影に鳴く

秋赤音

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願う乙女は永遠と咲く

4.待っていた

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初めてリンさんを知るきっかけは、
レイの依頼からだった。
動向を見張って、報告するだけの仕事。
本業と同時進行での作業だったが、
何も知らないリンさんに声をかけられ状況は変わった。
むしろ、
様子が分かりやすいということで依頼を引き受けることになった。
"町長の経歴と動向を調べる"だけ。
すでに公になっていることから始め、さらに裏側まで。
少しだけ、シキさんが協力してくれた。
調べていると、私が知りたいことも分かると知り、
作業も捗った。

人として、人間の様子を観察する…なんて。
乗り気ではないが指令なので、仕方なく来た世界。
私よりも嫌そうにする夫も一緒に。
私は一般人として、夫は研究員として、別々に暮らす。
悪魔の気配を無くすためと、
夫婦らしさのない時間が過ぎるうち、夫が私を避けるようになる。
そして、ついに会うことを拒否された。
研究に没頭するようになった夫の様子を知るため、
私は危険を承知で周囲を探っていた。
ついに死を覚悟する瞬間が来た…と思ったら、
人間に助けられた。
シキさん。
第一研究所の所長で、夫の研究仲間だと、男性は言った。
そして、仲間になるか…と誘われた。
差し出された手をとり、共に研究をする。
時折聞く、友人から見た夫の話は新鮮だった。
私がここにいることは伝わっていて、
とても安心している…と。
しかし、それでも会うことは拒否されている。
少しずつ反抗心が芽生え始めていた時、
元人間の友人レイが"息子を見張ってほしい"と言った。
自分の夫の身辺を探る理由が知りたいと。
シキさんから、同じ話を聞いていたからだ。
研究に影響がでないか不安そうにしていた。
夫に危害がないか知りたかったのでシキさんに相談する。
許可が出たので、その願いを引き受けることにした。

リンさんに頼まれたこと終え、レイからの依頼も終わった。
今度はシキさんから、情報の対価として、
リンさんとランさんを仕事場のみ監視するように言われているので、
生活は変わらない。
一つを除いて。
耳飾りは、仕事場に隠してある監視用の集音機の音を受けている。
監視を始めて一度も、
情報の悪用をした気配や要注意な異変はない。
最近は、
頻繁に出入りするようになったランさんとリンさんが和やかに会話する声が聞こえるようになった。

「レンさん。今日もありがとうございます。
大事な研究なのでやりがいはありますが、
襲われやすいので…助かります」

「いえ。友人を守れるなら、これくらい。
夫にとっても大切な人です。
それに、いつも明るい時間ですから」

「時刻は守ります。
夕刻以降に一緒だと、トワに悪いですから」

第一研究所から第二研究所へ成果の報告に向かうときは、いつも護衛をする。
念のため…は、時折、役に立つこともあった。

「トワ。元気か」

「シキ。そこに置いてくれ。
俺のは、そこに置いてあるから。
レン、腹が減った」

建物の中にある一室へ入ると、
夫はすでに座って待っていた。
レイの依頼が終わると、シキさんがトワに会わせてくれた。
人間らしく過ごす、という条件で。

「すぐ作りますから。
台所、借りますね」

台所で料理を始めるのと同時に聞こえた椅子が動く音の直後。
二人が討論を始める。昔は私もそこにいた。
懐かしさと今ある幸せを味わいながら、出来上がった料理を持っていく。

「お待たせしました」

「今日も美味しそう。いただきます」

「当然だろう。私のために作ってくれているのだからね。いただきます」

あっという間に皿を空にすると、
資料を読んでいるシキさんを放置して、
私に近づき耳に触れ、そっと飾りをとる。
飾りはシキさんに渡して、私の手をひく。

「レン。見せたいものがある」

私の返事も聞かずに研究室へ連れ入ると、椅子へ座るよう促した。
長椅子へ座ると、隣で机を指し示す。
そこにあるのは、魔法で作られた輪の装飾品だ。
小さな箱の中にあるそれは、売り物のようだ。

「綺麗…」

「だろう。レンのために作った。俺とお揃い。
指輪、というものだよ。研究員が読んでいた雑誌に、
最近、親しい者同士で流行っていると書いてあった」

仕事で読む必要がない限りは私には縁の無さそうな雑誌を想像しながら、
それを読む夫を思い描く。
そして、今、
私のためと言いながら自分も楽しそうにしている様子が嬉しい。

