに私を抱き寄せて見つめるだけ。
答えは、ない。
私のごっこにつき合ってくれるのだから、
本の男性のような想い人はいないのかもしれない。
ならば、分からなくて当たり前だ。

「ごめんなさい。変なことを聞きましたね。
続きを読みます」

それから。
本を読み終えるまで和真が言葉を発することはなかった。

「ありがとう。そろそろ寝ます」

次の本は明日にしようと思い、膝から降りようとするが動かない。
和真の腕は、さらに私を強く抱きしめる。

「和真?」

「部屋まで、送ります」

「自分で歩けますから」

そのまま和真に抱えられ、部屋のベッドまで降ろされた。
足がついただけで抱えられたまま、唇を塞がれた。
呼吸が苦しく口をあけると入ってくる舌が熱い。
意識が遠のきそうになるが、和真が離れたおかげで留められた。

「姫羅。好き、ですよ」

耳元で囁かれた言葉に体が熱を持つ。
聞きなれた声と、馴染んだ触れ合いの予兆。
演技だと分かっていても、まるで物語のような甘さ。

「和真。今は誰もいないからいいんで…っ、ぁ…、…っ」

絡んだ舌が解放されたと思ったら、和真が上へ覆いかぶさってくる。
いつの間にかベッドへ降ろされていることに気づく。
片腕は和真と繋がっていて動かせない。
強い視線が私を見下ろしている。
和真が約束を違えるとは思わないが、少しだけ怖い。

「しません。まだ」

「まだ?」

「夫婦になったら、しますよ。
仲の良い夫婦を演じるためにも」

首筋に和真の唇が触れた。
軽く吸われ、そこを舌先がなぞる。
初めて触れられたところから生まれた熱が体中へ広がる感覚。
これが不快ではないことに驚く。
ごっこをしている内に、体が変わってしまったのだろうか。

「わかって、います。
私の初めてもそれからも和真のものです」

「…!当然です。婚約者で、夫婦になるんですから」

頬へ添えられた手。その指先が私の唇をなぞる。
和真が近づいてくる合図の一つ。
今は、だめだ。
これ以上触れられると、おかしくなってしまう。
空いている片手で和真の胸を押すが、力の差は圧倒的で意味がない。

「…和真、待って、くださ…っ」

「ごめん…無理」

再び塞がれた唇は熱さを受け止め、私の理性を奪い始めた。
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