幸せという呪縛

秋赤音

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後で悔やむから後悔です

2.変わりたい、替わりたくない

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物心ついたときから変わらない風景。
時々変わるのは、担当の看護師と医師。
忙しい両親からは年齢相応の教材が贈られる。
贈り物は全て看護師から渡される。
気づけば17歳。
看護師の気遣いで増えた友人との会話は楽しいが、
同時に自分の状況も見えてしまう。
窓から見えるのは雲一つない晴天。
嫌気がさして床に投げつけると、隣の病室のドアが開く音がした。

「失礼します」

「どうぞ」

入ってくるのは医師か看護師だと思った。

「申し訳ありませんが、静かにしてください。
やっと家族が眠ったところなので」

入り口からこちらに近くまで歩いて言葉を告げたのは、青年だった。
久しぶりに会う初対面の他人に驚いた。

「聞いてます?」

「あ、はい。申し訳ありません」

「これは…確かに難しいですよね。
昨日、授業でやったけど俺も苦手です。
あ、俺、里王って言います。
俺でよかったら、勉強みますよ」

青年は投げた教材を拾い、面倒になって放置したページを見ているらしい。
苦笑は、おそらく『昨日』を思い出しているせいだろう。

「ありがとうございます。
また機会があればお願いします」

どうせ、二度と会うことはない。
自分のことは、できる限り自分ですると決めている。
病室にいる人間に勉強を教える物好きはいないだろう。
曖昧な社交辞令は便利だと、初めて思う。

「はい。また機会があれば、お願いします。
今日は帰りますね」

爽やかな笑顔で青年は静かにドアを閉めた。



「里王」

目を開けると、見慣れた天井がある。
そして、聞きなれた足音がする。

「失礼します」

「どうぞ」

里王は迷わず傍へきて、来客用の椅子へ座る。

「咲妃。今日は顔色が良いな」

「夢を、見ていたから?
里王と初めて会った日、覚えている?」

「問題が解けなくて教本を投げつけた咲妃のこと?」

懐かしむように目を細めて、嬉しそうに微笑む里王の手を握る。

「そうです」

「今は、できるようになった」

「先生の教え方が良いからね」

「ありがとう。
咲妃が解けるまで基礎からやったから伝わったのかもな」

握った手を包むように繋がれる。
なんとなく恥ずかしくなり、話題を探す。

「そ、そういえば。例のサービスはあった?」

「いいや。
指定のページはあったけど、鍵が足りないようだ」

『やり直し』を決めて、今までと同じように接しながら、
様子が別人のように変わった友人と会話を重ねた。
予想以上に同じようで違うことに気づき、戸惑う。
それを里王に伝えると、
『何かの問題に巻き込まれる可能性』からやめる提案がされた。
そこで、実行できるまで調べた後、
改めて"どうして行いたいのか"を考えることに決めた。

「鍵…秘密の暗号?」

「ご友人は、他に何か言わなかったか?
サービスを知る機会や紹介した人物がいてもおかしくない」

「そう…だね。今度、聞いてみる。
そういえば、里王。
来年はついに卒業だね」

今日はこれ以上は話も進まない。
里王の眉間の皺が深くなりそうだったので、話題を変える。

「そうだな。
進路は決めているし、勉強も順調だから心配するな。
そういえば、これ…この間、食べたいって言ってただろ」

思い出したように鞄から出されたのは、
見ることも叶わないと思っていた有名なお菓子。
最近になって医師から食すことが許可されたが、
買いに行けないので諦めていた。

「これ…」

「一緒に食べたくなった。お腹、すいてる?」

私の様子を確認するような視線にうなずく。
この後でいただく夕食も考えて控えめに食べよう。

「いただきます」

「どうぞ。
今日持ってくるって許可はもらっているから、安心して食べて」

「あ…はい。ありがとう」

いつの間にか口元へ寄せられているお菓子を頬張る。

「いえいえ」

お菓子を噛み、のみこむまでを見守り、
ニコニコと満足そうに里王。
その口にお菓子を差し出す。

「どうぞ」

「いただきます……ん、美味しい」

嬉しそうに笑った里王。
その様子に思わず頬は緩む。
気難しい顔をさせているのは私なのに、
それでも、里王が穏やかに笑っているのは幸せで。
これは、きっと、今の私たちが時間を積み重ねてきたからだ。
気づいてしまえば、知らなかった頃には戻れない。
私は他人が当たり前を過ごす様に、自分も里王といたいだけだった。
ふと、足音がした。

「失礼します」

「どうぞ」

馴染みの看護師と医師が入ってきた。

「咲妃さん、里王さん。
少しだけ、お時間いいですか?
先生から話があります」


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