「知らなかった。どの指につければいい?」

「あ…、あとでシキに聞く。たぶん、知っているだろう」

私用だと、仕事よりも少しだけ隙のある様に目が離せない。
注意散漫になるほど夢中になっていたのだと思うと、
そこに愛情を感じてしまう。

「お披露目式みたい。緊張する」

「いいな。それ。そうしよう。
シキは最良の承認者だ。ゲンがいたら、もっとよかったか」

残念そうに唸る夫は、私を腕に閉じ込めながらそう言った。

「ゲンさんには、今度会うとき、お話すればいいかと。
レイも好きそうな話だから」

「そうだな。今日は、いつ出かける?」

「あと一時間ほどで。夕方になったら、またここへ戻ります」

問いに答えると、夫は私を抱き上げた。落ちないように首へ腕を回すと、
魔法で仮眠室の扉を開けて入る。
鍵がかかる音を聞きながらベッドにおろされると、
あっという間に腕の中にいた。
毛布をかけられ、腕の温かさで、思わず瞼が閉じそうになる。

「少し寝ろ。私も寝る」

部屋にある時計に目覚ましが設定された音がしたのを最後に、
私の意識は眠りへおちた。

「おはよう。お二人さん…って。トワ、それ」

研究室から出ると、ひきつった顔のシキさんが私たちを見た。
原因は、おそらく指輪。
仕事への影響はどうなのか。私の不安はそれだけだ。

「ああ。夫婦の場合は、どの指につければいい?」

無垢な青年のようなあどけない表情の夫と、
何かを思案する企み顔のシキさんは、
二人を見ている私を見てニタリと笑うが、
結果に思い至ったらしいその人は慌てている。

「あー…まあ、逆にいいかも。左手の薬指にするんだ。
って、おい。俺は承認か!」

「そうだ」

呆れたように笑い、温かな笑みを浮かべてシキさんは、ため息をついた。

「わかった」

トワは、私を見つめて微笑む。
重なる手の温もりに、
冷たい金属の輪が触れながら通っていく。
互いの指先に煌めく輪を見て、トワは私を抱き締めた。

「私の、って証。嬉しい…これで、いつでも傍にいられる」

「トワ…離れて」

「どうして?」

強くなるばかりの抱擁と、
呆れる気配のシキさんと、迫る刻限。
シキさんから、ため息が聞こえる。

「あのー…トワサン。俺、ここにいますよ。
あと、レンさんはそろそろ戻る時間ですからねー」

「レンの家は、ここだ」

「はいはい。わかったから、離しなさい。夕方には会えるだろ?」

「…しかたない」

離れた温度に寂しさを覚えるが、意識を切り替える。
少しの失敗も許されないのだから。
シキさんが手渡してきた装飾品を耳へつけ直す。

「ここに、帰ってきます」

「ん」

私の頬へ唇を落とすと、
まだ触れたままの指先を撫で、離れる。

「トワ。資料で気になる箇所があったんだが」

「どこ」

表情が厳しいものに変わり、身を翻してシキさんのところへ向かう。
賑やかな討論を背に、部屋を出た。
建物を出て仕事場へ行く途中、
依頼人に指定の物を渡す。
交換で預かった物を鞄へ収めて、仕事場へ向かう。
扉を叩いて声をかけ部屋に入ると、
慌てた顔をしたリンさんが私を見る。

「お疲れ様。預かったか?あと、これ。新しい仕事だ。
あと明日から三日の間は休む。レンさんもゆっくりして」

「こちらです。わかりました。では、私は帰ります」

「お疲れ様」

リンさんは、私に背を向け、専用の書斎の扉を開ける。
閉まる直前の一瞬、服が少し乱れて眠っているランさんが見えた。
仕事場を出ると、背にした扉に鍵がかかる音がした。
ランさんの出入りが増えてから二つになった鍵は、愛情と執着の証だろう。
リンさんの仕事場兼自宅になった場所から、歩く足を速くして去る。

「おかえり」

二人だけに許された秘密の扉を開けると、体に馴染む暗闇。
すでに待っていたトワは、私を見て微笑んだ。
第二研究所かた近いこの場所は、トワの自宅兼趣味の研究室。
第二研究所の研究室へ繋がっていて、魔法を使えば一瞬で行ける。
私の自宅は万が一の備えであるが、
管理程度に行くだけで帰ったことはない。

