影に鳴く

秋赤音

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願いの果てに

2.傍にいたい

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その言葉は、あまりにも日常すぎた。
それでも、非日常を生きる私には大きな衝撃だった。


今日は一人で魔物退治へ向かったレン。
せっかくの休みなので街を歩いていると、
見知ったご令嬢腕を掴まれた。

「ライさんに、お見合いの話が来ています。
知っていますか?
いい加減、そろそろ解放してもいいと思うんです」

知らなかった。
おそらくレンが潰したりしていたのだろうけれど、
そうでないなら…都合よく潰せない人直々の話なのかもしれない。
なんにせよ、私にできることはない。

「知りませんでした。
仕事のことも含めて、決めるのは当人だと思います」

「その話が進まないから、あなたに言っているのよ!
察しが悪いわね…私、彼と結ばれたいの。
幼馴染なら、なにか言いなさいよ」

「勝手なことはできませんので。
失礼します」

やんわりと腕を離そうとするが、離れない。
困っていると、聞きなれた声がした。

「何をしている」

「メイ」

戦闘後の雰囲気もあり穏やかではないレンは、
私とご令嬢を見て眉間にシワをよせた。

「離してください。治癒士に何かあっては困ります」

「それは…でも、代わりなんて」

「では、聞きますが。
あなた様は、自身を対価に誰かを如何なる病でも癒すことができますか?
癒しながら、強い結界を張り続けることができますか?」

レンの言葉に顔を青くしたご令嬢は、もつれる足で駆けて行った。

「帰ろう」

「はい」

家に帰ると、空腹を刺激する良い香りが漂っている。
玄関から居間へ進むと、食事を作るライが見えた。

「メイ。レン。おかえりなさい」

「「ただいま」」

レンはライがいる台所へ行き、
互いに頬へ口づけを交わしている。
何度も。
目の前のやりとりに、料理器具も熱くなっている。

「続きは私がします」

「察しがいいな。ライ、一緒に風呂へ行こう」

「え?待って。メイ、ごめんなさい」

「慣れています」

レンに手をひかれているライを見送る。
おそらく安全のために開け放たれている扉。
時折だが甘い悲鳴を聞きながら、
ライが作りたかったであろう料理を完成させる。
ちょうどよく身支度まで終わって出てきた二人が席につく。
ライは親からの婚姻の申し出を断れず困っている、と言った。
食べ終えると、手早く片付けをする。
お風呂へ入り終え、結界がある寝室に入る。

「メイ。結界番、交代」

「はい」

結界に癒し効果もつけて維持すると、
レンは一度モノをぬいて、
仰向けで蕩けた表情のライをうつ伏せにする。
続きを待つように高く腰を上げているライの窄まりからは、
白濁が滴って足に伝っている。

「待って、さっきイったばかりで…っ」

「だから、いいんだろ」

「レンは良くても、僕、ぁ、あっ、我慢、できな…っ」

律動が始まると、あっけなく快楽へと身を預けたライ。
気持ちよさそうに腰を振りながら、何度も達している。

「そうだ。何度でもイけばいい」

「レン、きもちい、ね、だして、奥…っ」

「ああ。くれてやる」

そして、レンは呻くように、ライは甘く喘いで同時に達した。
脱力したライを抱きしめたレンはしばらく動かない。
そのうちモノがぬかれると、こぼれた白濁。
レンの指がそれをすくうと、ライは赤面する。

「あの家は、そのうち変わる。安心しろ」

「わかった…」

ベッドへ身を預けて眠り始めたライ。
穏やかな寝顔に安堵した。

「なにか、あるんですね」

「ああ。そのうち分かる」

丁寧にレンを寝かせたライは、そのままライを抱きしめる。
そして、私に反対側で眠るよう手で指示をした。
ライの隣へはいると、レンは眠り始めた。
穏やかな寝息を確認し、ライに背を向ける。
身の内に燻る熱を殺して、目を閉じた。

それから。
何もなく穏やかに時間が経っていく。

数日後。
一つの家族が消えた。
不正が明るみになった家は前当主の親戚が続けていく。
そう、少しだけ話題になって空気と化した。
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