「ただいま」

「何か、言われた?」

私に近づいて、仕事用の鞄を私の手からとりあげる。
指定の場所に魔法で浮遊させながら置くと、
私の左手をとり、指先を絡めとる。

「新しい仕事と、三日間の休日を頂きました。
あとは、何も」

「そう。今頃は番と蜜月かな」

ふと、飾りから仕事場から物音がした。
おそらく、書斎の扉が少しだけ開いた音。
そして、どこからか、何かが振動する音と呻き声。
その後、リンさんの足音と水が落ちる音がする。

「蜜月?」

普段と様子が違うので気になったが、
トワに飾りをとられたので分からない。
そして、トワは飾りに何か魔法を使った。

「これは…大丈夫だろう。
もう、仕事の時間は終わり。
音声は、録音とシキのところある予備へ転送するようにした」

「あ…うん。ありがとう。
どこへ行くの?」

「風呂。一緒に入る」

揺るがない意識で動く様子のトワは、そのまま手を引いて、
先に私を浴室へ入れた。
トワは見張るような目で私を見ながら服をぬぐ。

「私も脱ぐから、一度出る」

「ダメ」

すると、トワは私を壁に追いやり、頭から湯を浴びさせた後、
肌にはりついた服に手をかける。
破られた布に特別な愛着はないが、
新しく調達するのが面倒だと思った。

「これ、もう着られない」

「また作ればいいだろう。惜しむものではない」

「そうだけど…めんどくさい」

「ならば、私が作る。
ちょうど、研究員が譲ってくれた雑誌に良さそうな物があった。
休憩時間というのは、良いものだな」

本当に譲られたのかは分からないが、
満足そうに微笑むトワ。
これは、おそらく断っても影で作られているだろう。
休憩時間ができたこと。
趣味の雑誌を持ち込んで読める油断が良いかは微妙だが、
追い詰められているよりはマシに思えた。
町長依頼の研究がなくなり、
研究所に流れていた緊迫感はなくなった影響だろう。

「断っても、作るのでしょう?」

「よく分かっているな。さすが我が妻。愛しているよ」

「愛しているなら、早くここから出して。
身を清めるためにきたのよね」

「いや。採寸も兼ねる。最近はきちんと触れていないから。
どうせ着るなら、綺麗なものがいいだろう」

トワは、破った布を肌から剥がしてる。
それらは、浮遊して浴室の隅に落ち、
全てが揃うと一瞬で燃えた。
触れられた箇所はジリジリと熱を帯び始め、
同時に感じた寒さで濡れていることを思い出す。
中途半端に濡れている肌はいつの間にか冷えていた。

「寒い」

「でも熱い、だろう?」

「……っ!ぁ…っ、トワ。まだ、ダメ…っ」

温もりを与えるように片腕で抱きしめられて、
耳からは情欲のこもる音が注がれる。素肌が触れあい、
何度も首筋を甘く噛まれて燻る熱の温度があがる。

「お腹すいたし…ここで、済ませよう?お風呂とご飯」

「確かに濡れる、けど…っ。約束…は、ぁっ!」

「我慢できない」

トワは甘噛みをやめないまま、
あいている片手は私の柔いところへ触れそうになっている。
私は、その手を止めようとするが、
差し出した手は欲望に従順な指先に絡めとられた。

「ん…っ、しらない、から、っ…ね」

「うん。いただきます」

首筋の皮膚を破ってきた牙と、
血を啜る舌の感触に体が疼く。
血がぬけた分だけ入ってくる魔力は、
私の理性を削いでいく。

「……っ、トワ…もう、…っっ!」

「…ぁ、うん。もらった分は返す。…どうぞ?」

限界を訴えると、トワは離れた。
そして、フラフラする私を抱き上げて、
そのまま置いてある椅子に座ったトワの上に私をのせた。
目線の先には、無防備な首筋。
思わず喉が鳴る。

「いいよ。どうぞ」

「いただきます…っ」

少しだけ牙を立てると、滲んできた鮮血。
それを溢さないように舐める。
すると、撫でるように後頭部へ手が差し込まれた。

「遠慮するなよ。後が辛い」

「ん…っ、でも…っぁ…っ」

「どっちがいい?」

私の横腹を緩やかに撫でる手は熱く、
腰から足のつけねのギリギリまでくると止まる。

「のむ、から…っ、やめて…ね」

「うん」

遠慮をすればイタズラが待っている。
血を抜かれたままだと自分が辛いのは正しいので、
同じくらいを頂いた。
血を飲んだ後、体が熱くなって意識が途切れた。
ぼんやりとした頭がはっきりすると、怠い体が重く感じる。
満足そうに微笑むトワは、やっと風呂場に相応しく身を清めようと言った。
しかし、自分のことを自分でするのは許されず、
採寸と言いながら隅々まで泡だらけにされた。
血を飲み交わした後で過敏になっている体には辛く、
結果、私はのぼせたような状態になる。
目の前で体を洗うトワを眺めた後、
再び抱き上げられてベッドへ運ばれた。
一緒に座るトワは、その場で魔法で器に入った水を二つ出すと、
その一つを私の手に持たせる。

「ありがとう」

「うん」

渡された水が半分なくなったところで、
乾いた体は落ち着いた。
飲んだあとで、意外に飢えていたことに気づく。

「落ち着いた?」

「ん…、ごちそうさまでした」

「私も、ごちそうさまでした」

心地よい熱さと温かさが巡る体は、
眠気で重くなり始める。
分かっていたように、
トワは私を抱き上げて寝かせる。

「トワ…熱い」

「また今度。今日はおやすみ」

優しい腕に抱き寄せられると、
瞼の上に影ができる。
私は抗うのをやめて、眠りにおちる。

「レン。帰ろう」

意識が薄らぐ中で、切ない声の願いが聞こえた気がした。
翌朝。冷たい空気と温かな感覚で目が覚めると、
目の前にはトワの素肌がある。
昨日のことを思い出すと熱くなる体に染みる冷たい空気が、
朝だと思い出させてくれた。
そして、身動きがとれなくて焦る。
仕事に行かないと…と思ったが、休みだったのを思い出す。

「レン…どこへ行く?」

胸の圧迫感と体の拘束感が強くなり、
温もりがより近くなる。
そこで、やっと抱き締められていることに気がついた。

「トワ。どこにも、行かない」

「うん。レンの家は、ここなんだから」

抱擁が緩くなったと思うと、次に見えたのは天井だった。
そして、首筋を甘く食む柔らかさ。
何が起こったのかを頭が認識するより早く、
再び温もりが私を包む。

「トワ?」

「お腹すいた」

そう言ったトワは、
まだ塞がっていない傷口に触れるだけの口づけを落としながら、
私の腹をそっと撫でる。

「ご飯、作るから…」

動いてほしい、とは言えなかった。
大きく鼓動がなると、
体の底から沸き上がる飢えが襲う。
体は、トワの血を欲している。
目の前にある首筋に残る傷から目を離せない。
渇く喉が唸る。

「お腹、すいただろう?」

「トワ…」

耳元で囁く言葉に返すのも惜しく、
ゆっくりと離れようとするトワの肌へ片腕を伸ばして触れる。
すると、その手にトワの手が重なる。

「レン、帰ろう?
実はね。向こうに、呼ばれているんだ」

「研究は」

「シキが続ける。手伝い程度の繋がりは残る。家も残す」

呼ばれている。
ということは、新しい指令があるのだろう。
今の指令に終わりが告げられた。
不安と安堵に心が揺らぐ。
揺らぐことで、
人らしい生活に馴染み過ぎてしまっていることに気がついた。

「なら、帰る」

「うん。帰ろう」

包まれている手が解かれ、するりと絡む指。
トワは、嬉しそうに微笑んだ。
もう一度、私の首筋へ口づけた後で、
そこへ強く吸いついた。
おそらく、痕が残っている。

「お腹すいた」

素直にそう言うと、嬉しそうに笑い、
同じ場所を甘く噛む。

「先に食べる?」

「後でいい」

私がそう言うと、ゆっくりと体を起こされる。
向き合って座るような体勢になり、再び抱きしめられる。

「いただきます」

優しい声とは反対に遠慮なく貪るような食事が終わると、
やはり私にも同じことを求めた。
許可が出ると夢中で喉を潤し、
肌に落ちる一滴まで舌先で舐めながら空腹を満たす。
身体中に温かな魔力が巡る感覚が心地よい。

「お腹いっぱい?」

嬉しそうに微笑むトワは、何かを企むような声でそう言った。

「いっぱい、です」

「よかった。こっちも、満たしてくれると嬉しいな」

あいていた片手をとられて、下肢の昂りに誘導される。
少し触れただけで手に絡みつく白濁に、腹の奥が熱くなる。
手の中にある質量は擦る度に増す。
同じように、
自身のナカは熱を欲しがり、すでに潤んでいるのが分かる。

「入れていい?」

「加減して」

「うん」

トワは、上機嫌な声で私を自分の膝の上に乗せる。
大きく足を開くことで秘部から溢れる水は、
足を伝いおちていく。

「お預けが効いたかな?」

「わからない」

片手で腰を撫でられながら言われて思い出すのは、
昨日のこと。
今思えば、久しぶりのことに慣らされていた気もする。
食事も、触れ合いも。
トワの魔力をもらうたびに、私の中で育っていた"人らしさ"は、
どんどん小さく、遠くなる。
擦れ合う度に身体全てへ刺激が走る。
やけに大きい気がする水音が聴覚を支配していく。
息をするのが苦しい。

「でも、気持ちよかっただろう?
我慢するの、苦労した」

嬉しそうだが少し拗ねたように言うHは、
仕返しとばかりに焦らしている。
耳元で囁かれ、水音と共に聞こえる声は情欲を伝える。
それと同時に、昂りをナカには入れず、
熱は器用に表面だけを反複してなぞる。
もどかしいのに、心地よい。
時折突起を撫でる動きは、おそらくわざとだ。
熱さでのぼせて、息のしかたがわからない。

「わか、ら…っ、ない…っ!」

「そうか」

楽しそうな声は揺れている胸をつかみ、柔く包む。
ただ、それだけ。
手があることで少しの揺れから生まれる違和感に戸惑う。

「それ、い、や…ぁ、あっ!ぅん、んっ、や、め……っ」

「レン、気持ちいい?」

私に問う艶のある声は、胸の核をゆるく撫でる。
触れられるたびに増す苦しさから逃れたい。
だんだん何かが遠くなる。
一人になっていく。
怖い。
傍にいてほしいだけなのに。
強請れば、いいのだろうか。

「あ、つ、い…っ、くるし…っ、トワ、トワっ…ゃぁっ!」

擦れている所から、水が跳ねた音がした。
一瞬、ナカへ入った昂りは、
浅いところを数回撫でて出ていった。
離れないでほしかった。
少しだけ孕む熱が溶け合った感覚に、
私は熱を追いかける。
体中が熱い。
苦しい。
喉が、渇く。

「意地悪がすぎたかな。ごめんね」

胸の違和感が消え、下肢の水音も止んだ。
すると、首筋に熱い手が触れる。
傷の近くに添えられて、一瞬、息が止まる。
水と空気を求めて渇いた喉が唸る。
傷、どうして、傷があるのだろうか。

「…っ、トワ…っ?」

「そういえば、私たち。
人間のときは夫婦らしいこと、なかったね」

「う、ん…っ?」

辛そうな顔のトワが、私を見た。
当たり前のことを言っている。
それなのに、どうしてだろう。
私が、そうさせてしまっているのだろうか。
回らない思考で、でも、少しでも寄り添いたくて、
苦しい体を何とか動かし、
首筋にある手に自分の手を重ねる。

「人間のレンも、もう、レンの一部になっているんだよね。
そして、私も…レンは人間になっている私をいつも見ていてくれた。
だから、一人ではないと、安心していたんだよ」

「トワ?」

重なっている手は、トワの指先が動いて私の指先に絡み、
一つになる。
なんとなく、安心した。
瞬間、体の熱さと息苦しさが穏やかなものに変わる。
同時に傷が、触れている下肢が、疼く。

「レン。ありがとう。ごめんね。
もう、一人にしない。
ずっと、一緒にいよう」

「うん…っ、ずっと、一緒」

トワは、私に誓うような口づけを、
繋がっている手の甲に落とす。
そして、情欲に染まる瞳が私を見た。

「いれても、いい?」

「すべてを、満たしてほしい」

飢えている。
今ならわかる。
私の全ては、トワの全てに飢えていた。

腰を浮かせると、昂りが少しずつ入ってくる。
なぜか途中で止まり、戸惑いながらhを見ると、
私を見つめていたであろう瞳と視線が合った。
温かく、欲深く、包むような色だった。

「レン、愛しているよ」

「トワ、私も愛して…っ!!…んっ!んんっ!」

唇を塞がれた瞬間、一気に奥まで満たされた。
白みそうな意識は、口内を貪る舌の感覚で繋がれる。
離れていた時間を埋めるような深い交わりに、溺れた。
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